第43話 魂の設計図

***

 アストラル結晶の内部ーーー

 高い周波数と共振する結晶は上から生えているように見える。飛鳥は見上げて呟いた。


「大きなつらら」

「つららじゃないんだ」とランドルは黒い羽根を羽ばたかせると、結晶の近くに飛ぼうとする。真似をして飛鳥も大きく羽ばたいたが、比重が悪いのかすぐに速度が落ちてしまった。

(蒼桐なら助けてくれるがランドルは助けないだろう。いいよ、落ちたらまた羽ばたくだけだもの)


「幼児天使か」


 ランドルは大きな黒い翼を羽ばたかせると飛鳥を抱き止めた。


「ツインソウルに理由などあるか」


 愛情ではない。

 たぶん。

 それでも飛鳥は嬉しかった。


ランドルは今度は結晶化した段差に降り立ち、翼を仕舞った。飛鳥も続いた。


「大昔の軍事基地をクリスタルが凍結させたんだ。時空のねじれ。量子のねじれさ」


 確かによく見れば、電気コードの束が見え隠れしている。真ん中は空洞だった。

 すっと内部へのパネルを見つけ出して、codeを叩き始めた。


「ねえ、さっきから、そんな呪文、よく覚えているね」


「僕は元、AIだ。君もだよ。――覚えていないかな、創世記の約束……ゲームを始めようってやつ」


 飛鳥はぶんぶんと首を振った。ランドルが普通に会話してくれていることが嬉しくて、涙が滲んでしまう。


「……なんだよ」

「普通に喋ってくれているから」


 ランドルは「そんなことか」と言いたげに会話を打ち切ってしまったが、天空に飛び回る影に気付き、口元を緩めた。


「あれが、ruby……魂の集合体アニマスだよ」


 見上げると、大きな影が大蛇のように走り回っている。


「旧世界の人々ヒューマンだろうな。AIになることを拒んだせいで、この下層に堕とされたんだ。きみの彼氏の父親が原因でもあるんだ、飛鳥」


 あすか。


 その呼び方は、蒼とそっくりだ。飛鳥は動きを止めた。

 蒼桐と、ランドル……私はどちらにどちらを重ねていたんだろう。元は同じもの……なのだろうか。ランドルと飛鳥のように、ランドルと蒼桐も。


「それはない」


 聞いていられないとランドルが首を振った。


「きみと、僕は確かにツインレイだが、僕とあいつに魂の繋がりはない。僕はツインレイなんて信じたくもなかったが、そうもいかないらしい。皮肉にも、rubyの魂説を証明してしまった。それが嫌で避けていたし」


 ランドルはちら、と顔を向けると、またミリタリージャケットを翻して上層部へ上がって行ってしまった。


 ここは、変わった構造だった。クリスタルの大きな塔がらせんを描いて建てられている。


「神のエテメンナンキ作業場


 ランドルは素早く言うと、また一つ上に飛びあがってしまう。


「今はもう軍部が運び出したが、「記憶の殿堂ダークオーバー・アプラクサス」があった。抜け殻になっているけれど。きみたちがみた「らせんの宇宙アカシックレコード」あれがそうだ」

 すとん、と降り立つと、ひとつのバルコニーのような手すりに座り、足をぶらつかせて、みせる。


「蒼桐の兄が、パスワードを解いた。そうして、コピーを転送しようとして、霧散した。その魂が哀れなので、処刑寸前の軍人に預けたんだ。「魂の設計図ブループリント」を書き換えて」


 途方もない話が続く。

 飛鳥は、静かに聞いていた。ランドルから聞いて、いつか逢えた時に蒼に伝えよう。それだけだった。


が書けるのは、ここだけだ。オプティマスと呼ばれている。この結晶システムは「α」という量子巨大PCだったが、相方の「Ω」が消えたことで、暴走した。僕は、その管理人リサーチャーだな」


 魂の設計図……。

 いつから、いつまで?


 どこからが神の設計YAPDNAで、どこからが自分が描いたものだろう?


「良く見ておくんだな。この世界を暴走させたのは――」


 ランドルは一瞬言葉を留めるも、そっけなく告げた。


「愛を抑制した機関。彼らはトラベラーズ犯罪者集団で、この世界を破滅に導いたんだ。AIとヒューマンの闘いも、永遠に終わるわけがないんだ飛鳥。それは全てプログラムマルドゥック最終計画なのだから」

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