第24話 聖女様の完璧な策、そして不安を抱くテラ

 教会、それは街の端にある小さな教会だ。

 聖女様が来るまではティルミナ聖教の信徒が少なく、ほぼ無人だったが、聖女様が来て、一気に人が賑わう場所となった。



「ここが教会…………」


「見たことないのか?」


「見たことあるよ。でも、私の知っている教会と違う」


「だろうな。この街の教会が建てられたのは数百年前だし、王都にある教会とは比べものにもならないはずだ」



 とはいえ、聖女様が来てからはこの人だかりだ。

 すでに住民の半分がティルミナ聖教の信徒になった、という噂を耳にするし、この噂、あながち本当なのかもな。



「とはいえ、どうやって中に入るんだよ」



 教会はすでに人でいっぱい、当分、いなくなる様子もない。


 これはしばらく、待機かな。



「ねぇ、レイン」


「なんだよ」


「教会の裏でこっちを覗いてるあの子は知り合い?」


「覗いてる?一体誰…………んっ!?」



 テラが指さすほうへと視線を向けると、そこには見覚えのある聖女様の姿があった。


 ど、どうして、聖女様がここに。いや、教会だからいるのは当たり前かって、いやいや、だとしてもどうして教会の裏側に。


 聖女様はずっとこちらを見て手招きしていた。



「行くぞ、テラ」


「うん」



 周りにバレないよう、少し遠回りして教会の裏に訪れた。



「久しぶりですね、レイン様」


「お久しぶりです、聖女様」


「だから、敬語はいいといったのに、隣の方は?」


「同じパーティーメンバーのテラです」


「テラ様ですか…………知っていると思いますが、私はティルミナ聖教の聖女の一人、ルミナ・アルテです」



 相変わらずの愛想っぷり、こんな笑顔で接しられたら、みんな惚れてしまうな、うん、間違いない。



「テラ、よろしく」



 テラはプイっと視線をそらした。



「私、嫌われるようなこと、しましたか?」


「テラは人見知りなんです。それより、こうして接触してきたということは」



 ニコニコとした笑顔を見て、俺は肯定だと捉えた。



「それでは、ついて来てください」



 俺とテラは聖女様の後ろについていき、教会の裏にある隠し階段を降りた。


 降りた先には扉が開けると、普通に過ごせるぐらいの環境が整った部屋が用意されていた。



「普段はここで過ごしているんですよ。聖女という身分上、いつだれかに襲われるのか、わかりませんから」


「聖女様を襲うバカがいるとは思えないけど」


「いるですよ。世の中にはね」



 よくわからないけど、聖女様が言うのだからそうなのだろう。



「お茶をお出ししますので、椅子に座ってゆっくりしていて下さいね」


「あ、ああ、はい」



 お茶が出るのを待っていると、テラはお茶を入れている聖女様をずっと見つめていた。



「…………というか、テラ。どうした?機嫌でも悪いのか?」


「別に普通だけど」


「いや、どう見ても機嫌悪いだろ。しわが眉間によってるぞ」


「う、うそ!?」


「噓だ」


「なぁ…………レイン、あまり私をからかうと痛い目見るよ?」



 そう言って杖を持って俺のほうへ向けてきた。



「じょ、冗談だ。でも、半分は本当だぞ。お前、聖女様に会ってからずっと見てるだろ」


「…………別に、ただ綺麗だなって思っただけだよ」


「なるほど、エルフでも聖女様が綺麗に見えるのか」


「うん、すごく綺麗。きっとすごくモテるんだろうね」



 興味深そうにお茶を入れる聖女様を眺めるテラはジッと見つめている。


 テラがそこまで気にするなんて、さすが聖女様と言うべきか。まあ、俺から見ても凄く可愛くて、美人だし、まさに聖女の鏡って感じだ。



「どうぞ、ティルミナ聖教の御用達ごようたしのお茶です」



 出されたお茶は人生で嗅いだことのない匂いが漂い、不思議とリラックスした気分になった。



「いただきます」



 一口飲む、フワッと爽やかな香りが鼻を通り、なんとも感じたことのない感覚が襲った。



「不思議な味」


「初めて飲むと、混乱してしまうかもしれませんね。このお茶はリラックス効果だけではなく、魔力促進効果やステータスをプラス1する効果があるんです」


「そ、そんなお茶があるのか」


「最初は慣れないかもしれませんが、飲んでいればそのうち慣れますから。ゆっくり飲んでくださいね」



 正直、びっくりしすぎて味がよくわからなかったが、まずいわけでもない。


 テラの言う通り、不思議な味だ。



