第26話 魔の種族達


 きらきらした目でマサヒデを見つめるシズク。

 マサヒデは湯呑を取って、茶を一口啜る。


「うん。魔族についてですね。魔族の方々は、皆が強者だと聞いています。訓練所の稽古で何人かと手合わせはしていますが、確かに人族より強い方が多い」


「うんうん。魔族は皆が強いぞ!」


「例えば、どんな種族が強いでしょう。彼らはどんな特徴があるんでしょう」


「やっぱ、一番強いのは魔王様の一族だよね。マツさんみたいに魔術が強い人だけじゃないよ。カゲミツ様みたいに、剣聖みたいに強い人もいるって」


「ほう? 魔術師だけではないんですね」


「そうだよ。で、皆が魔術も使えるし。もしかしたら、魔王様以外にも、カゲミツ様より強い人がいるかもね」


「なるほど」


「次は竜人族じゃないかな」


「竜人族・・・名前は知っています。竜の強さを持ったまま、人の大きさになったとか。有名ですね」


「うん。でも、会うことはないかもね。私も見たことない。私ら鬼族よりも少ないよ。魔の国全部で500人もいないんじゃない?」


「全部で・・・そんなに少ないんですか」


「うん。魔王様の一族と同じくらい強くて、寿命もすごく長い人ばっかり」


「ほう。やはり、魔術や剣術の達人ばかり?」


「うん。魔王様みたいに、空も飛べるって。魔王様とは違って、背中に羽があって飛ぶんだって」


「ほう・・・飛ぶ・・・戦うとなると、厄介ですね」


「まあ、会うことはないと思うよ。あ、みんな、頭がすごく良いって話だし、魔王様のお城で何人か働いてるかもよ。そしたら、お城で会えるかも」


「次に強いのは?」


「次はやっぱり私達、鬼族だって!」


「なるほど・・・やはり、鬼族は強者ですよね。優れた武術家も何人もいると聞いています」


「そうだぞ! 真面目に武術家やってる人は、外に出ちゃってるけどさ。里にいるみんなだって、他と比べたら全然強いんだから!」


「ふむ。シズクさんも怖ろしい強さですからね・・・武術家となると、父上くらいは強いでしょうか?」


「む・・・」


「どうしました?」


「こないだカゲミツ様と立ち会ったけどさ、鬼の武術家でも、カゲミツ様には勝てない気がするよ・・・あれから何度か道場行ってるけど、かすりもしないよ。いつも軽くのされちゃう。どんな動きしてるかもさっぱりだし」


「ははは! 機会があれば、鬼族の武術家の方と手合わせして、どちらが強いか比べてみてはどうです?」


「絶対にカゲミツ様のが強いと思うね」


「ふふふ。父上を褒めてくれてありがとうございます。次に強いとなると?」


「同じくらいか、いや、うーん・・・上かも。レイシクランの人達じゃない?」


「ほう?」


「マサちゃんの試合は見てなかったけど、クレール様はどうだった?」


「魔術が達者でしたね。死霊術に、水と土の魔術を使ってました」


「それだけ?」


「他に何かあるんですか?」


「あー、クレール様、本気出してなかったんだね。きっと、ずっとホテル暮らしで暇だったから、暇つぶしくらいで参加したんじゃない?」


「本気?」


「ふふーん。レイシクランって、すごい力があるんだよ。きっと、クレール様もマサちゃんが強くてびっくりして、力を使う前にやられちゃったんだね。それか、体力温存する作戦だったかな?」


「あ、そういえばカオルさんもそんな事を言ってましたね。そのせいで、すごく食べないといけないとか・・・どんな力があるんです?」


「消えるんだよ。レイシクランの忍、全然見たことないでしょ?」


「消える?」


「見えなくなっちゃうんだって。霧みたいにさーっと消えて、気配も全然なくなっちゃう。見えなくなるんだから、見たことないけど。ま! 私は気配は捕らえたけどね! その消える力を使ってたかどうかは、分かんないけど。他にも色んな力があるって話だけど、よく知らないな」


