第50話 悩めるシーザリオ
アレグリアが涙目で『ハヤト…ごめんね。私、余計な事をしちゃったみたい…』という目をして俺を見つめる
俺は笑って首を振り、シーザリオ様と話を進める事にした。
「シーザリオ様、まずはこれをお返しします」
俺は金貨を一枚出して、シーザリオ様の前に置いた。
「ふふっ…わかりました」
シーザリオ様はそう言うと、金貨を手に取った。
「ハヤト、やはり魔法の事を聞かなくてはなりません。なぜ、自分が魔法を使えると分かったのか。そこを正直に話してください。正直に話してくれたなら悪いようにはしませんよ」
「どうしても答えないといけませんか?」
「はい。拒否はできません」
「わかりました。俺は異世界人で、こちらの世界に転移をする時に、創造神マリア様の加護を付与してもらいました。マリア様から魔法が使えると言われているのです」
「……………」
シーザリオ様は無言で俺の目を見据えている。
そして
「私に今の話を信じろと?」
「はい。全て本当の事ですから…。信じてもらうしかありません」
「ふぅ~。もしかして…と思ったが、本当にマリア様の加護を…」
シーザリオ様は目を閉じ考え込んだ。
重い空気が漂う。シーザリオ様がその気なら、俺は間違いなく捕らえられる…が、そうはならないという確信がある。
「俺を鑑定してもらっても構いませんよ」
冗談めかして言ってみた。
「ふふふっ、鑑定スキルか…。そんな夢の様なスキルがあれば苦労はしないのですけどね」
シーザリオ様は苦笑いを浮かべて言った。
「夢の様なスキル?」
「えぇ、そんな都合の良いスキルはこの世には存在しません」
「えっ!?でも、もう亡くなったけど隣国の老人が持っていたのでは?」
「これはトップシークレットですが…嘘ですよ。すでに調べはついています。まあ、最後まで嘘をつき通して亡くなったのです。いまだに信じている人間も少なくはありませんが…」
「そうなのですか…」
「考えてもみなさい。他人の能力や考えが分かる『スキル』などが、この世にあったとしたら…」
「あったとしたら?」
「持っている人物をめぐり、戦争が起こるでしょう。まあ、魔法使いは稀有な存在なので、どの様な能力だとしても、すべての国が欲しがりますが…。その中でも、もし本当に鑑定スキルを持っている人間が存在したなら…戦争は避けられないと思います。」
「……………」
俺はしばらくの間、目を閉じて考える。
(やはり魔法を使えるようになりたい。いつかスキルの事がバレるのは間違いない。その時の為に、自分自身を守る力が欲しい。ずっと、アレグリアに守ってもらうわけにもいかないからな)
俺はシーザリオ様に全てを打ち明ける決心をした。そして味方になってもらう。
幸い、店にはもう招待客はいない。
今はシーザリオ様とメサイア様が残るのみで都合がよい。
「俺と取引をしませんか?」
「取引とは?」
「シーザリオ様は俺を魔法を使えるようにし、俺はシーザリオ様の協力者になる」
「………あなたは自分にそれだけの価値があると?」
「はい。シーザリオ様が視察に行くたびに地元の冒険者や強者と戦うのは、自分の力になる人材を捜しているのでしょう。あなたは数年前の隣国との戦いで勝利に大きく貢献し、領地を得た。しかし、領地経営は正直上手くいっていない。なぜか…人材がいないから」
「!?」
シーザリオ様は無言で聞いているが、その表情はかなり険しい。
「ふ~う…ハヤト、君を初めて見た時に感じた違和感は異世界人だったからですか…。しかも、創造神マリア様の加護を持つ…異世界人ですか。前代未聞ですね。それに…普通の人間が知り得ない私の情報もなぜか知っていると…」
シーザリオ様は大きく息を吐き言う。
「シーザリオ様も水の精霊様の加護を持っていますよね」
「…なぜ知っているのかは聞きません。今までの流れから、大体の想像はつきますから…。考えたくもない想像ですが…。しかし、精霊様の加護を持つ人間ですら稀有な存在。そして精霊様の上に立つ各神様の加護をもつ者の話など聞いた事がありません。しかも、その神様達を束ねる創造神様の加護を持つ異世界人の存在など、簡単に認めるわけには…」
シーザリオ様は今度は頭を抱えて黙り込んでしまった。
「シーザリオ様…大丈夫ですか?」
「…大丈夫じゃない!!」
「申し訳ないです。少し休憩を取りましょう」
「あぁ…」
「アパパネ!!何か飲み物を持ってきて!!」
「はい!!」
俺は少し離れたところでテーブルを片づけていたアパパネに飲み物を頼んだ。
深刻な顔をして考え込みながらお茶を飲むシーザリオ様。
俺も一旦席を外し、外へ出て気分転換をする。すっかり日が暮れていて辺りは暗くなっていた。ただ今日は満月らしく、街灯が無いわりにかなり明るかった。
【シーザリオ視点】
(また来るので、返さなくてもいいと言いましたが…。まじめで誠実な男の子のようですね。一安心です。どうか私に『非情な手段を取らさせないでください』と思わずにはいられません)
私はハヤトから金貨を受け取る。
そして再度、どうして魔法を使えると分かったのかを問う。
(どうか正直に答えてください。話の内容次第では、あなたの力になれるかもしれませんから…)
ハヤトが私の目を見据えて答える。
「わかりました。俺は異世界人で、こちらの世界に転移をする時に、創造神マリア様の加護を付与してもらいました。マリア様から魔法が使えると言われているのです」
(…もしや、と思ってはいましたが、本当に創造神マリア様の加護を…。しかも、異世界人ときましたか…)
私はすぐには返答ができず考え込んだ。
(彼が私に与えているプレッシャー。無意識なのでしょうけど、それでも彼が内に秘めている巨大な力がうかがい知れる。彼の言葉には偽りは無い。しかし今なら、私の力だけで彼を始末…否、現時点ではできない。私の中で憂いより、期待感のほうが遥かに大きい)
ハヤトが『俺を鑑定してもらっても構いませんよ』と、おどけて見せる。しかし私には『俺、鑑定スキルも持っていますけど!!』と言っている様にも聞こえた。
(…どうすればいい)
混乱して頭の中が真っ白になった時、ハヤトの声が聞こえた。
「俺と取引をしませんか?」
そんな事を提案してきた。
ハヤトは私が水の精霊様の加護を持っている事、人材を探している事、領地経営が上手くいっていない事を知っていた。
(もしかして…!?転移して来た異世界人が特殊な能力を持っているという話はよく聞く。ハヤトは鑑定スキルを持って…)
私は疑心暗鬼になり、不安になる一方であった。
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