聖バレンタイン

入江 涼子

第1話

 私はバレンタインデーにご褒美チョコを買いに、コンビニを訪れた。


 チョコの販売コーナーにて、値札やデザインなどを見ながらじっくりと吟味する。一つ目はお値段が八百円、二つ目は千円、三つ目が六百円か。どれもパッケージはオシャレで可愛い感じだ。さて、どれにしようかな。一つ目は小さな箱でリボンや包装紙が淡いピンク。中身も四個くらいでお手頃だ。二つ目は中くらいで色も青だが。中身は六個とボリュームがある。三つ目が小さいながらに、オレンジ色が主体になっていた。中身も五個となかなかだが。迷う、確実にだ。うーんと唸りながら、三個目を手に取った。

 よし、これにしよう。色味や数、お値段も丁度良い。私はレジに行き、精算を済ませた。


 バレンタインデーらしいレース調の可愛いビニール袋に入れてもらう。まあ、もう四十路も近いけど。たまにはいっか。そう思いながら、コンビニを出る。店員のお姉さんが明るい声で送り出してくれた。


「ありがとうございました!」


 ガラス製のドアを開けて、アスファルトの道路に出る。ふんふんと機嫌よく、歩いた。ちなみに、六個入りだから一緒に暮らしている母と分けっこできるな。母の喜ぶ顔を想像しながら、家路を急いだ。


 自宅に着くと、玄関にてパンプスを脱ぐ。


「ただいま!」


「お帰り!」


 母が元気よく、声を掛けた。私はレース調のビニール袋を提げながら、母に言った。


「仕事帰りに、チョコを買ってきたよ。後で一緒に食べよっか」


「あら、あんたがね。いいわよ」


「わかった、じゃあ。メイク落としと着替えに行ってくるね」


「うん、夕飯はもう出来てるから」


「はーい」


 母に言われて、返答する。洗面所に行き、メイクをクレンジング剤で落とす。次に、洗顔フォームでも洗う。よくすすいだら、タオルで水気を拭いた。

 後でお化粧水や乳液を塗り込んだ。ぱぱっとしたら、ヘアピンを外す。二階に上がり、普段着の黒のスラックスにグレーのトレーナーに着替えた。厚手のもこもこした淡いピンクの靴下も履く。さて、一階に降りよう。階段を降りた。


 夕食を済ませた。今日は白ご飯にワカメとお豆腐入りのお味噌汁、ぶり大根、ほうれん草のお浸しだ。和風だが、母なりに栄養面も気を使ってくれている。感謝しながら、食べたが。デザートに買ってきたチョコを開けた。リボンを解き、包装紙を剥がしたら。箱は薄い黄色だ。蓋も開けたら、六個の片手に載るくらいのサイズのショコラが入っていた。


「美味しそうねえ」


「うん、母さんから先にどうぞ」


「食べてみるわね」

 

 母が頷きながら、ショコラの一つを手に取った。パクリと口に入れ、咀嚼して。飲み込んだ。


「……うん、ほんのり甘酸っぱい感じね。これ、オレンジピールが入ってるのかしら」


「そうなんだ、私も食べてみる」


 自身でも手を伸ばして、口に運んだ。パクリと一口で食べたら。確かに、口内に柑橘系の香りと甘酸っぱい味が広がる。オレンジピールが入っているのはその通りのようだ。

 私と母は交互にショコラを手に取り、ぽつぽつ話しながらデザートの時間を過ごした。


 私はデザートを終えると、母と二人で夕食の後片付けをする。


「ねえ、あんたさ。私にチョコをくれるのもいいけど。彼氏さんにもあげなさいな」


「……いきなり、どうしたの。母さん」


「だって、あんた。本当は彼氏がいるんじゃないの?」


 私は母の鋭い一言に即答ができない。いや、彼氏はいるんだ。けど、アイツったら私に内緒で若い娘と浮気してるし。だから、つい一ヶ月前に別れを切り出した。まあ、今はフリーとだけ言っておこう。


「母さん、私ね。今は彼氏はいないよ、アイツさ。浮気してたしね」


「……え、浮気?!」


「うん、アイツとは一ヶ月前に別れてるよ」


 はっきり言うと、母は黙ってしまう。その後は気まずい中、皿洗いを淡々とこなした。


 夜の午後九時過ぎに、入浴を済ませた。自室に行き、洗った髪をドライヤーで乾かす。私はショートにしているが、きちんと乾かさないと朝方に困る事が多い。まあ、髪質が硬いせいだが。トリートメントをしていないとゴワゴワしやすいし。

 一通り、できたらドライヤーのスイッチを切る。


(ふう、明日は土曜日ね。休日だから、ゆっくりしようかな)


 そう思いながら、鏡台の椅子から立ち上がった。ベッドに向かう前に照明を消した。

 ベッドに入り、眠りについた。よし、来年までには新しい彼氏を探してみますか。内心で決心したのだった。


 ――終わり――

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聖バレンタイン 入江 涼子 @irie05

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