第16話 お宝発見


「どうも、失礼しますね」


 にこにこしながら、アルマダが書庫に入った。


「あ、ハワード様、カオルさん」


「面白いですか?」


「ええ。子供の頃に読んだおとぎ話も、随分違っていて・・・

 人の国と魔の国という違いもあるでしょうけど、年月で変わるのですね」


「何か発見はありましたか?」


「ざっと並んでいる本を見ましたけど、童話や英雄譚、おとぎ話。

 歴史書、宗教の本がみっちりです。やっぱり、歴史家だったのでしょうか」


「こちらは大発見があったんですよ」


 指先で、小さな鍵を摘んで見せる。


「あ! 鍵ですね! どこの鍵でしょう?」


「おそらく、この部屋に」


「ハワード様。おそらく、ではありません。

 間違いなく、この部屋・・・いや、隣もありえますが」


 カオルがぐるりと部屋を見渡す。


「え! ここに何か!? 隠し金庫ですか!?

 こう、本を正しい順番で並べると、本棚がずずずって・・・」


「ふふふ。それは分かりませんが・・・」


 カオルが笑いながら、ちら、と床を見る。

 擦れた跡がない。本棚が動いた形跡はない。

 これだけみっちり本が詰まった本棚は、動かせまい。


「クレール様、この部屋と、隣の部屋との壁の中です」


 ぐるりとアルマダが部屋を見渡し、壁の方を向いた。


「なぜそれが分かるのです?」


「こちらの壁が厚いです。

 この部屋と隣の部屋の間の壁に、何かあります」


「うわあ!」


 きらきらとクレールの目が輝く。


「おそらく、相当の物がありますよ。ここにいた貴族はかなりの者です。

 それが、家財や宝飾品を売り払って手に入れた物です。

 もしかしたら、ただ壁を厚く作ってしまっただけかもしれませんが。

 ここにある本の中に、すごい物が入っている、という可能性もありますよ」


「でもでも、鍵があるということは!」


 にこにことアルマダが笑う。


「ふふ、間違いなく・・・でしょうね」


「ハワード様、仕掛けなど探さなくてもよろしいでしょう。

 隣の部屋から、壁を探しましょう。

 見つかったら、シズクさんに壁を壊してもらえば」


「ああ、そうですね。では、行きましょうか」


「私も行きます!」


 3人は部屋を出て、隣の部屋に入った。

 ふわ、と埃が舞う。


「・・・」


 アルマダとカオルが、壁に耳を当て、静かに、小さく、こんこん、と叩いていく。

 クレールが緊張しながら、2人を見る。


 こん・・・


「む!」


 カオルが目を見開く。

 こん、こん・・・


「ありました。ここです」


 アルマダとクレールがカオルの後ろに立った。


 こんこん。

 こんこん。


「ふむ・・・結構、幅が広いですね。

 鍵があると言うことは、金庫のような物が入っている。

 となると、この壁の厚さからして、それほど厚さのある物ではない。

 絵画の類でしょうか・・・」


「どんな物なんでしょう! 私、シズクさんを呼んできます!」


 たたた・・・とクレールが走って行く。

 廊下で「シズクさーん!」と声が聞こえる。


「・・・」


 こんこん。

 こんこん。


「ふむ・・・」


 すぐにシズクとクレールが入って来た。


「シズクさん」


「ここに隠し金庫があるって!?」


「ええ。ちょっと壁を壊して下さい」


「任せな!」


 ぶんぶんとシズクが腕を振るう。


「ここら辺から、ここら辺に入っています。

 長方形の形です。おそらく金庫ですが、念の為、あまり強く殴らずに。

 壁を剥がす程度に、慎重にお願いします」


 ここら辺、とカオルが指で四角形を描く。


「よーし分かった! じゃ、軽めにいくから」


「良いですか、金庫でなく、ただの木の箱かもしれませんから、慎重に願います。

 壁の向こうには、貴重な本も並んでいるのです。

 壁を突き抜けて、本棚を壊さないようにして下さい」


「分かった分かった! さあ、お宝拝見といこうよ!」


 べき! と音を立て、シズクの手がカオルの描いた四角形のやや外側に入った。

 壁は突き抜けていない。


「よーし、いくぞ!」


 ばぎぎぎ! と、シズクの手が横に穴を開けていく。

 壁を砕いた粉が、部屋に白く舞う。


「んっ! あったあった! あったぞ! これだ!」


 シズクが手を抜いて、ばりばりと壁を剥がす。

 皆がシズクの横に並ぶと、金庫の端が見える。


「うわあ! 本当にあったんですね!」


「よおし、皆、ちょっと下がって! 出すぞ!」


 ばりばり! ばきききき! ばりっ! どすん!

