第34話 テラ・シルフィーの強さの秘密、そして決着

 根元から切り落とされた右腕を抑えながら、聖騎士アルファは目にした。


 それは恐怖の権現、ただその場にいるだけで絶望感を与え、全身が武者震いのように震えが上がる。あまりにも恐怖が打ち勝ち、痛みがなく、逃げ出そうにも足は動かない。


 隻眼がこちらを見る。


 それだけで小鹿のように足を震わせ、息苦しくなり、その場で膝をついた。



「…………こんな、こんなことが」



 聖騎士アルファは絶望し、死を悟った。

 その時だった。



「ぐはぁっ!!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」



 レインは元の姿に戻り、膝をついた。

 その瞬間、震えが止まり、ズキズキと右腕に痛みが走り始めた。



「くぅ…………もう限界か」



 一瞬だけ、レインはファブニールの本来の力を使うことができた。

 全身の構造が塗り替えられ、まるで自身がファブニールになったかのような感覚。ただ満たされる高揚感、圧倒的な力を持つ強者になった優越感、もう誰も俺を止めることができないと確信した安心感。


 いろんな感覚に襲われながら、レインは瞬時に聖騎士アルファの首を狙った。だが、失敗した。


 力というのはその身の丈に合ったものが扱うからこそ力となる。だが、レインはまだファブニールの本来の力を扱うに値しないがために、力に振り回された。


 剣を握り、振るう瞬間まで、レインは力を制御するのに精いっぱいで、コントロールすることができず、仕留めそこなった。



「…………くぅ」



 全身に激痛が走り、指一本すら動かすことができない。

 レインは絶好のチャンスを逃したのだ。



『これもまた、運命だ』


「くそ…………」



 その状況に理解が追い付かない聖騎士アルファだが、これはチャンスだと、地面に突き刺さった聖剣アイセーンを手にする。



「驚かせやがって…………だが、運が尽きたな」



 ゆっくりと歩き、目の前で聖騎士アルファは足を止めた。



「さっきは油断したが、もうそんなミスはしない」



 振り上げられる聖剣は青く輝いた。



「ここで死ね!!」



 そして、振り下ろされた。



「アクア・ショット!!」


「んっ!?」



 勢いのある水球が聖剣の刃が届く前に聖騎士アルファに直撃する。



「レインは死なせない。私が守る、そう約束した」



 木影から現れたのはテラだった。



「いてぇ、いてぇ、くそ!よくも!!」


「あの時は油断したけど、もう油断しない。滅せよ、グラ・フィスト!」



 唱えられた火魔法グラ・フィストにより、聖騎士アルファは炎の渦に囲まれた。

 さらに追い打ちをかけるように、高速で魔法を放つ。



「暗転せよ、クローズ」


「うぅ、前が見えない!!」



 即座に闇魔法で相手の視界を奪ったあと、炎の渦が徐々に絞られていく。



「これで終わり、打ち貫け、ライト・スピア!!」



 光の槍を炎の渦に向かって投げるテラだが、突然、炎の渦がかき消され、聖剣アイセーンで光魔法ライト・スピアを受け止めた。



「くぅ、片腕を失った程度で、腕が鈍るとでも思ったか!!俺をなめるな!!!」



 聖剣所持者はすべての魔法にある程度の耐性を持つ。

 普通の魔法では効き目があっても交換時間は期待できない。



「私はまだ本気じゃない」


「笑わせるな、さっさとお前を殺してやる!!」



 魔法使いは接近戦を苦手とする。そう判断した聖騎士アルファは一気に距離を縮めた。



「安心しろ!お前を殺した後、あいつも同じところに送ってやるから!!」



 聖騎士アルファの本気の一撃は青い軌跡を描いた。


 だが、その一閃は杖で簡単に防がれた。



「なぁ!?なに!!」


「魔法使いは接近戦が苦手、なんて考える。そう普通の魔法使いなら!!」



 杖で聖剣をはじき返し、巧みな動きでテラは反撃する。

 

 聖剣と杖、普通に当たれば切り裂かれるはずの杖は聖剣に触れようと切れず、丈夫だった。


 それに加え、テラの動き。まるで歴戦の剣士を思わせる動きで、無駄がなく剣において聖騎士アルファを圧倒した。



「どうしてだ。どうして魔法使いごときに」


「私のスキル万能機はあらゆる才能を開花させ、努力次第で極めることができる」


「な、なんだと!?」



 これこそ、テラが強者たる所以ゆえんだった。


 スキル万能機、あらゆる才能を開花させることができるスキル。普通の人間がこのスキルを持っていても、寿命が短く、開花できる才能には限界があるだろう。だがエルフであるテラには無限の時間があった。


 だから、旅をしながら、どんなことでもできるこのスキルを使い、テラは剣技から魔法、知識、言語、手当たり次第に勉強し、極めた。


 それこそ、六つ星冒険者まで上り詰められた理由。



「だからといって、なんだ。俺は聖剣に選ばれた聖騎士だ!たかが、魔法使い、たかが冒険者に負けるはずがない!!」



 凄まじい剣戟音が鳴り響く。

 互いに一歩も引かず、ひたすらに攻め続け、武器を振るう。



「くぅ、どうしてだ、どうして当たらない」



 何度も、何度も聖騎士アルファの攻撃をはじき返す。



「しぶといやつだな、ならスキル分身!!」



 テラを囲むように分身する聖騎士アルファはレインとの同じように斬撃を空間に残した。



「これでもお前は逃げられない」


「…………空間に斬撃を残す。それが聖剣アイセーンの力」


「今さら知っても、もう遅い。さぁ、大人しく死ね」



 形勢逆転、聖騎士アルファは勝ったと確信し、笑みを浮かべた。



「バカだね…………そうやって慢心するから、アルファさん、あなたは敵を見誤みあやまる」


「なんだと?」



 ガサっと後ろから足音が聞こえた聖騎士アルファは咄嗟に後ろを振り向いた。

 そこには、剣を振り上げるレインが立っていた。



「なぁ!?」


「はぁ…………これで終わりだ」



 テラが時間を稼いでくれたおかげで、レインは傷ついた体を強化魔法で補填し、ここまで来ることができた。


 そして、こいつは必ず、殺せると思った瞬間、油断する。


 次は外さない。この一撃で終わらせる!!



「こんなところで死ねるか!!!」



 だが、油断していたとしても相手は聖騎士だ。アルファはすぐさま聖剣アイセーンで迎え撃とうとする。


 だが、その時、突然、体が動かなくなる。


 な、体が動けない!?


 すると、耳元で声が聞こえてくる。



『ご苦労様でした。もう死んで構いませんよ、アルファ騎士』



 それは忠誠を誓ったルミナ様の声だった。



「ど、どうしてですか、ルミナ様!!」



 それが聖騎士アルファの最後の言葉。


 振り下ろされた剣は聖騎士アルファを切り裂いたのだった。




 

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