第2話 魔剣、再調査・2


 からからからー。


「失礼します。ホルニコヴァです」


 すたすたとマサヒデが出て来た。


「どうも、ラディさん」


「マサヒデさん、お一人ですか?」


 いつもなら、マツかカオルが出てくるはずだが・・・


「いえ、カオルさんは出てますが、マツさんとクレールさんは庭で魔術に夢中で」


「そうですか」


「さ、どうぞ。着込みが出来ていますよ」


 居間に通ると、庭でマツとクレールが水の魔術を出している。

 だが、あれは・・・

 ぱん!


「うわ!?」


 音に驚いて、ラディは仰け反ってしまった。


 あれは土の魔術で作られた壁だろう。

 壁と言うより、大きな柱のようだ。

 そこに、拳ほどの大きさの穴が空いた。


「・・・あれは・・・」


「ああ、新しい魔術が出来まして」


「新しい魔術!? 師匠のですか!?」


「いえ、私が思い付きました。やってるのはマツさんとクレールさんですけどね」


 にや、とマサヒデが笑い、


「さ、座って下さい。こちらがラディさんの着込みです」


 す、と鎖帷子が差し出された。


「うっ!?」


 分かってはいたが、それでも持つと驚いてしまう。

 普通の服と変わりない重さだ。

 ただの厚めの冬服程度しかない。


「ラディさんとクレールさんの分は、少し軽めにしてあります。

 さ、どうぞお試し下さい」


「はい」


 さわさわ。

 ちゃんとした金属。なのに、軽い。

 さすが師匠だ。なんと恐ろしい魔術だろう・・・


「ん・・・しょ」


 胴を着て、袖を着けてみる。

 手甲もはめてみる。


「むう・・・全然、重く」


 ぱん!


「ひぁっ!」


 びく!

 魔術の練習だ。

 思わず変な声を上げてしまった・・・

 ぼ、と顔が赤くなって、ラディは俯いた。


「すみません、驚かせてしまって・・・軽すぎますか?」


「い、いえ、まるで普通の上着を着ているくらいです。

 すごく良いですね。さすが師匠です」


 こく、とマサヒデは頷いて、


「では、これから毎日着てて下さいね。

 それが錆びさせないコツだそうですから」


「はい」


「聞くまでもありませんが、手入れは分かりますね」


「勿論です」


「ふふ、お父上にも見てもらって下さい。きっと驚くでしょうね」


「ええ」


 ぱん!

 また、分厚い土の壁に穴が空く。


「それで・・・あの魔術は一体?」


「ああ、水鉄砲ですよ」


「水鉄砲?」


「水の魔術の基本の水球を、ぐっと勢い良く飛ばすだけです。

 マツさんの説明だと、弾き跳ばないように水球の周りを囲んで、ぐっと強く押す。

 最後に、前の壁を消す。すると、あのように強く飛ぶわけです」


 は! とラディの目も見開かれた。

 攻撃魔術はほとんど使えないラディでも、簡単に分かるようだ。


「なるほど! 実に単純明快ですね」


 マサヒデも庭の2人を眺める。

 ぱん!

 また、土の壁に穴が空く。


「水球の魔術も飛びますけど、そこまで強くはないですからね。守りにはすごく使いやすいですが、マツさんほどじゃなければ、攻撃としてはそれほど怖いものではない。この方法で、弱かった水球が簡単かつ強力な攻撃になる、と」


「マサヒデさん、素晴らしい思い付きです」


「一応欠点もあって、ぐっと押し込む必要があるから・・・

 まあ、弓を引くような感じですか。

 慣れないと、素早く連射は出来ないそうで」


「なるほど」


「今は2人で、どのくらい押し込めばどのくらいかの威力の調査をしている所です。

 やってるうちに慣れるから、速射も出来るようになるかと」


「そうでしたか」


 ぱん!

 また、土の壁に穴が空く。

 少しして、マサヒデは、ラディに真剣な顔を向けた。


「さて・・・と。わざわざ着込みを取りに頂いたのには、理由がありまして」


「なにか」


「何日か、経ちましたね」


「?」


「そろそろ、安全ではないかな、と思いまして」


 は! とラディの顔も変わった。


「そろそろ、ですか」


「はい。すぐにアルマダさんも来ます。

 安全な場所で、やります」


「そんな場所が?」


「はい。すぐ近くにありますので。

 じゃあ、アルマダさんが来るまで、待ちましょうか。

 ラディさんも、お二人と一緒にやってても構いませんよ」


「では、私も」


 ラディも庭に下り、2人の横に並んだ。

 小さく水球が浮かぶ。

 マツやクレールほどの大きさではないが、ラディも基礎的な物は使えるようだ。


「・・・」


 やはり、攻撃魔術は不得手なのだろう。

 水球の大きさの割に、ぐっと手を出して、随分と集中している。


 ぱん!

