第18話 魔術の武器の作り方


 翌早朝。


 マサヒデとシズクが素振りをしていると、カオルが庭に下りてきて、


「おはようございます」


 と、マサヒデの横に立った。

 マサヒデは手を止めて、


「おはようございます。昨夜は遅くまでご相談をされていましたね」


「ええ、まあ・・・色々と細かい所まで考えましたので」


「そうですか。で」


「本日は、これから道場の方へ行きたいのですが」


「急ぐんですか?」


「あの流星刀と引き換えに、カゲミツ様に何か頂ければ、と」


「ああ! 良い物を出してくれると良いですね」


 マサヒデもカオルも笑った。


「早く帰る事が出来ましたらば、奥方様に洞窟へ連れて行ってもらおうかと。

 運ぶだけなら、急げば往復で四半刻もかからないそうです。

 ご主人様、シズクさんも如何です?」


「そういえば、洞窟の中は、魔術が使えないんでしたね。

 クレールさんも行くんですか?」


 カオルは頷いて、


「足を引っ張りますので、探索には加わりませんが、あの景色は見たい、と。

 ただ、洞窟のすぐ側でも魔術は上手く使えないそうです。

 少し離れた所に、休息所を作って頂けるそうで」


「ふうむ。行くなら、ラディさんと、アルマダさん達も誘ってきましょうか。

 鎧を着ていなければ、クレールさんでも運べるから、帰りも問題ないでしょう。

 シズクさんは・・・帰りは、マツさんを呼んでですね。

 マツさんは仕事に交渉に、忙しくて来られないでしょう。

 悪いですが、マツさん抜きで洞窟観光と行きますか」


「ふふ。楽しみですね。では、急いで行って参ります」


「父上には出し惜しみされないように、気を付けて下さい」


「は。朝餉の支度も済ませております。

 お手数をお掛けしますが、冷めておりましたら温めて下さい」


「いつもありがとうございます。では、お気を付けて」


「行って参ります」


 と、カオルは頭を下げて出て行った。

 シズクも素振りを止めて、


「洞窟、行けるんだね! 早く行きたいなー!」


「そうですね。私も楽しみです。

 私はすぐ朝餉を食べて、アルマダさんとラディさんのお誘いへ行きます。

 昼は空けてもらいませんと。ギルドの稽古は遅れますが、必ず行きますので」


「分かった! 先に行って稽古始めておくよ!」


「よろしくお願いします」



----------



 急いで朝餉を食べ、近い順にと、職人街に歩いて行く。

 工房へ向かいながら、はたとマサヒデは思い付いた。


 もし、魔力のこもった鉱脈があったとして。

 ラディの父は、それを使って、何か打つことが出来るだろうか?

 もちろん、あったとしても鉱石の種類にもよる。


 例えば、鉱脈が鉄だった。鋼に出来た、として。

 普通に打つだけでは、魔力があるだけで、魔術を帯びた武器にならないのでは?

 では、どうすれば、魔術のかかった武器になるのだろう?


 これは、鍛冶師の領分なのか、魔術師の領分なのか?

 それとも、両方が協力して作るのだろうか?

