第9話 黙れクソ上司
「ということでな、取り敢えず今日辞表出すわ」
「おめでとさん。ってか俺ももう辞表出そうかな......って思った瞬間あら不思議、辞表の文字がなくなってしまいました」
「辞表出すノリじゃねえだろ。何してんだ」
こいつも同じく数枚の辞表を持っており、そんな話をしながらまるでトランプのように持った何枚もの辞表を使った手品を俺に披露していた。
「んで、いつ出すよ」
「あのクソ上司が重役出勤して来やがったあたりだ。どうせいつも通り女子社員にセクハラしてからのこのこやってくるんだろ?」
俺達より年下の癖に何故か脂ぎった顔を近づけられている女子社員を何度見たことか。ちなみに直接注意した社員はもれなく左遷させられていたので社内では見つけ次第順次連絡からの早期退散に勤めていたのだ。
しかしそんな上司とももうおさらばだ。上司が出勤してくるのをこんなにワクワクとした気分で待っているのは何時ぶりだろうか。
「ちなみに置き土産とかすんのか?」
「するわけねえだろ。ざまあして得すんのはラノベだけだ」
「まあこっちに非がある状態で辞めると残念なことにそこに目を付けられかねないからな。でも正直やりたくね?」
「やりたくてしょうがねえ」
黙れクソ上司と言ってボイスレコーダーの存在を明かし、そして崩れ落ちる上司を尻目に退社。鬱憤を晴らすのにはもう最高の舞台だろう。
しかし残念ながらそれをやるとこっちが悪くなる可能性が出てくるのだ。故にやらない。
*
前言撤回しよう。キレそうだ。
「お前なんかが辞めて今更どこに就職できるってんだ?あ?」
「一応内定貰ってます」
「どうせ中小だろ?給料だって何分の一か知らねえけどよw」
こいつ学歴はあるらしいがこの人間性で逆になんで俺の上に立てたんだろうか。社会というものを知らなさすぎるのか舐め腐っているのかは知らないが、逆に人事の見る目が無さすぎる。
「約五分の七です」
「へっ、強がるのも程々にしろよ。アンタみたいなおっさんが今更再就職したところでそんなわけねえだろ」
「貴方に俺の生き方を決められる筋合いはない。なので辞めさせていただきます」
「はあ?何言ってんだお前?お前だけじゃなくて可愛い娘さんが居るんだろ?可哀想になア、大学も辞めさせられてよw」
ダメだ一旦ぶっ殺してえこのクソ野郎。
「まあ取り合えず辞めますので受理願います。後規約に則って明後日から二十日ほど、有給休暇を取らせていただきます」
「無理無理wどうせ辞めねえんだろ?今なら取り下げてやっから諦めろよ」
「辞めます」
「それしか言えねえのかよ。どうせお前の子供もお前に似た無能なんだろ?今なら辛うじて大卒になれんだから精々父親風吹かして頑張ってやれよ?なあ」
「黙れ!!」
そう俺が怒鳴るとは思っていなかったのか、フロアに居た社員たちが若干驚いたような目でこちらを見てくる。しかし俺は特に気にせずに怯えたような目をしている上司に盾突く。
「俺が貴方に生き方を言われる筋合いはない。その上、娘の事をバカにするなど言語道断。無礼にも程がある」
「この親バカがっ......!!」
「娘の事を貶されて否定し庇う事が親バカであるのならそれで結構」
「貴様......俺を誰だと思って..........!!」
溢れ出る小物感。俺は二十何年を勉強するか人を見下すことしかしてこなかったであろうお前を高尚な人間だと思ったことは一度たりともない。
「これまでの発言は全て然るべき場所に提出させていただく。辞表も有給休暇取得届も内容証明郵便で会社に送ってあるので言い逃れは出来ないと思っていただきたい」
この程度で半ば涙目になりながら怯えたような目でこちらを見ている上司。恐らく間違えた甘やかされ方をされて育ってきたこいつには少々刺激が強かったのかもしれない。
「この野郎......死ねえ!!」
「現在進行形で録画・録音をしていることを踏まえた上で言葉を発して頂きたい」
そして殴りかかってきた上司を躱し、足を引っかけて転倒させる。実はこれも辰巳によって録画してもらっているのでこちらは無罪を主張できる。
「それで、退職届と有給申請の方は受理していただけますか?」
怒っていたとしても、ここでボイスレコーダーに『何を』受理したのかをしっかり記録させることを忘れてはいけない。
「し......知らないからな!!」
「はいかいいえでお答えください」
「受理してやるっ......!!」
これでしっかりとボイスレコーダーには記録されたのでもう言い訳は通用しない。俺の勝ちだ。
「それでは失礼いたします」
そして少し床に転がった上司を見下ろしてから俺は自分のデスクに戻った。
おっさん俺、ブラック企業からVTuber企業に転職してみたんだが職場にヤバい奴しかいない件 夜桜リコ @yazaki_hakase
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