 土の壁に、深くはないが、確かに小さく穴が空いた。

 十分、人を吹き飛ばせる威力だ。


「あ・・・空いた・・・」


 驚いた顔で、自分が空けた穴を見つめる

 集中して気付かなかった2人が、ラディの方を向く。


「あ、ラディさん・・・」


 ぱあ、と顔を輝かせ、ラディがマサヒデの方を向いた。

 マサヒデはにっこり笑って、頷いた。



----------



 少しして、アルマダとカオルもやってきた。

 音に気付いたのか、2人は庭に回ってきた。


「・・・」


 魔術師3人が、水球を作って恐ろしい威力で土の固まりに穴を空けている。

 アルマダもカオルも立ち尽くして、3人を見つめている。

 穴が空くたび、ぱん! と派手な音が上がる。


「アルマダさん! いらっしゃい!」


 マサヒデが大きめに声をかけると、3人もくるっと振り向いて、


「あ、これはハワード様、失礼を」


「ハワード様、いらっしゃいませ」


「どうも」


 アルマダは土の壁を見ながら、


「ああ、どうも・・・新しい魔術ですか?」


 と挨拶を返した。

 分厚い壁に、すごい深さの穴が点々と空いている。

 マツがにっこり笑って、


「ええ、そうなんですよ。マサヒデ様が思い付いたんです」


 自分は全く魔術は使えないが、にや、とマサヒデの顔に笑みが浮かんでしまった。


「へえ・・・」


 カオルと一緒に近付いて、穴を覗く。

 かなり深い。

 シズクが「すぱん!」と綺麗に突いた時のような穴が、深く空いている。


「おお、これは・・・すごい威力ですね・・・」


「本当に・・・こんなに深く」


 2人はしげしげと穴を覗く。


「ハワード様、これ、すっごく簡単なんですよ!

 初心者でも簡単に出来ちゃうんです!」


 ふふん、とクレールが自慢気に胸を張っている。


「ほう?」


「私でも出来たんです。攻撃魔術は全然ですけど、こんなにすごい穴が。

 ぐっと押して溜めないといけないので、私では、実戦では難しそうですが」


 ラディも嬉しそうな顔だ。


「さあ、皆さん、座って少し休憩しませんか。冷たい水を出しますから」


 よ、と立ち上がると、さっとカオルが上がってきて、


「ご主人様、私が」


 と言い置いてすーっと入って行った。

 皆が縁側に座ってから、すぐにカオルが出て来て、水を差し出した。


「すみません、帰って来たばかりなのに」


「構いません」


 皆がぐぐっと水を飲んで、カオルも後ろに座ってぐっと飲む。

 す、と湯呑を置いて、アルマダがマサヒデに顔を向けた。


「で、本日の用は・・・あれですか? そろそろだと思っていましたが」


 ちら、とアルマダの目がラディの方を向く。


「はい。私はそろそろ良いんじゃないか、と思いますが」


「そうですね。今まで何もありませんでしたし」


「では、早速行きますか。マツさん、頼めますか」


「はい。皆様、一度お立ちになって、庭に下りて下さい」


 皆が庭に下りる。


「じゃあ、クレールさん、カオルさん。

 少し、マツさんの閉じ込める魔術の中で、大事な話がありますから。

 すぐ終わりますので」


「は」「はい!」


「では、マツさん。ラディさんも一緒に、よろしくお願いします」


「はい」


 ぴぃん・・・と小さく高い音がして、クレールとカオルの前から、4人が消えた。


「カオルさん、大事な話ってなんでしょうね?」


「さあ・・・」


 カオルも首を傾げたが、検討はつく。

 恐らく魔剣だ。


 調査の夜から、数日警戒しろ・・・

 即日警戒しなければならない程、危険な力があったのか、あるかもしれないのか。

 漏れていたら、すぐに動かれる程、危険な力の可能性。

 多分、その確認をしに行ったのだ。

 今まで何もなかったから、もう安全と見たのだろう。


 にこ、とクレールに笑顔を向け、


「すぐ終わるとの事でしたし、茶と、何か甘い物でも用意しておきましょう。

 クレール様もお先に如何ですか」


「頂きます!」

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