第6話:追放した元リーダーをざまぁします
「おはようございます♪」
目が覚めると、既にイリスは着替えていた。俺もベッドを飛び出して支度をする。
「おはよう。朝飯はどこで食べるんだっけ?」
「ロイヤルスイートなら部屋まで運んでくれますよ……ほら、来ました」
言ったそばからドアがノックされて、朝飯が配膳された。パンと野菜スープに、ひとかけらの魚の
「魚、美味いけどパンより米がほしいな」
「お米ならもう少し南のほうに行けば食べられますね。鎧を返しに行ったら目指してみます?」
「そうだな。今のところ他に行くあても無いし」
食事の後、朝風呂を楽しんでから俺たちは部屋を後にした。
*
食事を終えてロビーに戻ってきた。残った依頼書をチェックする。とりあえずの目的地はアイヒェブルク家なのだが、その道すがらについでに達成できる依頼はないかと調べているのだ。
「おう、イリスじゃねえか! 呪いは解けたようだな」
野太い感じの声に振り返ると、いかにも女戦士……いや、戦士は戦士でも
「また、俺たちと来いよ」
「ひっ……」
女の後ろにいた、いかにも破戒僧といった感じの男が声を掛ける。確かイリスは、呪われた装備のせいでパーティを追放されたと聞いていた。呪いが解けたらあっさり手のひらを返すのは虫が良すぎるのではないか。それに、どうやら彼女は怯えているようだ。
「待てよ、今のイリスは俺と一緒に旅をしているんだ」
左手で彼女をかばいながら言ってやった。なんか物語の主人公っぽくてかっこいいぞ、俺。ちょっと怖かったが、ギルドメンバー同士の私闘は禁じられているという掟を信じての行動だ。
「なんだぁ? お前みたいなヒヨッコが調子に乗るなよ?」
「ヒヨッコじゃなくてケンだ、覚えておくんだな」
Dランクの階級章をちらつかせながら言った。登録時点ではEランクだったが、イリス(彼女はCランクだ)ともにCランクの依頼を達成したので昇級したのだ。
「……と、とにかく! 今の私はケンさんと一緒に冒険してますからっ!」
一見すると、イリスのほうに道理があるように思う。そもそもパーティというのは相互の納得によって成り立っているので、同意していないメンバーを加えることはできない。
「まだ遂行中の依頼が終わってねぇだろうが!」
ああ、これは厄介だ。何らかの依頼が遂行中なのであれば、途中でパーティを抜けるのは許されない。イリスは「追放された」と言っているが、どうやら言葉巧みに「自主的に抜ける」という選択をさせられたのかも知れない。
「で、でも呪われたままでは力にはなれませんでしたし……」
「だから自力でなんとかしろって言ったんだろうが。解決したんなら元の鞘に戻るのが道理だよな?」
「うう……」
イリスは困っている。なんとか助けてやらなければ。
「パーティならお互いに助け合うのが原則だろ。自己解決に任せて放りだしたほうがどうかしてると思うぜ」
「……ほぉ?」
「言葉のやり取りはさておき、イリスはあんたたちが一方的に追放したようなものじゃないか」
しばらく、言葉のやり取りが続いたが平行線だ。見かねて、ギルドの職員がやってきた。俺を面接した(そして脱がされた)眼鏡の女性だ。
「話がまとまらないようなら、ギルドの掟にならって"決闘"をしなければならないわ」
「け、決闘!?」
「といっても、命のやり取りは無し。お互いに納得のいく条件で試合をして、勝ったほうの言い分を通すというわけ」
というわけで、俺は狂戦士ボニーと決闘する羽目になった。
*
「ヒヨッコ相手に武器を使ったんじゃあ殺しちまうかも知れねぇからな。てめぇは武器でも魔法でも好きに使いやがれ」
ボニーは拳をボキボキと鳴らしながらそう言った。
「ああ、そうさせてもらう。どっちが勝っても恨みっこなし、後腐れなしだ」
さすがに真剣を使うのは気が引けたので、木製の剣を構えながら俺は言った。
「せいぜい調子に乗ってろ、恥かかせてやるからな」
奴の挑発を無視して右手で剣を構える。左手は空けておく。どうやらこうすることで、魔法をかけるブラフになるらしい。
(ア・ン・ド・レ……)
「始め!」
「ス!」
審判が「始め」と声を掛ける前から
「な、何しやがった?!」
俺の能力が決まると、脱衣を妨げるあらゆる行動は阻害される。拳を振り上げようとするボニーの動きは止まり、鎧が脱げ落ちていく。
「!?」
あっという間に上半身が裸になり、鎧に隠されていた豊満な乳房が露わになる。必死で隠そうとするところが思ったより女らしい。脱がされても気にせずに戦おうとしていたら負けていたかも知れない。
「あっ、や、やめろぉ……」
地面にへたり込んだ彼女の下半身も容赦なく脱がされる。毛皮でできたスカートのようなものがするりと抜けると、その下は何も付けていなかった。
「これで俺の勝ち、だな?」
真っ赤な顔をして大事なところを隠す彼女の首筋に木剣を突きつけて、勝利宣言をした。
「しょ、勝負あり!」
審判は困惑しながらもジャッジを下した。
*
「て、てんめぇ……」
覚えてろ、とでも言いかけてボニーは言葉を飲んだ。なんでもありだと言ったのは彼女自身なので、今さら後出しでいちゃもんを付けるのは、それこそ戦士の恥なのだろう。
「まあまあ、鑑定士なんてまた見つけりゃいいじゃないスか。それに、姉御も意外と女らしいところあったんスね。惚れ直しヤしたよ」
仲間の破戒僧はマントで彼女の体を隠し、落ちた鎧を拾い集めてそう言った。
「ば、馬鹿野郎っ」
真っ赤な顔でそう言うボニーもまんざらでもなさそうだ。どうやら、俺は人の恋路を助けてしまったのかも知れない。
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