第2話 逃走手段
首の皮一枚繋がった、というのが今の俺の状況を正しく表す言葉だろう。
何せ、俺が未だに獄中の罪人なのは変わらない。何とかしてここから脱出して、さっさとこの都市からおさらばしたいところだ。
「それで、人間。お前に計画はあるのか」
「…………」
「何だ、その不服そうな顔は?」
まあ、俺もさっき悪魔呼ばわりしたからあんま人のこと言えないけどさ。
流石にこれから毎回人間人間って呼ばれるのはややこしいし、俺の気分的にもあんまり受け入れたくない。
というわけで、やはり自己紹介は大切だ。
「俺の名前はレルムだ」
「名前……ああ、そんなくだらないことを気にしていたのか」
「長い付き合いになるなら大事だと思うよ、俺は」
「現状、長い付き合いになるかは定かじゃないがな」
こいつ、涼しい顔で痛いところを突きやがる……。
強烈な正論(?)パンチを食らってしまったので、ひとまず説得を諦める。確かに呼び方なんかよりも優先すべきことは多いしな。
「そんで、計画だっけか。……まあ、とりあえずはここからの脱出方法を考えないとな」
原作通りなら、今俺がいる場所は聖都にある騎士団管轄の監獄なはずだ。
聖都は聖王国の首都だけあってかなりの規模の都市で、主人公が活動の拠点としている場所でもある。
つまり、今俺がいる監獄の警備も都市の規模に見合った厳しさというわけだ。脱走が発見されようものなら、数の暴力で押し潰されるのは目に見えている。
当然のことだが、出来るならバレずに脱走したい。
……まあ、それが簡単に出来たら苦労しないんですけどね。
というか、建物の構造も出口も分かってないのに見つからずに脱走するなんて果たして可能なのか……?
羽もないのにぷかぷかと宙に浮かんでいるエルメラを見ながら、良案が浮かんでくるのを待つ。
「よし、エルメラ。俺を持ち上げて、飛んで逃げられないか?」
「お前はバカなのか?」
「……冗談だよ」
今までの倍くらい冷たい目線だったぞ、今の。
まあ、それはともかくとして。
せっかく契約を結んだんだ、エルメラの力を借りたいのは事実。
「というわけで、何か使えそうな魔法とかないのか?」
「お前も知っての通り、今の私は本体から漏れ出た魔力の一部に過ぎん。おかげで、力のほとんどが制限されている」
「……つまり?」
「お前が期待しているような、強力な効果を持つ魔法などは行使出来ない」
えぇ、それって俺がエルメラと契約した意味なくね……?
なんて俺の考えが筒抜けだったのか、エルメラは不快そうに眉根を寄せた。
いや、すいません……。
「だが、召喚魔法の契約によって私との繋がりが出来たお前なら、私の権能の一部を行使できるはずだ」
言われて、ハッとする。
そうだ、最強の悪魔と呼ばれているエルメラに権能が備わっていないはずがない。
権能とは一部の強力な悪魔に備わっている固有能力のようなもので、結界を構築したり血を操ったり、その効果は様々だ。
「なら、エルメラの権能は……」
「お前もついさっき目にしただろう?」
……あ、もしかして。
「枷が勝手に外れたアレか」
「私の権能は『支配』。あらゆるものを私の意のままに操ることができる。とはいえ、お前の場合はあらゆるものとまではいかないだろうが」
冷静に考えなくても強力すぎる権能だ。
流石は最強と呼ばれているだけのことはある。
多少効果が落ちたとしても、俺も使えるなら活用法は色々とあるはずだ。
「試してみるか」
鉄格子の扉部分に手を触れ、意識を集中させる。
感覚としては魔法を使用したときと似た感じだろうか。
ひたすら目の前の扉が開くイメージを描く。
すると、
「おっ」
想像していたよりもあっさりと、俺を閉じ込めていた扉は開いた。
これ、かなり便利だな……。
悪用したら酷いことになりそうだ。
まあ、今まさに悪用してるんだろうけど。
ひとまず牢獄から出て、室内を確認する。
左右には俺が閉じ込められていた牢獄と同じものがズラっと並んでいるが、どうやら中に人は閉じ込められていないらしい。
……と思ったけど、一番奥側の牢獄に何やら人影が見えた。牢獄に入っているということは、俺と同じく罪人ということだろう。
まあ、そりゃ監獄なわけだし俺以外にも閉じ込められてる人間なんてそれなりにいるよな。
…………ん、待てよ?
「そうか、その手があったか」
「何の話だ?」
「この監獄から出るための方法についての話だよ」
今まさに出てきたばかりの牢獄を見ながら言うと、それだけでエルメラも察したらしい。
古今東西、木を隠すなら森の中っていうのが定石だ。
やったこともない隠密をぶっつけ本番でやるよりは、こっちの方が成功率的にはマシだろう。
そうと決まれば。
「エルメラ、お前って姿は隠せるのか?」
「安心しろ。私はお前以外の人間には目視出来ない」
「そうなのか、なら問題ないか」
さすがに他の人にエルメラの姿を見られるのは色々とマズイからな。
懸念を解消した俺は、迷うことなく奥の牢獄に向かって歩く。
そして、中に投獄されている人間と対面した。
俺と同じように枷に繋がれていたのは、ひとりの少女だ。
肩にかかるくらいの藍色の髪に猫のような碧眼が特徴的だろうか。
歳は多分、俺と同じ十五くらい。
驚きからか、俺の姿を見て目を見開いている。
そりゃ自分と同じ罪人が平然とした顔で牢の外を歩き回っていれば驚きもするか。
とはいえ、悠長に事情を説明している暇も義理もない。
俺は声をかけることもなく、権能によって扉と枷を解放する。
急に自由の身となった少女は、ひどく困惑した様子で俺を見つめていた。
「別に君をどうこうしようってわけじゃない。ここに居たければそうすればいいし、そうじゃないなら自由にすればいい」
俺はそれっきり、説明は済んだとばかりに少女に背を向ける。
何せ、こっちはこれと同じことをあと何回やればいいのかも定かじゃないんだ。
さて、早いところここから脱獄するか。
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