「そんな力があったんですね・・・」


「だけど、どの力も、使うとすごくお腹が減っちゃうんだって。ずっと消えてるみたいなのは出来ないみたいだよ。クレール様に聞いてみるのが早いと思うよ」


「なるほど・・・機会があったら、お見せしてもらいましょうか」


「ふふーん。それでジャンボ肉を食べてもらえばいいよ。お腹空いたら、何でも美味しいじゃん。味なんか関係なくなっちゃうもんね」


「ふふ、空腹は最高の調味料、ですね。次は?」


「んー・・・鳥族の人達かなあ?」


「鳥族? というと、文字通り空を飛ぶ?」


「うん。だけど、殴り合いはそこまで強くないと思う。武術家もあんま聞いたことないし。強いというか、厄介って感じ。そんなに長くも飛べないし、降りてきたら、そこまで強くないね。弓とか鉄砲が上手ければ、飛んでても当てれるしね。あ、逆に飛んで弓とか撃たれたら面倒か」


「なるほど」


「そうだ、殴り合いは獣人族の方がはるかに強いね。いっぱいいるけど、強いのは狼族とか虎族とか、熊族とかね」


「ほう。やはり、名前通り?」


「うん。犬は連携上手、猫は速い、だね。虎族なんか力も強いから、武術家ばっかり。鬼族ほど力はないと思うけどね。犬はみんな鼻がすごいから、冒険者とか兵士とか奉行所で活躍してる人が多いね。祭にも獣人族のパーティー、多いと思うな」


「なるほど」


「ま、虎族はすごく少ないから、会うことないかもね。他の猫ちゃんには会うと思うけど、もし虎族を見かけたら要注意だよ。見たことはないけど、多分カオルより速くて、私よりちょい力が弱いってくらいじゃない?」


「それは強そうですね・・・カオルさんより速く、シズクさんくらい力が・・・」


「祭の人じゃなくても、勝負! って言われるかもね。マサちゃん有名だもん」


「ふむ」


 武術家であれば、力を試したくなる。強い相手と戦いたくなる。

 しかし、それほどの相手、今のマサヒデに勝てるか・・・


「熊の人達もやばいよ。力だけなら、多分鬼族より上じゃない? 速くないけど、みんな金属鎧より硬いって。でも、数も少ないし、ほとんど相撲力士になってるから、祭にはまず出てこないと思うな。でも、勝負挑まれる事はあるかも」


「ほう、相撲力士・・・」


 相撲力士だって武術家だ。祭の参加者もいるかもしれない。

 シズクよりも剛力で硬い・・・マサヒデに斬れるだろうか?


「次は虫人属だねー。虫人族は、ほんと種類が多いから、強いのも弱いのも合わせるといっぱい。全部まとめて虫人族って言うんだ」


「シズクさんは戦ったことは?」


「あるよ。バッタみたいなの。すごかったよ。こないだ、マサちゃんと試合したじゃん。マサちゃん、私が棒振ったら、その勢いで天井まで飛んだでしょ?」


「バッタ・・・まさか、あのくらいの高さまで?」


「うん。ジャンプした」


「ええ!? すごいじゃないですか!」


「それで、着地しても平気なんだよ? 地面がどかん! てなったのに。どういう足してるのか、さっぱり分からないよ」


「あんな高さから着地して、平気なんですか!?」


「あれは私も驚いたね。でも、次にジャンプした時、落ちてくる所に合わせて、あの鉄棒でがつん! ぶっ飛んで私の勝ちー!」


「なるほど。高く飛べるが、その分、落ちてくる所は隙だらけでしたか」


「そういう事。何もない空中じゃ、落ちてくる所は変えられないもん」


「私も何人か虫人族の方と戦いましたが、そういう特徴のようなものは見ませんでしたね」


「じゃあ、弱い奴だったのか、力を使う前にやられちゃったのかもね」


「一杯種類がいると言いましたが、他には?」


「飛ぶ奴、すごい固い奴、すごい速い奴、毒吐いたり、クモみたいに糸で罠とか作るとか。まあ、虫と同じだよね。あ、でも、バッタとかカブトムシとか言うと怒る人が多いから、言っちゃだめだよ。それでよくケンカしてるし」