 マサヒデは小さく首をひねりながら、早朝の職人街を歩く。


 ホルニ工房に着き、とんとん、と扉を叩いた。


「おはようございます!」


 しばらくして、ラディが出て来た。


「あ、マサヒデさん」


「おはようございます。朝早くから、すみません」


「いえ。何か?」


 ちょい、とマサヒデが笠を上げ、


「中へ入れてもらえますか。ちょっと内密なお話が。

 お父上にもお聞きしたい事がありますので、出来れば」


 内密と聞いて、ちらちらとラディが通りを見回す。

 早朝の通りに人は少ない。

 マサヒデの顔は、別に緊張したものではないが・・・


「どうぞ。すぐ、お父様を呼んできます」


 マサヒデが入ると、ラディが戸を閉めて、鍵を掛けた。

 カウンターの前の椅子に座ると、すぐにラディとラディの父が出て来た。

 マサヒデは立ち上がって頭を下げ、


「朝早くから、申し訳ありません。

 実は、先日の地震で、凄い物が見つかってしまいまして」


「地震で? 凄い物?」


 ラディと父が胡乱な顔になる。


「あれは地下に溜まった魔力の噴出でした。

 つまり、魔力異常の洞窟が出来たんですね。

 とても稼げるらしいので、まだ洞窟が出来た事は秘密ですよ。

 場所はマツさんしか知りません。という事で、この洞窟の事は内密に」


「はあ」


 ラディも、ラディの父も、ぴんと来ない顔だ。

 にや、とマサヒデが笑う。


「ところで、魔力異常の洞窟からは、魔力のこもった鉱脈が見つかるとか」


 は! と2人が目を見開いた。


「さて。ここで、お父上にお尋ねします。

 もし、鉄が見つかったりしたら、それで何か作れるでしょうか。

 まだ中を見に行ってもいませんので、あくまで、もし、の話です」


「・・・」「・・・」


「そういった鉄を使いますと、魔術の掛かった物が、作れるのでしょうか?

 私はその辺に疎くて、お聞きしたく」


 ラディの父は顎に手を当て、神妙な顔で、


「トミヤス様。もし鉱脈があり、もしそれが鉄だったとしてもです」


「はい」


「ただの鉄鉱石から玉鋼にすると、大体、元の量の1割程になります」


「そこまで減ってしまうのですか?」


「はい。勿論、採れた鉄の質にもよりますが、大方はそのくらいになります。

 さらに、玉鋼を叩いていくと、また1割と言った所です」


 マサヒデは驚いて顔を上げ、


「そんなに減るんですか!? いや、知りませんでした・・・」


「鉄の質によっては、もっと減りますな。

 刀身の重さを、軽めで1斤(約600g)としますと・・・

 100斤(約60kg)もの希少な鉱石を使う事になります」


「ううむ・・・そんなに使うんですか・・・」


「魔力のこもった鉄の鉱石となれば、精錬せずとも、下手な宝石よりも高い物。

 鉱石のまま、そのまま売った方が宜しいでしょう。

 魔術の掛かった作でも、楽に買える額を稼げましょうな。

 まあ、市場に出ていれば、の話ですが」


「なるほど。売ってしまって、魔術の掛かった物を買った方が良い、と。

 ふうむ、良く分かりました」


 マサヒデは頷いて、道々疑問に思っていた事を聞く事にした。


「では、もうひとつ。

 魔術の掛かった、ちゃんと使える作は、こういった鉱石で作るのですか?」


「その通りです」


「それは、普通に打てば、出来てしまうものでしょうか。

 それとも、魔術師も一緒に、何か魔術を込めながらとか?」


「普通に打てば、出来てしまいます。

 おおよそ、土だとか火だとかくらいは、洞窟に行けば分かります。

 その辺りは、魔術師であれば、漏れ出ている魔力で分るのですな」


 隣でラディが頷く。


「どんな形の魔術になるかは、打ってみないと分かりません。

 打ち上げた形か、打った者か、打ち方か、鉱石の質か、熱か、これら以外か。

 何によってどんな魔術になるか、未だに分かっておりません」


「なるほど」


「風の魔術がこもった場合、ただ軽くなってしまうだけ、という事もあります。

 軽くする事は、後からでも簡単に出来てしまいますな。

 となれば、希少な鉱石が大量に無駄になってしまいますが・・・」


「同じ風の魔術でも、かまいたちの術のような物だと、恐ろしい物になる、と」


 ラディの父は深く頷き、


「如何にも、その通りです。もしそんな物が出来てしまったら・・・

 ううむ、おそらく、魔剣の申請も通ってしまいましょうな」


「でしょうね。では、お父上。最後の質問というか、まあ、確認です」


「はい」


「もし、鉄の鉱脈があったとして、です。

 そのうち、十分な量を、私の好きにして良い、と許しが出たら、です。

 万が一、もしかして、という話ですが・・・お打ちになりたいですよね」


「勿論です」


「ありがとうございました」


 マサヒデはにこっと笑って、頷いてから、ラディの方を向く。


「では、ラディさん」


「はい」


「魔力異常の洞窟に行った事は?」


「ありません」


「今話した洞窟、行ってみたいですか?

 鉱脈はあるかないか分かりませんが、凄く綺麗な所らしいですよ」


「行きます」


「では、昼餉を済ませたら、来て下さい。足は固めて来て下さいね。

 マツさんかクレールさんが、風の魔術でさっと運んでくれます。

 四半刻もかからないそうですから、美しい景色を楽しむだけでも」


「必ず」


 ラディが頷いた。

 マサヒデも頷いて立ち上がり、


「では、昼に」


 マサヒデは軽く頭を下げて、出て行った。

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