第22話 選抜試験

「二人ともお見事!」


 俺は歩み寄りながらそう言って軽く拍手を送る。


「ありがとうございます、お兄さん」

「あ、ありがとうございます」


 明奈さんはニコニコと笑って、主ははにかみながらそう言った。


 今のこのタイミング探索者カードを見せるかどうか、迷ったが見せないことにした。

 俺の事をD級からC級の人間だと思ってくれた方が都合がいいからだ。


 主達は落ちていた魔石を拾って歩き出す。

 そう言えば気になっていたことがあったから、今なら聞けるかもしれない。割と当たり障りのない内容だから大丈夫だと思う。


「そういえば、明日香さんと明奈さんはなんで、ダンジョンに潜っているの?」

「あーうん。実は高校にダンジョン部を作ろうと、私達はダンジョンに潜っているんだけど……顧問になってくれそうな人が『貴方達二人が、D級になったら部を作る申請書にサインしてあげる』って言ってて、そのためにダンジョンに潜っているの」

「そうなんだよ……」


 主はため息混じりに明奈さんの言葉に頷く。

 なるほどそのために潜っていたのか。だったら俺にできることはあまりなさそうだな。


「なるほど。でも明日香さん達の実力だったらすぐにD級に上がれるんじゃないかな?」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ」


 そう頷いて見せると、二人は「じゃあ今度D級の試験受けに行ってみる?」と話し合い始めた。


 その後は二層への階段を見つけ、そのあたりで俺はスマホ確認すると、午後五時半だったので二人にもう帰るよう勧める。

 すると案外すんなりと頷いた二人は少し駆け足できた道を戻る。


 道中の魔物は先回りして念力で斃した。


「「今日は探索に付き合って下さり有難うございました!!」」


 ジャージ姿になった二人から、そうお礼を言われる。


「いえいえ。……あっ、後その封筒は受け取らないよ。俺は特に何もしていないから」


 明奈さんが左手に持っていた封筒を、渡そうとしてきたのでそれをやんわりと断る。


「そうですか? なら将来の部費に使わせてもらいます!」

「そうするといいよ。じゃ、俺はここで」

「はい、また今度時間があれば、一緒に潜りましょうね!!」

「そうだね」


 相槌を返して二人を見送る。


 さて、俺もコンビニに寄ってから澄鳴家に戻りますか。そう思いながらスマホの通知欄を流し見する。するとそこには『あなたの出品した商品が二件売れました』と書かれていた。


「マジか」


 六万円でも売れるもんなんだなと思いつつ俺は、コンビニまで歩く。途中公園によってベンチで残り二つのポーションを箱詰めする。


 コンビニに着いたらフリマサイトのアプリを開いて、QRコードを出す。そしてそれを読み取る機械で読み取り、券が出てくる。四枚分取り、レジに持っていく。


「これお願いします」

「はい」


 店員さんは手際よく、四つの箱にシールを付け「こちらでよろしいでしょうか」と聞いてくる。


「はい、大丈夫です。有難うございます」


 と言って俺はその場を後にする。


 初めて配送したけど、これで大丈夫だっただろうか。少し心配は残るものの、箱の中に衝撃吸収材入れたし、配送方法さえ間違ってなければ大丈夫だとは思う。


 後はスマホの配送しましたってボタンを押してっと。


 よし、澄鳴家に帰るか。そう思い、路地に入って澄鳴家の与えられた部屋に転移する。




 それから約三日後、土曜日。

 俺はダンジョン省の横にある、探索者体育館に集められていた。

 その場に洋治が居たので話しかける。


「あ、久しぶり。洋治」

「おう! 竜真じゃねぇか! でもいうてそんなに久しぶりか?」


 洋治は俺に気付き笑いかけてくる。そこまで緊張していなようだ。


「そうか? 因みに洋治は今日の選抜内容聞いてる?」

「聞いてるぜ。竜真は知らないのか? ……まぁもうすぐあそこに立っているS級が説明するだろうさ」

「へぇ~わかった」


 ……ってあそこに立ってるの、風間試験官じゃね?


「よーし! お前ら!! 今日はよく選抜試験に集ってくれた!! 今から試験を開始する! 試験内容は、俺風間かこの義知よしともと戦って胴体に一撃取れたら合格だ!! 武器はこの体育館に置いてある、木製の物を使え! 戦う順番はくじ引きで決める! 名前を呼ばれた奴から順番に前へ出てこい!!」


