第24話 温泉旅行①

 今日は母さんが2泊3日の温泉旅行に行く日だ。朝食後すぐ行くみたいなので、俺達きょうだいはその時間に玄関に向かう。


「行ってくるわね。何かあったら連絡してちょうだい」


「心配しないでお母さん。私と大地がいるんだから」


「そうそう。お母さんはゆっくり羽を伸ばしてきてね」


姉ちゃんと美海の言う通り、のんびりしてきて欲しい。木房さんの件が解決した今、気になる事はないんだから。


「すっかり頼もしくなったわね。…行ってきます」

母さんは笑顔で家を出た。



 「2人共。決めたい事があるから、リビングに来てくれる?」

玄関先で、姉ちゃんが俺と美海を観て言う。


「は~い」


きっと家事の分担についてだな。母さんがいない以上、その分を俺達がやらないといけないからだ。何をやるにせよ、ベストを尽くそう!



 リビングに入った俺達3人は、テーブルの椅子に座る。俺の向かいに美海・斜め向かいに姉ちゃんが腰かけた。


「それじゃ早速、大地と一緒に入るお風呂と寝る順番を決めましょうか」


「待ってました~」


「えっ、そんな事?」

他に決める事あるじゃん!


「そんな事って何? 私がこの時をどれだけ待ちわびたか…」


「お兄ちゃんは、あたし達とお風呂に入ったり寝たくないの?」

美海が上目遣いで訴えかけてくる。


「…興味はあるが、決める事は他にあるだろ?」


「そんなのある? あたしにとって、真っ先に決めたいのがこれなの!」


「私も美海と同意見ね。他の事はいつものように助け合えば良いわ」


確かにそうかも。余計な心配をしたようだ。


「やっぱり、大地をするのは良くないわね。美海もそう思わない?」


独占? …同日に風呂と寝るのを同時にやる事か?


「あたしもそう思ってたところなの。でも、初めは肝心だよね~」


風呂に入ってから寝る以上、最初にアピールできるのは言うまでもなく風呂だ。


「その通り。美海もそれがわかってるなら、ジャンケンが手っ取り早いかしら」


「そうしよっか。負けないからね~、お姉ちゃん」


「私こそ」


姉ちゃんと美海はジャンケンを始める。



 「やった~! あたしの勝ち!」

美海はガッツポーズをして喜びをあらわにする。


「やるわね美海…」


これで夜の流れが決まった。


今日の風呂は美海と一緒に入り、姉ちゃんと寝る。明日は姉ちゃんと風呂に入り、美海と一緒に寝るのだ。


「今日は私・大地共にバイトないから、普段できない事がやれそうだわ。2人はやりたい事ある?」


「…俺は特に思い付かないな。美海はどうだ?」


「う~ん…、大掃除はどうかな?」


掃除か。時間がある時しかできないし、母さんの恩返しになるな。


「良いわね、大地はどう思う?」


「俺も良いと思ったところだ」


「じゃあすぐ始めましょうか。お昼まで頑張りましょうね」



 こうして、手分けしてリビングの大掃除をする俺達。基本的な部分はキレイなものの、細かいところはホコリがいっぱいだ。


美海はそれをわかっているから大掃除を提案したのか?


だとしたら、冗談抜きで俺よりしっかりしてるだろ。兄として精進しないと!


「とりあえず、リビングはキレイになったわね。大地・美海お疲れ様」


「疲れた~」


掃除でこんなに暑くなるとは…。全員額から汗が流れている。


「他はどうするの? お姉ちゃん?」


「明日は私達バイトあるから、今日中になるべく終わらせたいわね」


美海の事を考えて、俺と姉ちゃんのシフト被りは最低限にしてある。


夕食の時間あたりからは3人揃うものの、それまでは2人だから掃除は大変だな。


「だいぶ汗かいちゃったよ~」

美海がTシャツの裾をつかんで汗を拭く。


…妙に色っぽく見える。元々白Tシャツでブラが透けてるし、二重効果だろうか?


「お腹はすいてるけど、みんなシャワーを浴びた方が良さそうね」


この際の順番はどうなるんだ? 普通に考えれば、言い出した美海が最初かな?


「早くお風呂場に行こうよ、お姉ちゃん・お兄ちゃん」


姉ちゃんはクスッと笑った後…。


「そうね。軽くシャワーを浴びましょう」


「軽くだったら、3人一緒じゃなくても待てば良いじゃん」

そもそも、風呂場に3人は狭いぞ…。


「ダメよ。ちょっとした油断が風邪をひく元なのよ? お母さんがいない今、誰かがダウンしたら大変じゃない」


「それはそうだが…」


「…くしゅん」

美海が可愛らしいくしゃみをする。


「ほら急がないと」


話し合ってる時間はないか。どうせ夜の風呂で見られるし今更だな。


「そうだな。すぐ行こう」


俺達3人は足早に脱衣所に向かうのだった。

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