「ではそろそろ本題に入りましょう。レイン様、テラ様」



 優しい表情とは打って変わり、真剣な表情、口調で聖女様がしゃべり始めた。



「知っての通り、今、この街は未曾有みぞうの危機に瀕しているといっていいほど、危険な場所になっていることはフールギルド長から聞いていますよね?」


「ああ、魔物がこの街に迫っていることはフールギルド長から聞いている。そして、その原因が遺跡の崩壊だけでなく、魔物を仕向けている犯人がいることもな」


「…………そこまで聞いてるのなら、話は早いですね。今回、レイン様、テラ様に依頼するのは魔物を仕向けている犯人を捉える、もしくは始末してもらうこと。そして、すでに私たちは犯人の居場所を特定しています」



 その言葉に思わず、目を点にして、飲んでお茶の手が止まった。


 しかし、そこで一つの疑問が思い浮かぶ。

 すでに犯人の居場所を特定している?なら、どうして、依頼なんてするんだ?


 犯人の居場所が分かっているのなら、ティルミナ聖教の騎士を使って制圧すればいい、それで解決することだ。


 その疑問に対し、すぐに聖女様ほうから答えが返ってきた。



「しかし、問題があるんですよ」


「問題?」


「はい、犯人の居場所を特定できたものの、その場所は魔物に囲われていて、今、動員できる騎士では突破できないんです」


「それじゃあ、俺達が加勢しても無理じゃないか、なぁ、テラ?」


「難しいね。そもそも魔物を操る相手ってだけで分が悪いのに、たった二人が加勢したところで力になれない」



 テラの言う通り、ティルミナ聖教の騎士は凄腕揃いだ。そんな中に俺とテラが加勢しても、力になるどころか、下手をすれば、足手まといになる。



「そこで、私は一つの策を用意しました。三日後、この街に向けて、多くの魔物が攻め込んでくることが分かっています。その間は…………」


「手薄になるってわけか、でもどうして三日後に多くの魔物が攻め込んでくるってわかったんだ?」


「1日経つごとに魔物数が増え、そのたびに犯人を囲む魔物が手薄になっているからです。そして、そのピークは今日から三日後」


「なるほどな…………」


「しかし、この策には一つ、問題があります。それはこの街をレイン様、テラ様が犯人を捉える、殺すまで守らなければいけないということ」



 たしかに、犯人を殺したとしても、街が滅びたら意味がない。


 そこで、ピンっ!と聖女様の策がどんなものなのか、閃いた。



「あ、なるほど。ティルミナ聖教の騎士を街を守るために使い、その間に俺とテラで犯人を殺して来いってわけだな」


「その通りです。さすが、レイン様」



 作戦事態はそこまで難しくはない。

 問題は相手の強さがわからないことぐらいだが、まあテラがいるから問題ないだろう。



「作戦決行日は三日後の夜、その日に私の騎士が犯人の居場所の近くまで案内する予定です」


「わかった。それじゃあ、その作戦でいこう」



 ここまで入念に準備しているなんて、さすが聖女様だ。

 


「そろそろ時間ですね、近くまでお見送りします」



 階段を上がり、教会の裏に出ると、すでに夕方で、俺達はここでお別れした。



「ふぅ、すんなり解決しそうだな」


「…………」


「テラ?何か不満なことでもあったか?」


「不満はない。作戦も完璧だと思う。でも、あまりにも隙がなくて、なんだか、気持ち悪い」



 テラはどこか不安そうな表情を浮かべている。



「考えすぎだって、それに相手は聖女様だ。そんな疑いの目を向けてたら、天罰が下るぞ」


「でも…………私は、もうレインを死なせたくない」


「それじゃあ、もし何かあったら、テラが俺を守ってくれ。それでいいだろ?」


「たしかに、レインは私が見てないとすぐ死にそうだから」


「おい、それはどういうことだ?」


「そのままの意味」



 テラが俺をからかっただと、しかし、そんなテラがすごくかわいいんだが。


 今にして思えば、こうして六つ星冒険者のテラと一緒にいることが異常で、パーティーを組んでいることも異常だ。


 でも、テラは俺に君と冒険がしたいと言ってくれた。それがすごく嬉しかったんだ。



「なんか、こうして一緒にいるのが夢みたいだ」


「…………夢じゃない、現実だよ、レイン」


「そうか、現実か。よし!今日は外食だ!お金もあるし、たくさん食べるぞ!!」


「うん!!」



 こうして、俺とテラは力家に訪れ、たらふくご飯を食べるのであった。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る