第25話 冒険者カードの異変

 宿に戻り、俺はベットで仰向きになった。



「まさか、こんなことになるなんてな」



 街の危機、それを救えるかどうか、俺にかかっている。普通なら緊張で眠れないだろう。


 だけど、俺はワクワクしている。この冒険に、そしてもし成功した時の未来を想像して。



「俺もすっかり冒険者だな。さてと、見ますか、冒険者カードを!!」



 漆黒の竜を倒し、無事にと言っていいかわからないが、生存して帰還。

 これが意味することはつまり、大きなレベルアップ、そして成長だ。



「あれだけ、苦労したんだ。きっとかなりレベルアップしているはずだ!!それじゃあ、早速…………」



 俺は親指を嚙んで、冒険者カードに自身の血を垂らした。

 そして、文字が浮かび上がる。



名前;レイン・クラフト

二つ星冒険者

レベル:17

スキル:なし

魔法:強化魔法9

???:???

・ステータス

 力:110

 魔力:212

 素早さ123

 器用さ67

 賢さ:101



「10から17、一気にレベル7も、くぅ苦労したかいがあるな。しかも魔力がすごい上がっているし、ああ、気持ちいぃ」



 自分が成長していることがうれしすぎるがあまり、浮かれる俺だが、ふと気になる項目を見つける。



「なんだ?この???は?」



 新しく追加されている欄は???で隠されていた。



「冒険者ギルドが新たに追加したのか?…………まあいっか、今はそれよりレベルアップしたことを喜ぼう」



 レベル20になれば、ついに三つ星冒険者レベルになる。


 あと少し、あと少しで俺もついに三つ星冒険者になれる。そのためにも今回の依頼、確実に成功させないとな。この街を守るために、そして俺の目的のためにも。


 気を引き締め、決意するレインだった。



□■□



 作戦決行日は三日後、そして1日が過ぎ、残り二日となった。

 そんな中、俺達は騒がしい冒険者ギルドへと足を運んだ。



「すごい慌てぶりだな」


「うん、異常なぐらいに」



 いつものようにメルトさんのもとへ。



「レインさん、あの依頼見ましたか?」


「あの依頼?」



 テラのほうへと視線を送ると、左右に首を振った。



「見てないが、何かあったのか?」


「それがですね、ティルミナ聖教側から大きな依頼が張り出されたんです。その内容がこれです」



 メルトさんに見せられた一枚の紙。

 その内容は、街の護衛だった。


 なるほど、ティルミナ聖教の騎士だけじゃなく、冒険者も使う気なのか。



「この依頼が破格すぎで、たった二日、街を防衛する。しかも報酬金も通常の護衛依頼報酬金の3倍!!」


「3倍?それはすごいな」


「ですよね。というわけで、どうですか?」


「いや、大丈夫」


「な、なんですか?こんなにお得な依頼、人生に一度あるかどうかですよ?」


「俺には目標があるから。だから、お得より、自分のためになる依頼を受けたいんだ」



 その返答にメルトさんは口を閉じた。


 俺、なんか変なこと言ったか?



「そうですか、レインさん。少し変わりましたね」


「そうかな?まあ、ここ最近でかなり成長しているような気がしているがな」



 まあ、本当は護衛より重大な依頼を受けているなんて言えないし、何もなかったら、素直にその依頼を受けていたと思う。


 だってお金ないと目標に向かっていく以前の問題だし。



「うん、レインは成長してる」


「…………ありがとな、テラ。それじゃあ、ほかの依頼はないか?そうだな、できれば魔物討伐がいいんだが」


「でしたら、これがいいと思います」



 その依頼を見て俺はニヤリと笑った。



「テラ、この依頼、どう思う?」


「いいと思う」


「…………そうか、ならこの依頼にする」



 準備を整え、俺達は森の中へと入っていた。

 そして、早速、戦闘が始まる。



「今の俺は一味違うぞ!!」



 依頼内容はワイルドウルフの群れを潰すことで、今の俺たちはワイルドウルフに群れに、作戦もないしに特攻していた。



「数は20匹か…………テラ!!」


「ファイヤー・エッジ!」



 テラは即座に火魔法ファイヤー・エッジを展開し、攻めてくるワイルドウルフを火の棘で串刺しにした。



「親はお前だな」



 片目に傷があるワイルドウルフを捉えると、すかさず剣を引き抜き、突き進んだ。


 親を守るように次々と襲ってくるワイルドウルフだが、強化された体と武器の前では敵なしと、いともたやすく切り刻んだ。


 すごい、前のレベルアップとは違って、強くなったことが実感できる。それにワイルドウルフの動きが遅く見える。


 ワイルドウルフは動きが早くなるスキル俊敏を保持しており、ほかの魔物より素早いのだが、今俺は、その動きを捉えることができている。



「すごい」



 その動きにテラすらも驚いた。


 そして、気づけば、親であるワイルドウルフ一匹のみとなった。



「俺はまだまだいけるぞ!!」



 体力は有り余っている。強化も限界まで強化しておらず、まだ余地を残している。


 ゴブリンと戦うのにすら必死で戦っていた俺が、ワイルドウルフを翻弄ほんろうしている。まるで自分が自分じゃないみたいだ。



「あぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」


「これは…………」



 ワイルドウルフが使えるスキル威嚇か。でも、スキル覇気に比べれば、全然、大したことないな。



「終わりだぁぁぁぁぁっ!!!」



 懐まで入り込んだ俺は親であるワイルドウルフ素早く切り裂き、倒した。


 血を流しながら倒れるワイルドウルフ。その光景を見た俺は静かに笑みを浮かべた。



「はは、やった。俺でも倒せた…………倒せたよ、兄さん」



 最初はテラを頼ったが、それは親であるワイルドウルフをなるべく早く倒すためだ。でも、それでもテラの力をほとんど借りずに倒したの事実。


 それだけ、うれしくてたまらない。



「やったね、レイン」


「ああ、これもすべて、テラのおかげだ」


「私は何もしてないよ」



 いや、全部テラのおかげなんだ。こうして、前に向いて歩めるのも、魔物と戦えていることも、漆黒の竜を倒せたのも、テラがいなきゃありえないことだ。


 やっぱり、あの時の選択は間違いじゃなかった。



「テラ…………俺、君と出会えてよかった。パーティーを組めてよかった」


「私もだよ、レイン」

 

「さて、素材剝ぎ取って、帰りますか」


「うん」



 こうして、依頼をこなした二人は冒険者ギルドへと向かうのであった。

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