助けるということ

 黄野ツムギという女子は、本当に不思議だ。

 ハンバーガーを食べた、さらに数日後。

 オレは学校から帰ってくる時、黄野の姿をそこらかしこで目撃した。


 普段は本当にバイトしてるだけのようで、お代金を受け取って料理を渡す姿があった。他にはバイトとは関係なく、おばあさんから手紙を受け取ったりして、自転車を漕ぐ姿。


 黄野という女子は、人助けをすることが好きなんだろう。

 オレが彼女に対して感じていた温かみは、人との繋がりだった。


「今日は……スパゲッティなんだな……」


 あれから、黄野は毎日料理を運んできてくれる。

 結局、理由は分からない。


「海苔を散らばせたミートスパゲッティ」


 味は普通。

 目の前では、オレが麺を啜る姿をニヤニヤとして見ている黄野がいた。


「きったないなぁ」

「育ち悪いんで」

「そんなんじゃ、モテないよ」


 毎日のように黄野を見かけ、目で追いかけていて、気づいたことがある。


 黄野は、人助けをしている。

 例えば、小汚い見た目のおっさんがいても、同じように料理を運んでいる。誰かに言われたわけではなく、黄野が自らそれを行っている。

 一見すれば、不用心だが、黄野の場合誰にでもってわけではないだろう。


 明らかに様子のおかしな奴には、近づかない。

 つまり、何が言いたいかというと、オレは食いたいものが食えずに困っていた。黄野はオレに対して、人助けをしているのだ。


 恩着せがましい人助けとは違う。

 オレが勝手に気づいただけで、黄野は一言も口にしていない。


「黄野」

「ん。なに?」

「……ありがとな」


 オレが言うと、彼女は太陽のように笑った。

 人を助ける時、いちいち理由など口にしないし、言う必要などないのだろう。


 黄野から、そう学んだひと夏だった。

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頼んでないのにデリバリーがきた 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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