第7話 孤独の騎士

第7話


ソフィリアの大胆な行動に気圧されつつも、あとの二人も中へと足を運んだ。

中は廊下が続いており、寂れた雰囲気が充満している。


「人が住んでるような気配は全く感じられません、実に奇妙ですね」


「長い廊下だ、見かけによらず部屋の数も多い」


無数の部屋が連なってる中、一際目立つ派手なドアが目に止まった。

ソフィリアは好奇心を掻き立てられ、ドアノブに手をかける。


「人の家に勝手に入り込むってどういうこと?」


怒気を含んだような声色がソフィリア達の耳を貫く。深い青色の髪の毛が揺れ、緑色の瞳が睨みを効かせる。彼の名前はユナ=プレンシパレンツ、プレンシバレンツ家13代目聖騎士にして、“無敵”の名を欲しいままにした至高の騎士である。


否、その姿からは当時の彼から乖離している。

生え散らかした無精髭ぶしょうひげにボサつきのある髪の毛、同一人物とは思えないほど醜く、落ちぶれたような様子だった。


「ユナ、久しぶりだな」


ガオウの絞り出した声からは後悔や安堵など沢山の感情が入り乱れているようだった。

震えるような弱々しい声をユナは無慈悲にも両断する。


「何故、ここへ来た」


ユナの眼からはより強い怒りを訴えていた。

ガオウは次の言葉を紡ぐことが出来ず、たじろいでしまう。


「ここへ来たのは私の意思でもあります」


ガオウを押し退けるようにソフィリアは自身を主張する。

あくまでも生存確認が今回の目的では無い、来る日に備えるためである。


「君は誰だ?」


「先程も名乗った通り、ソフィリアと申します。今日ここへ来た理由は悪神との全面戦争である“アウロラ”に参加してもらうためです」


ユナの表情はより怪訝さを深める。


「悪いが帰ってもらえるか?」


「そうは行きません、何故なら天界の命運がかかっているから、貴方の力が必要なのです」


ソフィリアの鋭い眼光に劣らず、ユナは更に表情を曇らせた。


「あぁもううるっさいな、聞こえなかったのか?今すぐそいつらを引き連れて帰れ」


より語気を強め、ガオウとケシャをも突っぱねる。だが、ソフィリアから怯む様子は一切見られない。


「どうかお願いします」


ソフィリアは自身の頭を床に付け、深く願った。この行動にはソフィリア自身も驚いている。

ユナはため息を着くと、観念したかのように部屋へと促した。


「まさかここへ来れるとはね、僕が何年もかけて張り巡らせた結界がこうも簡単に破られるなんて」


破壊した結界を作った主はユナである事実にガオウは驚く様子を見せなかった。


「我が破った、お前の結界術は我が一番理解しているつもりだ」


先の事を払拭し、調子を取り戻したガオウが語り始めた。ユナは何も語らず、ソフィリアへと目を向ける。


「悪いが、僕はもう剣を握るつもりは一切ないんだ」


口に出した事実はケシャが言っていた通りのことであった。


「例のお姉様の件でしょうか」


ソフィリアはユナの心の中へと踏み込んだ。

核心を突くような一言にユナの眼の色は黒く染まっていく。


「ああ、そうさ。僕は姉さんを守れなかった、だからもう剣は捨てる」


悔しがる姿は見せず、ただ淡々と言葉を紡ぐ。

彼は既に絶望に打ちひしがれ、生きる希望すら見い出せなくなった空っぽの状態だった。


「ええ、そうですね」


そんな姿のユナに対し、ソフィリアは切れ味の良いナイフで丁寧に捌いていく。


「言葉から察するに、貴方はお姉様を助けることが出来たという解釈でよろしいですね」

「それなのにも関わらず、助けなかった過去を呪い、ただ感傷に浸って挙句の果てには貴方の家系に代々伝わる騎士の道を容易く棄てる。実に滑稽です」


「おい、ソフィリア…何を言って……!」


ガオウが止めに入ろうとするが、ソフィリアの毒は止まることなくユナを蝕み続ける。


「お姉様も呆れていることでしょう。貴方のせいで伝統が、お姉様の尊厳が踏みにじられこうも容易く捨てられるのですから」


「黙れっ!」


ユナは目の前にあった机を叩きつけ、ソフィリアに対し怒号を浴びせる。


「黙りませんよ、私貴方のような人間は大嫌いですので」


「お前に僕の、姉さんの何がわかる?知ったような口を聞くな!」

「あの戦いは…無謀だった、軍の司令部も頭おかしくなったんじゃないかって」


「聞かせてください、あの日何があったのかを」


語り始めたのはユナの姉にあたる人物、ミリア=プレンシバレンツの物語である。

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