第52話 ギャラリー・アノニマス
「……薄気味悪いな」
魔法陣を踏んで飛ばされた先──大小様々な絵画が壁に飾られた白い部屋を軽く見回した後、サンダルフォンは率直な感想を述べる。
「気をつけなサン坊、ここにある絵画は全部自我持ちだよ」
「作品が使い魔ってのはそういうことか」
周囲を警戒しながら探索するサンダルフォンが人物画の前を通る度に笑い声が微かに響く。
「……さすがにそろそろムカついてきたな」
業を煮やしたサンダルフォンが足を止めた瞬間、一枚の絵画が壁から外れて宙に浮かび上がる。
「どうせ体当たりぐらいしか、」
高を括るサンダルフォンの言葉を遮るように絵画からナイフが射出され、サンダルフォンの頬を掠める。
「……え?」
まさかの事態にサンダルフォンが呆然とする中、壁から外れて宙に浮かぶ絵画が二つ三つと増えていく。
「しゃんとしなサン坊!このままだと袋叩きにされるよ!」
「──っ、それは御免被りたいな!」
双剣を抜き払うのと同時にサンダルフォンは走り出し、最初に動き出した絵画を両断する。
「テスタ婆!ここにある絵画を全部凍らせることは出来るか!?」
「無茶を言うんじゃないよ!婆に出来るのは──」
氷雪の魔法で無数の氷柱を空中に生成した後、テスタメントは高らかに叫ぶ。
「小生意気な絵画どもに穴を空ける嫌がらせだけだよ!」
テスタメントが操る氷柱に対して額縁で叩き落とすなどの対処が出来た絵画はごく少数であり、残る大半は為す術無く穴を空けられ絶叫する。
「結構効いてるみたいだぞ」
「呑気なことを言ってないでさっさと逃げな!」
テスタメントの怒号に怯みつつも双剣を鞘に収め、サンダルフォンは重厚な扉がある方に向かって走り出す。
「追いかけて、来んな!」
勢い良く開けた扉をこれまた勢い良く閉じて鍵をかけた後、サンダルフォンは深い溜め息を吐く。
「ここは……大丈夫だよな……?」
「あるのは絵画じゃなくて彫像だよ」
「なら一休み出来るな」
壊れかけの彫像に祈りを捧げた後、サンダルフォンは少し離れたところに置かれていたソファーに腰掛ける。
「ところでサン坊、絵の良し悪しは分かる方かい?」
「いいや、さっぱりだ」
「だったら心配は要らないね」
「心配って何のだ?」
「中途半端な批評をして怒りを買う心配さ」
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