第23話 

「救護班急げ!! 風間を回復させろ!!」


 会場は先程とは打って変わって、非常に騒がしくなっていた。A級探索者は先程の戦いの感想を口々に喋ったり、風間を心配する声も多くあった。


「だめです!! 我々の治療魔法では風間試験官は回復できません!!」

「なんてことだ……っ」

「だれか! A級の方々の中に上位回復魔法が使える方はいませんか!!?」


 必死の訴えだった。


 風間と言う名のS級死ぬこと。それは国の損失どころではなく、世界の損失だ。

 S級は世界に127人しかいないのだ、そして日本には13人しかS級はいない。


(A級の中に上位回復魔法を使える人材なんていないだろう。居たらそれはS級だ)


 義知はそう考え項垂れる。その時だった。


「俺使えます」


 そんな声が聞こえた。

 義知は耳を疑った。


(こんな状況で冗談を口にする奴がいるとは。でも冗談じゃないとすれば……?)


「今、使えるといった奴は誰だ!? 早くこっちに来てくれ!!」


 救護班の黒杉が勝手な判断でそう呼ぶ。


「はい」


 すると瞬きする間に目の前に、人が現れた。義知含め、黒装束の人達が声も出せず驚く。

 現れたのは芳我竜真だった。


(A級試験中、何度も見る機会のあった彼が回復魔法を使えるだと? 植操装甲蟲相手にあんな戦い方ができる奴だ、あり得ない話じゃないか)


「少し見せてください」

「は、はい」


 竜真の声に黒杉はビクッとしつつも、場所を譲る。


(これは酷いな。脳まで全て完全に凍り付いている。これは上位回復魔法ではだめか)


