第33話 聖騎士アルファが調子に乗った結果

 戦いは思いのほか、拮抗した。

 

 聖騎士アルファが振るう聖剣アイセーンは切り裂いた方向に斬撃を残す。それは魔力によって生み出された穴のようなもので、触れてしまえば、腕すら簡単に切り落とすことができる。



「逃げてばっかりか!二つ星!!」



 振るうたびに斬撃が残り、動きが制限されるが、すべての斬撃が残るわけではない。



「5つが限界か」


「よそ見とは、余裕だな!!」



 聖騎士アルファの攻撃は当たらず、よけ続けるレインだが、考えなしによけているわけではない。


 聖剣の力は固有でどんな力が宿っているかわからず、いくらファブニールの力であろうと、負ける可能性がある。それこそ、油断大敵というやつだ。



「くぅ、やるじゃないか。だがまあ、これぐらいやってもらわないとな」



 聖騎士アルファの魔力量はそこまで多くない。だが、厄介なのは聖剣だ。

 斬撃を空間に残し、隻眼でよく見なければ、気づくことさえ困難。集中力を欠けば、アルファの術中にハマり、一気に傾く。


 できれば、余裕のうちに片を付けるべきだが、そこで問題があった。


 ファブニールとの契約によって俺とファブニールに魔力によるパスが繋がっており、それを伝ってレインは力を得ている。だが、そのパスというのはレインの魔力で生み出されており、魔力がなくなれば、そこで力の供給源であるパスが途切れることになる。


 持って後、5分といったところだ。



「そろそろ、聖剣アイセーンの本気を見せてやる。スキル、分身!!」



 スキル分身により、レインは聖騎士アルファに囲まれ、逃げ道を閉ざされる。



「これでお前は終わりだ。俺の意志に応じよ!!聖剣アイセーン!!!」



 青い光を放つ聖剣、聖騎士アルファが剣をふるうとその場に斬撃が残った。



「そういうことか」



 残った斬撃がレインを囲む。



「一歩でも動いてみろ。体が綺麗に切り刻まれるぞ」



 スキル分身と聖剣の力で斬撃を囲い、逃げ道をなくす。

 これが聖騎士アルファの戦い方、ということか。


 斬撃を残せるのは5っだ。だが分身したアルファが放った斬撃はすべて残っている。つまり、一人につき5っまでの斬撃が残るわけだ。


 まさしく、聖騎士アルファのための聖剣と言わざるえない。



「さて、俺はゆっくりと見守るとするかな。安心しろ、死ぬ瞬間までしっかりと見守ってやる」


「聖騎士ともあろう方が、こんな姑息な戦い方をするなんて、騎士としての誇りはないのか?」


「お前が騎士の誇りを語るな。なんにせよ、お前は負けた。あとは死ぬだけ…………それにしても調子こいた言葉を言っておいてこのざまとは…………はぁ、なのにどうしてあの方はこいつのことを、まあいい。お前が死んだと知れば、きっと考えを改めてくださるはずだ。そう、そうなれば私をきっと」



 ニヤニヤとするアルファは楽しそうにこちらを見つめていた。


 どうやら殺さず、死ぬのを待つようだ。



『どうする、わが契約者よ。このままでは死ぬぞ?』



 レインを囲う斬撃、アルファの余裕そうな表情を見るに時間で消えるようなものではない。だからといってここから抜け出そうとすれば、避けられない斬撃によって切り裂かれて、死ぬ。


 考えれば、考えるほど詰みだ。


 おい、ファブニール、聞いてるんだろ。この状況を打破できる方法はないのか?



『そんなものはない…………と言いたいところだが、あるにはあるぞ』



 それは?



『わが契約者よ、貴様はそもそも割れの力の半分も引き出せておらん。強化魔法という下地があるからこそ、隻眼の開眼、我の魔力が使えるのだ』



 つまり、力が有り余っていると?



『そういうことになるな』



 なるほど、それで?



『強化魔法をかけ続け、オーバーフロー状態に持っていけ。そうなった瞬間、竜の治癒能力で瞬時に回復させる。それを繰り返せ』


 

 それをやったら俺の魔力が尽きてパスが…………。



『何を言っている。われの魔力を使って行えばいいだろ』



「…………」



 契約した関係上、レインの魔力とファブニールの魔力は別に存在し、箱から取り出そうような感じでレインはファブニールの魔力を使っている。


 そうか、ファブニールの魔力でも強化魔法は使えるんだったな。でも、そんなことをしてどうするんだよ。



『それを行うことで一時的に限界を超えた、そのまた限界を超えた、そのさらに限界を超えた身体能力を手に入るはずだ。まあ、強化魔法ブースト・リミットリリースに近い状態になると思っていい』



 普通に、強化魔法ブースト・リミットリリースを使うのはダメなのか?



『ダメだ。あの魔法は限界を超えられるがそのさらに限界は越えられない。それでは意味がない』



 わかった。



『そうすることで、お前は一時的に我の力に耐えうる体を手に入れるだろう。そうすれば…………』



 ファブニールの力のすべてを解放できる。そして、あいつを殺せるんだな。



『ああ、いくら聖剣であろうと理不尽な力の前では無意味だからな。だが、そのあとのことに関して、我は知らんぞ』



 どちらにせよ、このままじゃあ、勝てないなら、やるしかない。


 決意は固く、覚悟は決まった。

 強化魔法ブースト・リミットリリースは反動がすごく、切り札中の切り札だ。それを超える強化をするのだから、その反動は計り知れない。


 だが、それを考えるのは生きて帰った後だ。



「…………ああ、覚悟は決まった」


「死ぬ覚悟が決まったのか?」


「…………ふん、笑わせるな。死ぬのはお前だ」



 レインはファブニールの魔力をできる限り解放し、唱えた。



「ブースト………ブースト………ブースト………ブースト………ブースト………ブースト………ブーストっ!!」


「な、なにをしてるんだ、こいつ」



 強化されていくたびに体が熱を発する。そして、一度目の限界が来たところで、竜の治癒能力が発動し、瞬時に治る、がすぐにまた限界を迎える。


 それが何回も繰り返され、そのたびに体に激痛が走る。



「なんだこいつ、血迷ったのか」



 そんな愚かな行為を眺めるアルファ、ただ何もせず棒立ちだった。


 そして、ある時を境にレインは唱えるのをやめ、アルファを見る。



「聖騎士アルファ、お前が俺を殺せる瞬間は何度もあった。だが、お前は楽しむことを優先し、殺さなかった。それがお前の過ちだ」


「何を言って…………んっ!?」



 聖騎士アルファですら気づいた。レインの様子の変化に。


 片目だけだった隻眼が両目となり、その場にいるだけ息苦しくなるほど魔力を放ち、何より凄まじい殺気が喉元に食らいついたような感覚がアルファを襲った。



「我、契約に従い、汝の力を解き放たん」


「聖剣アイセーン!!!」



 聖騎士アルファは己の生存本能に従い、レインを囲む斬撃を操り、放った。

 だが、時すでに遅く、次の瞬間には聖騎士アルファの右手が切り裂かれ、聖剣アイセーンが地面に突き刺さる。



「な、なにが起こって…………」



 アルファはすぐに後ろへと振り返った。


 その時、信じられない光景を目の当たりにする。


 漆黒の鱗を体に纏い、左手には漆黒の剣、二本の角をはやし冷たくこちらを見つめるのは竜の隻眼、両手は鋭い爪を持つ。


 その姿はまるで竜そのものであった。



 


 

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