 ほう、中々難しそうだ。手加減が。

 上位のA級探索者であれば、易々と突破できそうな試験だな。


 そう考えているとすぐに俺の名前が呼ばれた。人の間を縫って、前出ると俺はくじ引きを引く。


 六番。


 二十四人中、六番か。結構いい方じゃないか? これで一撃取ればいいんだろう? 割と簡単だ。

 くじ引きの紙を風間試験官に渡して、何番目か確認してもらう。


「よし。戻れ」


 風間試験官がそう言うので、他の皆に倣って人だかりの中に戻る。


「竜真、お前さん何番だった?」

「六番」

「おお! いいじゃねぇか! 因みに俺は四番だ」

「おっ、これなら俺らは選抜突破できそうだな」

「そうか……? 流石竜真だな。俺は正直、試験官に一撃を入れることができるかどうか不安だ」

「洋治ならきっと大丈夫だよ」

「そうか? ありがとう」


 俺は洋治を励ます。すると全員くじ引きが終わったのか、風間試験官が口を開いた。


「よし!! じゃあお前ら武器は持ったか!? 一番出てこい!!」

「はい!!」


 勢いの良い返事を発して出てきたのは、中肉中背の男だった。手には竹刀を持っている。


「お前はどっちと戦う?」

「風間さんでお願いします!」

「わかった!!」


 風間試験官は闘技場の上に立ち、それに合わせて中肉中背の男もそこに立った。


「用意、始め!!」


 義知試験官が開始の合図を出した。











◇◆◇◆◇


 試験官が合図を出した瞬間、中肉中背の男――木村善信きむらよしのぶは竹刀に風属性を纏わせて、風間に迫る。


 善信の得意属性は風。それを竹刀に纏い、剣速を加速させたのだ。他にも切れ味を鋭くさせる効果があるのだが、流石A級。精密な魔力操作によって切れ味を鋭くならないようにしている。


 しかし風間はそれを完全に見切り、身体を逸らすことで回避する。

 それは予測していたとばかりに善信は、風間の横腹に竹刀を叩きこもうと追撃をする。それを風間は左手の拳で防ぐと、右手の正拳突きを放つ。

 

 これを食らうのは危ないと本能的に察した善信は、鳩尾を守るように腕でクロスする。だが――


 ドゴッッ


 善信は足の踏ん張りが効かず、闘技場の端まで吹き飛ばされてしまった。

 

 この間約2秒。


 吹き飛ばされてもなんとか立ち上がった、善信は駆けようとして気付く。


(なっ、竹刀はどこだ!? ――って)


 前方を見ると竹刀を持った、風間が居た。そして善信は気付きたくない事実に気付いてしまった。


(嘘だろ……俺の腕が……)


 だらんと折れていた。


 善信はガクンと膝から崩れ落ちる。それを戦意喪失と見做したのか義知が決着の合図を出す。


「救護班! 木村を治療してやれ!」


 そう風間が言うと、どこからともなく三人組の黒装束が現れ、その場で善信を治療すると担架に乗せて運んでいった。


 その様子を見て、やっと観戦をしていたA級探索者たちは口々に言う。


「えげつねぇ……」

「瞬殺だったな」

「おいおい、あんな化け物と戦えって言うのか!? 俺は降りるぞ!」

「俺もだ」

「誰がこの選抜突破できるって言うんだよ!」


 去る者が多数多数現れた。


 その光景を見て風間は心底残念に思う。そして少し早く倒しすぎたか? と反省したのだった。




 それから一人戦って負け、次は洋治の番となった。


「がんばれよ! きっと洋治なら突破できる」

「おう、ありがとよ。行ってくる」


 そう言って覚悟を決めた顔で洋治は闘技場に上がる。


「次は三谷か。この間ぶりだな!」

「はい、お手柔らかにお願いします」

「ははは、それはできんがまぁ精々がんばれ」


 そう言って風間は拳を構える。それに合わせて洋治は木剣を構えた。


「用意、始め!」


 瞬間、両者が激突した。体育館内に冷たい暴風が荒れ狂い、A級探索者たちを震撼させる。


 今何が起きたのか。それは、まず洋治が木剣に氷魔法を纏い、強化の付与を施す。そして【身体強化/Lv.6】を使って力を大幅に強化し、足に力を溜め一気に解放した。

 風間の方は戦闘時常時発動している【身体強化/Lv.7】を勿論の事使い、風属性を拳に纏って駆けた。


 洋治の使った氷魔法は、木剣を凍らせ切れ味と固さを上げ、触れるものも凍らせるという凶悪なものであった。


 そして拳と木剣がぶつかり合う。

 押し負けたのは拳の方だった。だが、風間の拳が凍り付くことはない。

 なぜなら洋治が氷魔法を纏わせていると認識した瞬間、風に合わせて炎も纏って相殺したからだ。


 水蒸気爆発に近いものが起き、風間はその勢いで大げさに仰け反り、木剣の追撃を躱す。

 そして後ろに跳んで、距離を取った。それを追う洋治。


 すると距離を取りながら、風間はスキルを放つ。


「【飛拳ひけん】!!」


 風間はそう叫びながら空を殴る。すると拳の形になった風が一直線に飛ぶ。


 一撃一撃に重みがあるその飛拳を受けれないと思った洋治はその攻撃を飛んで回避する。

 するとそこを狙ったかのように風間は距離を詰めてくる。そして拳を振り抜いた。


 だが、それは洋治に当たることなく空振る。


 洋治は、咄嗟に少なからずとも適性があった風魔法を駆使し、空中に足場を作りそれを蹴って回避したのだ。


 それをみて竜真は「おお、ようやりよる」と感心しながら呟く。


(風間試験官が反応する前に一撃を!!)


 洋治はそう思い、風間の背中を斬りつけようとするが拳で防がれる。


(っ! くそっこの男! 後ろに目でも付いているのか!?)


 洋治は心中で悪態を吐きながら、後ろに下がる。

 そして大技を使う決心をした。


(死んでくれるなよっ!)


「——【侵氷領域】!!」


 【侵氷領域】、それは洋治の浸食氷剣が洋治に与えたスキルの一つだった。

 洋治を中心に半径50mの範囲内に居るモノ全てを凍らせる領域が展開される。


 瞬間、風間は完全に凍り付き生命活動を止めた。


「み、三谷洋治! 合格!!」


 そう義知が宣言しても、誰一人唖然として喋らなかったのだった。

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