第2話

 「助けてくれた?」

「うん。ほかのみんなは、あ~あって顔で見るだけで知らん顔して追い越して行っちゃったの。佳織かおりは私より足が速いから、とっくに先に行ってたしね。そしたら後ろから来た加藤君が走るのをやめて、私につきそってくれたの」

「そんなこと、あったんだ」

「一緒にいた他の男子に、私が転んで足が痛そうだから養護の先生に伝えてって。自分はここでつきそうからって言ってくれて」

 

 「……へぇ。すごいね。あれってタイムが成績に響くんじゃなかった?」

私のようにインフルエンザで出校停止でない限り、タイムの良し悪しが期末テストの点数に反映される───だからみんな頑張って走る。

走るのを中断したらタイムが悪くて成績に響く……それがわかってて、有紀ゆきにつきそう。

なかなか、普通の人にはできないことだわ。

もしかして、加藤君……。

 

 「しばらくは足が痛くて立てなかったのね。養護の先生が来た時にはなんとか立てるようになってたんだけど。それでも学校まで歩く間も、ずっと一緒にいてくれたの」

「そうなんだ……親切だね、加藤君」

「うん。歩くのきつかったら、一緒に休むから言いなよって。なんなら支えてあげようかって」

「ふうん」

 

 「結局は支えてもらわずに帰れたんだけど。横にいてくれるだけで安心したんだよね。その時思ったんだ、この人のこと好きだなって」

「そうだったんだ……まぁ見た目もくまさんみたいで安心感あるよね。くまさんっていうかプーさん」

「そうなの。私の好きなプーさんみたいだし。あ、それも好きになった原因のひとつかも」

 

 「……いいんじゃない?加藤君にチョコレート」

「そうかなぁ。私なんかがあげていいのかな……迷惑って思われないかな」

「迷惑とかは思わないんじゃない?加藤君優しいし。そうでなくても可愛い有紀から貰って嬉しくない男子なんていないよ」

……胸が、苦しい。

 

 「そっか。里穂りほにそう言ってもらえると勇気がでる。うん。渡すことに決めた。それで、ねえ」

「なに?」

「加藤君にあげるチョコレート買いに行くの、一緒に行ってくれる?」

……チクリ。

胸に、刺さる。

 

 「いいけど」

「じゃあ、明日の放課後買いに行こう。佳織も誘って」

「うん。でも佳織にもバレていいの?有紀が加藤君にチョコあげようと思ってるの」

「それは……どうせバレることだし。別にいいかなって」

有紀の性格だったら、秘密になんてできないよね。

素直で裏表がなくて。

誰かの悪口を言ってるとこなんて見たことがない。

有紀がコクったら、加藤君はきっとOKするわ。

 

 「これなんかどう?」

「あ、こっちのもかわいい!」

チョコレート売り場はたくさんの女性たちであふれかえっている。

みんな渡したい相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら、一所懸命に商品を選んでいる。

有紀と佳織も陳列台の間をあちこち移動しながら選んでいる。

───私も、あげられるものならあげたかった。

 

 「えぇ!有紀ってば加藤君にチョコあげるの?!」

一緒にチョコを買いに行こうと佳織を誘った時の第一声だ。

「うわぁ、意っ外~。でも……うん。きっと喜ぶと思う」

「そう、かな?」

「うん、絶対喜ぶって。ねえ、里穂もそう思うでしょ?」

「うん、喜んでくれると思う」

「だったら嬉しいな」

モジモジと照れ笑いを浮かべる有紀。

笑顔を……見るのがつらい。

 

 「私も……有紀を見習って勇気をだそうかな」

佳織がつぶやいた。

「え?佳織、誰かにあげるの?誰?誰?」

「演劇部の……斉木君」

「え~!それこそ意外!どんな接点?」

「中学の同級だったの」

「もしかして、中学の時から?」

うん───佳織がうなづく。

 

 「それって、すっごく素敵。うん!応援する!!ね、里穂」

有紀が無邪気に笑いかけてくる。

「うん。私も応援するよ」

「里穂は?誰かチョコあげたい人っていないの?」

ふたりともチョコレートを選びおえたらしく、きれいに包装された箱を持っていた。

「私は……今年はいいかな。自分用にこの生チョコは買うけどね」

本当は、あげたかったけれど。


 

 

 

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