 竜真はそう思い、凍り付いた風間に向ける。


「ちょっと離れていてください」

「…………」

「聞こえたか? 離れるぞ!!」


 黙って回復魔法を行使する魔力の流れを観察しようとしていた、黒装束たちに喝を入れ、遠ざける義知。

 そして竜真は回復魔法を行使する。


「——上位回復魔法」


 この呟きはフェイクだった。上位回復魔法の上、超位回復魔法の行使がばれないようにする為の。


 すると忽ち、風間の冷えた体に生気が灯っていく。

 竜真は魔法の行使に集中して気付いていなかったが、その魔法は周りの人が目を開けていられない程の光量を発していた。


 光が徐々に収まり、通常の明るさに戻った時竜真は口開いた。


「治療しましたよ。脳まで凍り付いていましたが、障害が完全に残らない様に治しました。これで少しすれば風間試験官は起きると思います」

「本当か!! 救護班確認しろ!!」


 竜真の隣や、風間を挟んで反対側に回った黒装束たちが脈を測ったり、呼吸の有無を確かめる。


「完全な確証はありませんが、どうやら本当の様です!! 呼吸、心拍数安定しています!!」

「おお!! よかった……本当によかった」


 義知は涙を流しながら、友の生存を喜んだ。











《side:芳我竜真》


 ふぅ~風間試験官が助かって本当に良かった~。あれで死んでたら洋治が犯罪者になるところだった。あぶねぇ。

 呆然自失としていた洋治も気になるし、人だかりの中に戻ろ……。


「待ってくれ、竜真君! 言葉を発せれない裕介に変わり、お礼を言わせてほしい! 救ってくれて本当にありがとう……!」

「いえいえ、助かってよかったです。本当に」

「後、竜真君。君は合格だ、是非とも準S級攻略隊に参加してくれ! 後、洋治君にも言っておいてくれ、合格と」

「分かりました」


 俺はそれだけ返して、洋治の元へ戻る。


「洋治……大丈夫か?」

「大丈夫じゃねぇ……俺は不合格になったんだ。これじゃあ妹を助けられない……」

「ん? 洋治、合格だって言われてたぞ?」

「……え? マジ?」

「大マジ」

「……よかった」


 そう言って洋治はへたり込んだ。

 洋治らしくない姿だった。妹とはそんなに大切な存在なんだな。……兄妹愛か。




 その後は義知試験官が選抜の対戦相手を務め、黒装束の黒杉と言う方が審判をしていた。

 その途中で目覚めた風間試験官は、義知試験官に事情を説明され途中から審判を務めた。


 結果、選抜合格者は俺と洋治含めて15名だった。

 準S級ダンジョンの攻略開始日時は明日の午後らしく、今俺はそれに備えてお布団の中で休息をとっている。


 正道さんと真之介さんには選抜合格の話をすると、とても喜んでくれた。勿論食事にも誘われたが、何故か睡魔というものが襲ってきたので俺は断った。


 睡魔が襲ってきた理由として考えられるのは、この世界に来てから初の超級魔法行使。これが一番の原因になる筈だ。

 確かあの時、身体から何かが抜ける感覚があった。俺はあれが魔力が抜ける感覚なのだと思い出した。


 その魔力は果たして寝て回復するのか。意識が夢の世界に行くことは魂の状態であっても出来なくは無さそうだが、それで魔力が回復するのかは別問題。


 あ、しくじったな……そう言えば、この体何か食べればそれを体力と魔力に変換できるじゃん。

 今からやっぱり食べるだなんて、気まぐれにもほどがあるし……魔力回復ポーションでも作って飲むか。


 異空間収納から魔力草の束を取り出し、水と一緒にスキルですり潰す。そしてそこに前世から持ち越している謎素材の一つ、魔核三個を粉末にして混ぜる。


 まぁ、謎素材と言ってもネットによると、この世界にも少なからず存在するみたいだし、危なくはないんだろう。【鑑定】も通るし。


=====

《B級魔核》

 等級:B

 B級の魔物から取れる魔核。

 魔力総量:2,600,000

=====


 前世から持ち越している素材は沢山あるが、どれも鑑定を通してみると明らかにヤバそうな代物なので、あまり触らない様にしている。

 だが職業スキルによれば魔核を粉末にして混ぜる事によって、魔核に宿っている魔力が全てポーションの回復効果となると、知識が訴えて来るのでここで使ってみよう。


 混ぜていると、徐々に青色から液体が赤紫色に変色した。完成だ。 

 鑑定してみると、《準超級魔力回復ポーション》と出た。それが六本完成した。


 試しに一本開けて、体を起こし飲んでみる。


 ゴクッ


「うっわ、ゲロまず!!」


 思わず俺は飛び跳ねて、そう言った。


 なんだろう、舌の上で苦味の化身が腹踊りかバタフライしている味って言えばいいかな? とにかくめっちゃまずい。

 でも疲れが吹き飛んだ。効果は抜群っぽい。


 これもフリマで売れるんじゃね? 需要高そう。


 そう思い、フリマアプリで魔力回復ポーションで検索をかける。

 すると何もヒットしなかった。


「え……?」


 嘘だろ……魔力回復ポーションが存在しない? ヤバイ、世に出してはいけない物作ってもうた。これはいざって時まで、異空間収納に封印だな。


 俺は魔力回復ポーションを異空間収納に放り込むと、身体を横にして目を閉じたのだった。




 翌朝午前十時ほどに俺は目を覚ますと、スマホを確認する。すると残りの一本のポーションが売れたと通知が入っていた。

 早速ポーションを箱詰めし、コンビニに行って配送する。

 そして部屋に戻ってくると、何故か未羽さんが椅子に座っていた。


「あ、おかえり。竜馬君」

「あ、ただいま。……なんでここにいるんですか?」

「今日午後から準S級ダンジョンに行くって聞いて、応援しに来た」

「あ、ありがとう」


 未羽さんはそう言って立ち上がると俺に近付き、拳を優しく俺の胸に当ててきた。


「……頑張って」


 俺の目を真っ直ぐ見てそう言うと、部屋から去っていった。

 本当にそれだけ言いに来たんかい。また少し機械関係教えてくれるのかと期待したじゃんか。


 そんなことを思っていると、入れ替わりで正道さんが部屋に近付いてきた。


「竜真殿、少し話があるので一緒に来て頂けますか?」

「はい、分かりました」


 俺はそう答えて、襖を開ける。

 そこにはいつもの和服姿の正道さんがいた。


「行きましょう」


 正道さんの後に付いていく。すると着いたのはこの間朝ごはんを食べた、部屋だった。

 そこには真之介さんが居た。

 俺は二人の対面に座ると、真之介さんが口を開いた。


「なに、念の為息子の特徴と待ち合わせ場所を教えておこうと思ってな。彼奴は写真嫌いでな、あまり写真を撮りたがらん。だから特徴を伝えさせてもらおうかと思ってたのじゃ」


 今の時代で写真嫌いは珍しいのではないだろうか。


「なるほど」

「髪色は黒、顔は儂に似て少し爽やかめのイケメン、服は和服を着ているはずじゃ」


 爽やかめのイケメン……ねぇ。


「は、はあ。和服だったら目立ちますね。それなら見つけるのも簡単そうです」

「名前は博幸ひろゆき。性格は比較的穏やかな方じゃ」

「分かりました。その博幸さんには俺の事は伝わっているんですよね?」

「ああ、伝わっているはずじゃ」

「なら安心です。ではもうそろそろ午後なので俺は行こうと思います」

「気をつけてな」

「お気をつけて」




 俺は北区の目的のダンジョン付近に転移した。そしてダンジョンに向かって歩いていると、道路に自衛隊の人が三人が立っていた。


 なんだろうと思いつつも、ダンジョン広場じゃないので関係ない自衛隊員さんかなと思い、会釈して通り過ぎようとすると。


「ちょっと、そこのお兄さん! この先は準S級ダンジョンだよ、A級探索者以上じゃないと入ってはダメなんだ」


 準S級だからダンジョン広場以外の検問があるのか?

 そう思いながら俺はポケットからカードを取り出して見せる。


「あ、俺A級です」

「あっ、失礼しました! どうぞお通り下さい」


 見せると急に態度をコロッと変え、道を譲る自衛隊員。俺は苦笑いしながら会釈して通った。

 その先にあるダンジョン広場入り口には自衛隊員がタブレットをもっていた。


 俺は近付いてカードを見せる。すると自衛隊員の人はタブレットとカードを見比べ、頷く。


「芳我竜真様、今日は頑張ってくださいね」


 そんな激励をもらいつつ、俺は中に入る。

 

 さて、和服和服……っと。あ、居た!

 俺は和服を着ている確かにイケメンっぽい男の人を見つけたので、近寄る。


「芳我竜真です。貴方が博幸さんで合ってますか?」

「あ、こんにちは~。確かに私が博幸です。貴方が例の王霊級の魂さんの様ですね」

「はい、今回はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 俺達はペコペコと頭を下げあった。

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