第6話 翼竜騎士団③


ユナの今いる場所は騎士団から遠く離れた所に位置していた。騎士団だけではなくプレンシバレンツ家からも遠ざかろうとしていたことが分かる。


道無き道を歩んでいると、ふとガオウはあることに気付く。


「この道、何回目だ?」


ガオウは異様な雰囲気を感じ取っていた。

第六感が訴えかける圧倒的“違和感”を。


「そう言われてみれば、確かにこの景色は何度か見た覚えがあります」


ソフィリア自身、気付いてないわけではなかったが気にするほど違和感を感じ取ってはいなかった。


ケシャはその場にある落ち葉や枝木を手に取り、感触を確かめる。

一見すると、なんの変哲もないありふれた植物であるが触れることである違和感に気付く。


「やけに、手触りがいいな」


落ち葉も折れた枝木も表面は水晶のようにツルツルとした感触になっていた。


「やはりそうか、それに匂いもあまり感じられない」

「何者かが我々の妨害をしてきている、そう考えていいだろう」


ガオウの出した結論に両者納得し、突破口を探る。


「あくまで私の自論ですがこれは一種の結界と見なしても良いかと」


この道を通る者へ妨害する為に張られた結界。

ただ、その結界はあまりにも完成度が高いため相当な実力者がこの先に潜んでいることは間違いないだろう。


「このタイプの結界は何度か見たことがある、我に任せてくれ」


ガオウはそう言うと、その場に手を翳す。すると、散りばめられた光が可視化されガオウの手のひらに集結する。

その瞬間、硝子ガラスが割れるようにミシミシと音を立てて結界が崩壊していく。


「これで良いだろう、先へ進もう」


ガオウは満足気な表情を二人に向け、先へと誘導する。

ケシャはそれに応じるが、ソフィリアは呆気に取られたまま硬直していた。


「結界を破壊する魔法をまさか人間の方が習得しているとは思ってもみませんでした」


通常、張られた結界を破壊する魔法“ディストーション”を身につけることは至難の業である。

結界というものはそもそも、力の源である“ゼーレ”を固形化し、拡張することで作ることが出来る。それを破壊するには、結界以上のゼーレ量を細かく調整し内側から相殺する必要があるため並の人間では成し得ることは難しい。


「この程度ならケシャも特別な訓練を受けてある、努力の賜物だ」


太陽より眩しいのではないかと錯覚するほどの光り輝く笑顔をソフィリアに向ける。

普段から平静を装っているソフィリアからしてみても余りの輝きに途端に視線を逸らしてしまう。

昇った太陽が雪を溶かすような感覚に陥っていた。


「私はガオウ程ではないがな、多少の魔術は心得ているつもりだ」


ケシャもガオウに負けず劣らずの笑みを零し、ソフィリアにさらにダメージを与えた。


「着いたようだ」


そこにはポツンと民家が建てられていた。


「ここが、ユナ様の住居で間違いはありませんか?」


貴族が住んでいるとは思えないほど年月が経ち、お世辞にも綺麗とは言えないような民家であったため、ソフィリアは困惑の色を見せた。


「ああ、間違いない」


「では私から行こう」


ケシャは堂々と胸を張り、ドアをノックした。


「返事がないようですね」


続けて二、三度ドアをノックするが出てくる気配は一向にない。


「やはり、ダメなのか」


ガオウとケシャは落胆の色を見せた。否、その場にいたソフィリアだけは諦めることは出来なかった。

天界の命運がかかっている。それが何よりの原動力であり、ソフィリアを動かす要因となっている。


「下がっていてください、力技ですがやむを得ません」


ソフィリアはガオウとケシャがその場から下がったのを確認すると、目に意識を集中させる。

次の瞬間、扉が大きく音を立てて開いた。同時にガオウそしてケシャも大きく目を見開いた。


「手荒い真似ですが失礼します、天界で管理職を務めています。ソフィリアと申します」


家中に響き渡るような大きな声で自己紹介を済ませ、中へと歩みを進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る