第4話 自衛手段

 ここに来てから、2週間くらい経ったろうか。相変わらず、私のダラダラソロライフは充実している。昨日は焼き鳥をアテにハイボールを飲みながら、独身男性のグルメドラマを見ていた。こんな堕落した生活を続けているのに、肌艶は過去最高に良い。これまでどれだけストレスが溜まっていたのだろうか。多少ブラックとはいえ、普通にOLやってたつもりだけど、もしかしたら私も周りの人も、相当無理をしていたのかもしれない。


 たった2週間くらいの話だが、もう遠い過去のように感じる。もし明日朝、目が覚めたら元の世界だったとしても、私の生き方はこれまでとは全く違ったものになるだろう。願わくば、今のこの馬鹿げた預金残高が持ち越されるのを祈りたい。一体どこに入っているのかは分からないけれど。


 そんな私の今のステータスは、こんな感じだ。





ミドリ


種族 ヒューマン

称号 異世界からの転移者

レベル 200,200


HP 20,020,000

MP 20,020,000

POW 2,002,000

INT 2,002,000

AGI 2,002,000

DEX 2,002,000


スキル

・鑑定 LV MAX

・空間魔法 LV MAX


ユニークスキル

・ネット通販楽園 LV MAX


残高 約199億8000万円





 ログの通知を切っていてすぐに気が付かなかったが、10万円分の取引、すなわち、物品を売却するだけでなく購入しても、レベルは上がるようだ。たった2週間で、家や風呂やその他で、約2000万円使ってしまった自分の金銭感覚に震えるが、その気になれば1時間で1億円を生み出せる。またその事実にも震える。


 ええい、もうどうにでもな~れ☆


 人生諦めが肝心だ。もう考えるな、感じるんだ。




 能力値が天文学的数字に見えるのだが、自分では全く変わった気がしない。INTって賢さってことでしょう?賢さが最初の20万倍に上がっても、この有様なのだから、この能力値って本当に参考になるのだかならないのだか、さっぱり分からない。能力値が上がっても、アホの子はアホの子…ゲフンゲフン。


 とはいえ、結界で守られているとはいえ、自衛できることに越したことはあるまい。こないだのようなエルフなんかが来ないとは限らない。奴らから収納したMPは200程度だったが、事前に魔法も使っているし、もしかしたらもっと強いエルフや、外敵がいないとも限らない。


 生憎、私が持っているスキルの中で、戦闘に使えるのは空間魔法くらい。武術系のスキルがあっても、運動音痴の私に使いこなせるとは思えないが、戦えないなら戦えないなりに、何らかの自衛手段を持たなければなるまい。


 手始めに、こないだのエルフたちから徴収した武器を使ってみよう。この小さめのナイフを使って、まずは藁の束でも切れるように練習してみようか。それにしても、藁の束が買えるとか、最近のネット通販って本当に進んでるな。




 あ…ありのまま今起こったこと話すぜ!


 藁の束を袈裟掛けに切ったら、藁の束がひしゃげて吹き飛び、ナイフが根元からポッキリ折れやがった。な…何を言っているのかわからねーと思うが(以下略)


 ナイフの切れ味と、私がナイフを差し込む角度や技術が、マズかったんだと思う。何かの骨で作られたナイフでは藁を切断することができず、かといってナイフを叩き込んだ衝撃が藁の束を直撃して吹っ飛ばす。ナイフはナイフで衝撃に耐えきれず、根元から折れました。そういうことですか。


 アカン。ワシ、いつの間にか、人外に片足を踏み入れていたっぽい。POW(力)20万って、アレだよ。きっと「私の戦闘力は53万です」とかそういうヤツに違いない。


 いやいや、諦めたらそこで試合終了ですよ。まだ種族名はヒューマンだ。頑張れミドリ。


 とりあえず、武器は腕力に耐えられるものにしよう。ひとまずホームセンターでバールのようなものをポチっておいた。鈍器なら大丈夫だろう。




 そういえば、ナイフよりも先に飛び道具を試してみればよかった。ナイフやバールではリーチが短い。かと言って、長剣なんかが手に入っても、上手く立ち回れる気がしない。


 再び藁の束をポチり、今度はエルフの弓矢を試射してみることにする。矢をつがえ、慎重に弓を引き絞り、放つ。すると、矢がうっすらと緑の光を帯びて、藁の束の中心に突き刺さった。エルフ族って弓矢のイメージがあるが、この弓もエルフ族の逸品なんだろうか。


 面白いほど的の中心を捉えるので、調子に乗って遊んでいるうちに、弓からパキッと嫌な音がした。ヤバい、いかに相手が一方的に襲撃してきたとはいえ、万が一これを取りに来られた時、「壊しちゃいましたテヘペロ」ではマズい気がする。見なかったことにしよう。既にナイフを一本折ったことは、記憶から抹消することにする。


 改めて、ネットでボウガンを購入して試射してみた。すると、ボウガンでも問題なく的に当たることが分かった。DEX(器用さ)さんが良い仕事をしている。ボウガンならば、弓を引きすぎて壊すこともあるまい。壊れても、ネットですぐに買えるしね。


 ついでに、ポリカーボネート製のシールドを購入。防弾ベストや防弾ヘルメットなんかも買った方がいいかなと思ったけど、可愛くないのでパス。とっさに着られる気がしないし、普段から着込むのはもっと嫌だ。


 あと、他にはどんな自衛手段があるだろうか。発煙筒や信号弾は、知らせる相手がいないのでパス。銃も、上手に使える気がしないのでパス。狩猟する予定もないし、よしんば獲物を捕らえても、処理なんてできない。もしかしたら、後日購入して練習するかもしれないけど。


 周囲は森なので、移動手段としては車やバイクは使えなさそう。飛行機もダメだね。まず滑走路を作らないといけないし、着陸地点も限られる。ヘリなら行けるだろうか。落ちたら大変そうだし、操縦方法はビタイチ分からないけど、なんなら買っちゃってもいいかも知れない。なんせ残りは199億、その気になれば1時間に1億円…ゴクリ。




 何だか物騒なことに没頭していたら、すっかり時間が経ってしまった。深刻なことは性に合わない。とりあえず、アップルパイでもお取り寄せして食べよう。なんなら、今度自作してもいいな。時間はたっぷりあるのだ。夢が広がる。


 ダージリンと共にアップルパイを頬張りながら、ふと思った。


 もしかしたら、家の結界とは別に、体の周りに小さい結界を張ったらいいんじゃないだろうか。少なくとも家の結界は、エルフの猛烈な攻撃も防ぎ切ったし、びくともする様子はなかった。


 はい、小さい結界、できました。自衛に何の問題もありませんでした。灯台下暗し。とりあえず、ボウガンとシールドは、家の前に置いておくことにする。泣くな私。

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