「気を付けます」


「大体は虫人族って見た目で分かるけど、中には、見た目が人族とほとんど変わらない奴もいるよ。羽とか触覚とかあったりするけど、それ以外は見た目同じとか。そういう奴だと、服の中に羽とか隠されたら、分かんないよね」


「なるほど。そういう隠れ方、みたいなものがありますか」


「毒吐くやつとか、クモみたいのなんかは、闇討ち組にいたりするかもね。それで見た目が人族そっくりだったら、もう分かんないと思うよ。何も持ってなくても、自前で毒が吐けるんだし」


「ううむ。確かにぴったりですね・・・」


「数が多いから、武術家もいるよ。人族と同じで、たまにすごく強い人がいるんだよ。でも、一番気をつけないといけないのは、形態変化する奴だと思うね」


「形態変化?」


「虫ってサナギになるじゃん。あんな感じで、ぺりって皮が剥けて、変わるんだ。一瞬で変わるんだって。戦ってる相手に合わせて変わるんだよ。これ使うと、弱い人でも、ものすごく強くなったりするらしいよ」


「ほう?」


「でも、この力を使うと寿命がすごく縮んじゃうって話だから、まず見ることはないと思うよ。みんな寿命は人族と同じくらいだし、まず使わないんじゃない? 使った瞬間、死んじゃうとかもあるかもだし・・・でも使われたら、ね」


「ふうむ・・・」


 よほど追い詰められなければ、使わない能力。

 しかも、寿命が大きく縮む。

 だが、強さを求める者であれば、躊躇なく使うだろう。


「戦う種族はこのくらいかなあ?」


「戦う種族? 他にも?」


「有名所はねー、鍛冶族とか言われてる人達。本当は何族だったかな? 鍛冶族ってのは、あだ名なんだよね。名前通り、みんな鍛冶屋さんで有名な人達ね。どの町とか村にもいるね。鍛冶仕事はこの種族に任せれば大丈夫! ってね」


「ああ。彼らの作はすごい物が多いですね。父上も何本か持ってて、見せてもらったことがあります」


「私の鉄棒も作ってもらったんだ。型作って鉄流し込むだけじゃねえか! って怒られたよ」


「ははは!」


「あとはねえ、魚人族。みんなすごく強いんだけど、まず祭にはいないね」


「魚人族? 人魚とかですか? 強いけど、いない?」


「色んな形のがいるよ。でも、みんな水がないとすぐ死んじゃうんだ。私らと逆で、水の中じゃないと息が出来ないんだよ。だから、大きい川とか海の中しかいないんだ。海とか川の管理とか、魚みたいな魔獣狩ったり、漁してる。もしかしたら、橋の上とかでいきなりってのがあるかも、くらいかな」


「ほう。強さで言うと?」


「獣人族より上だと思うよ。でも、陸に上ったらすぐ死んじゃうし」


「獣人族より強い、ですか・・・ふうむ」


「あと有名所は、長耳族とか、尖耳族って呼ばれてる種族ね。見た目は人族そっくりだね。この種族も強いけど、戦うことはないと思うな」


「おお、弓と魔術が達者と有名な方々ですね」


「うん。でも、長耳の人達は、魔王様から、魔の国の森の管理とか魔獣退治の指揮とかを任されてるんだ。伐採の監督とか、魔獣退治の指揮とかで、みんな忙しいからさ、祭には出てこないんじゃない? 少ないわけじゃないから、会うことはあると思うけどね」


「寿命も長いと聞きましたが」


「人族とか虫人族よりは長いってくらいだよ。ほとんどの魔族より短いと思うよ。ものすごく長くてやっと300年、短いと人族と同じくらいで、100年くらいじゃない?」


「十分長いと思いますが、やっぱり人族って短いんですね」


「そういう事。マサちゃんも寿命短いんだから、急いでたくさん楽しまないとだめだよ」


「ふふふ、そうですね」

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