第19話 デート②

数分して、注文したものが席に運ばれてきた。


「これは、私のおすすめの紅茶です。よかったら飲んでみてください」


 店員さんによってカップに紅茶が注がれた。


「すごくいい香りですね」

「そうでしょう」


 ラースは紅茶を一口含む。


「美味しい……」

「お菓子にもサンドイッチにも合いますよ」

「本当ですね。さすがです」


 クレインはラースの顔をニコニコと眺めながら紅茶を口に運んでいる。


「あの、私の顔になにか付いてます?」

「いえ、食べてる姿も可愛いなと思いまして」


 そう言って、ニコッと笑う。


「あ、ありがとうございます……」


 ラースは頬を赤く染めた。


 ゆっくり時間をかけてラースたちは紅茶と食事を楽しんだ。


「他に行きたい所はあるのですか?」


 店を出ると、クレインが尋ねる。


「そうですね、あまり考えていませんでした……」

「では、私が懇意にしている宝石店へ行ってみませんか?」

「いいですね」

「では、行きましょう。ここから、すぐ近くですので」


 クレインの案内で、再び歩き始める。


「ここです」


 中央通りからは少し外れているが、決して悪くない立地にその宝石店はあった。


「あら、クレイン様。いらっしゃいませ」


 店主は変装していたクレインのことも分かっているらしい。


「こんにちは店長」

「こんにちは。今日は随分と可愛いお嬢さんをお連れなんですね」


 店長はラースに視線を移して言った。


「ラースと申します」

「店長のアンジェです。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「クレイン様が女の子を連れてきたなんて初めてよ。これはビックニュースね」


 店長はなんだか嬉しそうだった。


「ちょっと見せてもらっていいかな?」

「ええ、もちろん。ゆっくりご覧になってください」


 ラースはクレインと共に宝石を眺める。


「こういうのって見てるだけでも楽しいですよね」

「ええ、そうですね」

「全部、魔力付与が可能な宝石なんですね」


 宝石には魔力付与が可能な魔石と呼ばれるものと、そうでないものがある。

ここの宝石は全て魔力付与が可能なものだった。


「よくお分かりになりましたね。その通りです」


 私の言葉に店長は驚いた表情を浮かべていた。


「彼女はベルベット氏の孫娘だ」

「まあ、ベルベットさんの。確かに、少し似ているかもしれませんね」

「祖父を、ご存じなのですか?」

「昔、私の家で飼っていた猫を助けてもらったことがあってね、それ以来ずっとお世話になってたのよ」


 縁というのは不思議なものだ。

それが、過去に祖父が築いた縁がこうして今ラースに繋がる。

なんだか、嬉しい気持ちになった。


「ベルベットさんが亡くなってもう4年になるのよね。早いわよね」

「生前は祖父がお世話になりました」

「お世話になってたのはこっちよ。あの人は平民でも差別せずに治療してくれるから皆んな彼を慕っていたわ」


 医療は万人のためにあるもの。

それが、祖父の信念でもあった。


 ラースはそんな祖父を見て育ったので、同じ道を歩んでいたのだ。


「せっかく来たんだし、何か買っていくよ。そうだな、これなんかラースさんに似合いそうだな」


 クレインは髪飾りを手に取った。


「そんな、プレゼントされる理由がありません」

「私が稼いだ金を何に使おうが私の勝手だ。店長、これをもらおう」

「さすが、クレイン様。お目が高いですね」


 クレインはサッと会計を済ませていた。


「でも、なぜ髪飾りを?」


 一般的に婚約者の女性にプレゼントと言ったら、指輪やブレスレット、ネックレスなどが無難と言われている。


「ラースさんはお医者さんですから、指輪やブレスレットでは仕事の邪魔になるかと思いまして」

「なるほど。ありがとうございます」


 確かに、仕事中は指輪などは付けられない。

そこまで考慮して選んでくれていたとは、どこまで気が使える男なのだ。


「はい、これプレゼントです。私の魔力を付与しておきました。きっとこれがあなたを守ってくれるでしょう」


 渡されたのは、クレインの瞳の色と同じ色の髪飾りだった。

もしかして、意外とクレインは独占欲強いタイプ?


「ありがとうございます。大切にします」


 ラースは髪飾りを髪につけた。

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