 シズクが四角形に手を動かし、引っ掛けて、ばたん、と壁を落とす。


「何事です!?」


 どたどたと、マサヒデとラディが駆け上がって来た。

 アルマダがにこやかな顔で振り返り、


「見て下さい。隠し金庫、見つけましたよ」


「はあ」


「下ろすぞ! うん、ふんっ!」


 ばぎゃん! と音がして、金庫が壁から抜けた。

 四角形に開いた穴から、本棚の裏が見える。


「よいしょ・・・っと」


 シズクが静かに床に下ろす。

 下ろされた金庫を見て、アルマダが、


「む? 裏側ですね? あの本棚が動くようになっていたのか」


「けほっ・・・」


 クレールがむせて、小さく咳をする。


「開ける前に、窓を開けて、埃を出しましょう。

 埃が付くとまずい物かもしれない」


 そう言って、アルマダが窓に歩いて行く。


「いいよ。このまま玄関まで持ってっちゃえば良いじゃん。

 開いてるし、埃も付かないでしょ。あそこで開けよ」


「さすがシズクさん。良い考えですが、運べますか?」


「全然余裕。私の鉄棒より軽いもん」


「ははは! その金庫ごと、曲げたりしないで下さいね。

 さあ皆さん! 外に出ましょう!」


 ばたん、と窓を開け、アルマダが出て行く。

 皆も続いて出て行った。



----------



「よっと」


 ごとり、と金庫が下ろされる。


「この鍵で合うはずだ! よし! 開けますよ!」


 アルマダが鍵を差し込んで回す。

 かちゃり。


「開いた!」


 皆の喉が鳴る。


「むんっ!」


 少し上がった所でシズクが手を入れて、上に上げる。


「おおっ!?」


「刀・・・?」


 青貝が細かく散りばめられた黒い鞘が、日の光を浴びてきらきらと輝く。

 鍔も金が塗られている。

 柄糸はぼろぼろだが、すごい拵えだ。


「うわあ・・・」


 クレールの目が輝く。

 ラディの目が見開かれる。

 マサヒデとアルマダとカオルも、は! と身を固める。


「これは・・・」


「ご主人様」


「マサヒデさん」


 間違いなく、これは名刀・・・

 独特の、ただの物ではない、という雰囲気がする。

 3人が顔を見合わせ、喉を鳴らした。


「マサちゃん! 抜いてみようよ!」


 にこにこしながら、シズクが声を掛けた。

 こく、とマサヒデが頷いて、刀を手に取る。


「反りが深いですね・・・古刀、戦争前の物でしょうか・・・」


 ぐ。


「む?」


 ぐいっ・・・


「抜けない・・・錆びてしまったのか・・・」


 ぐ! ぐ!


「く、駄目だ・・・

 ううむ、すみません、皆さん、鞘の方を持って下さい。

 シズクさん、握り潰さないで下さいよ」


「分かってるって!」


「アルマダさん、一緒に引っ張って下さい」


「はい」


 アルマダが柄を握る。


「じゃ、行きますよ。せえ・・・のっ!」


 ざがりっ! と音がして、刀が抜けた。

 どすん、とマサヒデとアルマダが尻もちを付く


「うわっ!」


「くっ・・・」


 抜けた刀を見ると、やはり錆びついてしまっていた。

 身体を起こして、刀を見てみる。


「細身ですね。やはり、相当古い物でしょう。折れなくて良かった。

 しかし、この鞘に鍔、鎺(はばき)・・・すごい拵えだ・・・

 いや、拵えだけではない。この姿、錆びていても分かる。

 やはり名刀ですね・・・」


 ラディが凄い目をして、錆びた刀を見つめている。


「小切先に・・・この腰反り・・・まさか・・・」


「まさか、何です? 見当が付きますか?」


「はっ! ・・・い、いえ・・・しかし、しかし・・・」


「これ、名刀ですね。

 全身錆びついてはいますが、美しい姿です。

 確か、1000年くらい前は、こういう形が流行ったんでしたよね」


 アルマダも頷き、


「間違いなく、名刀でしょう。

 ここの貴族、かなりの者だったということは分かっています。

 家財や宝飾品なんかを売り払って買ったのは、おそらくこれです」


「ううむ・・・」


 皆が錆びた刀に目を向ける。


「ラディさん。信頼出来る研ぎ師は、いますね?」


「はい」


 マサヒデは皆の手から鞘を受け取って、錆びた刀を収めた。

 ざり、と途中で錆で引っ掛かったが、慎重に収める。


「ふう・・・鞘師にもお願いが必要ですね。

 この鞘、勿体ないですが、作り直した方が良さそうですね。

 柄糸もぼろぼろだ」


「マサヒデさん。私の勘が正しければ、ですけど」


「なんでしょう」


「そのくらいの金、いくら払っても安い作だと思います」


「そうですか・・・いや、そうでしょうね。

 では、見積もりは、全部私に送ってもらって下さい。

 ラディさん、お願い出来ますか」


 す、とマサヒデが刀を差し出すと、ラディはローブを脱いで、


「は!」


 と勢いよく返事をして受け取り、くるくると刀をローブで巻いた。

 おそらくこれは、古刀の中でも傑作をいくつも打ったあの刀匠の作だ・・・

 あの刀匠なら、きっと銘が切ってあるはず。

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