29.アルバム
九条の初めての部活はなかなか楽しく終えることができた。
正直九条があそこまでゲームが強いとは思わなかったが、これからリベンジする機会はいくらでもあるだろう。
部室の戸締りをして、学校を出る。
「九条は家どっちなんだ?」
「私も真様たちと同じ方向です」
「なら一緒に帰るか」
「ええ、そうしましょう」
というわけで姫宮と九条を隣に侍らせて一緒に帰ることになった。こんな書き方をすれば俺もクズ男にしか見えないな。
「いやー九条さん凄かったね。真でも勝てないなんて相当強いでしょ」
「そんなことはありません。世界には私よりも強い人がごろごろいますよ」
姫宮が早速話題を振る。このコミュ力の高さは素直に尊敬する。
九条はお嬢様らしくおしとやかな佇まいで微笑んでいる。所作がひとつひとつ美しく、思わず見とれてしまう。
「それに真様はまだまだ強くなれそうでしたけどね」
「そのつもりだ。ゲーマーとしては超えるべき目標がある方が燃えるんでな」
「それなら私がその壁になれるのは光栄ですね」
そんな雑談を繰り広げながら帰路を行く。やがて姫宮との分かれ道にやってきた。
「それじゃ、また明日」
「おう。また明日な」
姫宮と分かれた後、俺は一つの疑問が湧いていた。九条の家はいったいどの辺にあるのだろう。近所にそんな大きな家はなかったように思うが。九条は未だに俺の一方後ろをゆっくりと付いてきている。
「なあ、九条の家はどの辺なんだ」
「真様の家の隣のアパートですよ」
「……なんだって?」
俺は耳を疑った。お嬢様がアパート暮らしをしているのも驚いたし、なによりそのアパートが俺の家の隣のアパートだという。
まさかとは思うがこのお嬢様、あえて俺の家の隣に越してきたんじゃないだろうな。
「というか何で俺の家の場所を知っている」
「そんなの、探偵さんに調べてもらえばすぐでしたから」
「…………」
やっぱり怖い。このお嬢様。
「ってか、なんで一人暮らしを?」
「そんなの好きな人の近くにいたいと思うのは自然なことでしょう」
「だからってそこまでする?」
「私は何かおかしなことでも言いましたでしょうか?」
真顔で疑問符を浮かべる九条に俺は苦笑するほかない。
俺はこの九条というお嬢様を見くびっていたのかもしれない。このお嬢様は危険だ。未来で俺を刺す可能性の最も高いヒロイン。ここまで突拍子のないことをされると、その疑いの信ぴょう性も高まってくる。
「あの、真様。お願いがあるのですが」
「なんだよ」
「荷ほどきを手伝っていただけないでしょうか。まだ越してきたばかりで散らかったままなのです」
それぐらい自分でやれと言いたいところだが、相手が九条なので少し思案する。
お嬢様だしな。きっと急に一人暮らしをすると言い出して家の人を困らせたに違いない。だとすればその責任の一旦は俺にある気がしなくもない。手伝えることは手伝った方が家の人も安心するのではないだろうか。
そう考えた俺は渋々手伝いを了承する。
九条についてアパートに入る。小さなアパートでお嬢様が住むには少々手狭な気がしなくもない。こんなところで本当に九条は一人暮らしができるのだろうか。
「それではどうぞ。狭いですが」
「お邪魔します」
九条の部屋に上がる。間取りは1LDK。リビングに段ボールが積まれている。
「これを開けていけばいいのか」
「はい。私が運ぶには少し重くて」
「そういうことなら頼ってくれていい」
俺は段ボールを下ろすと、箱を開ける。中には下着が入っていた。
「おい、これはダメだろ」
「なぜですか?」
「だって、下着じゃないか」
「真様はどういう下着が好みですか?」
九条が段ボールから下着を取り出し、服の前で合わせて見せる。九条の豊満な身体に黒の下着はあまりにも煽情的で俺はよからぬ妄想をしてしまう。
「黒がお好きですか」
俺の様子を見た九条が微笑みながらそう言う。
「もうやめろってそういうのは。手伝わないぞ」
「すみません。好奇心が抑えられず」
それから荷ほどきをしばらく手伝う。衣服の類は九条に任せ、俺はそれ以外の家事用品などを運ぶのを手伝った。
一時間ほど手伝うとかなり整理されてきた。九条がお手洗いに行ったタイミングで、俺はとあるアルバムを見つけた。興味本位でそのアルバムを開いてみると、中学時代の写真が張られていた。
だが、おかしなことにアルバムの写真はまばらでところどころ穴が開いている。貼ってあった写真を外したとしか思えない。
俺が疑問符を浮かべていると九条がお手洗いから帰ってくる。
「ああ、それを見られてしまいましたか」
「すまない。興味本位で」
「かまいません。酷いアルバムでしょう。穴だらけのアルバムなんて価値はないでしょうに」
「なんでこんな穴だらけなんだ」
「元カレと撮った写真が貼ってあったんです」
元カレか。九条に元カレがいたことは知っている。マンガでもそういう設定だった。九条は真と出会うまでに3人の男と付き合っている。
「これでもモテたんですよ。ただ、みなさん私のお金に目が目当てでしたが」
悲しそうに九条が目を伏せる。マンガの真も九条の金目当てだった。だが九条のことを面倒な女だという評価を下していた。九条が面倒でちょっと怖い女子なのは俺もそう思うが、金目当てで好きでもない女子と付き合っていた真が俺は心底嫌いだった。俺はそんな男たちと一緒にはなりたくない。ずっとそう思っていた。
「私が好きになった人は今まで私自身を好きになってくれた人はいません。私には男を見る目がないのかもしれませんね。あ、真様はそんなことはないですが」
慌ててフォローする九条が痛々しく、少し心が痛む。俺も九条のことを好きなわけじゃない。拒絶はしたが、九条の押しに負けてこうして接点を持ってしまっている。こういう優柔不断なところは姫宮にも言われたが俺のダメな部分なんだろうな。
「男の人を好きになる度、今度こそって思うんですよ。でも、結局私は捨てられてしまう。お金がなければこんな想いもしなくていいのかもしれませんね」
その言葉を聞いた時、俺は咄嗟に言葉を紡いでいた。
「なら、俺とデートしてみるか?」
「え?」
なぜそんなことを言ったのかわからない。だが、痛々しい九条を見ていられなかった。
「俺は九条のことをまだよく知らない。だから知る為にデートをしよう」
「いいんですか?」
「ああ。九条も俺のことをよく知らないだろ。デートしてみたら、思っていた男と違うかもしれないだろ。本当に俺のことを好きでいいのかがわかるはずだ」
「嬉しいです。ぜひお願いします」
というわけで俺は九条とデートすることになった。本当になぜそんなことを言い出したのか自分でもわからないが、とりあえずデートプランを考えないとな。
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