第18話 side王立魔導工房4

「これが、異界化の核とやらかしら?」

「魔導師ヒルデバルド、ここも華麗に決めてくださいっ」


 王都の地下深く。ヒルデバルドたち三人は異界化の核とおぼしきモンスターを見つけていた。


「仕方ないわね、……けほっ。けほっ」

「魔導師、ヒルデバルド……っ!」

「どうしたの、シュリサリー。そんな、驚いた顔をして……けほっ」

「そ、その顔っ……ひっ」


 異界化の核とおぼしき巨大な不定形のモンスターが発光していて、その空間はこれまでの地下の道に比べて明るかったのだ。

 そのため、取り巻きたちはようやく気がついたのだった。


 ヒルデバルドが、この短時間で老いていることに。


「魔導師ヒルデバルド。手」


 ボーロがヒルデバルドの手を指差す。


「何よ、手がどうしたって……」


 ヒルデバルドが、権の錫杖を取り落とすと盛大に悲鳴をあげ始める。

 その手はすぐに自らの顔に触れていく。


 頬に。

 鼻に。

 瞼に。


 張りを失い、垂れ下がり始めた顔の皮膚が、その手に触れる。


 まるで、熱された鉄に触ったかのように、自らの顔から手を離すヒルデバルド。

 今触れた現実を拒絶するかのように、絶叫が響き渡る。


 その音にひかれるように、発光する巨大な不定形モンスターが三人へと迫り始める。


「ひ、ヒルデバルドっ。きたっ、きましたっ」

「た、倒さないと……」


 おろおろとするシュリサリー。

 普段はぼーとしているボーロも焦ったようにヒルデバルドの服を引っ張る。


「イヤよイヤよイヤよイヤよ。うそようそようそようそよ──」


 ひたすら現実を拒絶するかのように、ぶつぶつと呟き続けるヒルデバルド。その目は何も映していない。

 シュリサリーとボーロは顔を見合わせると、そっと頷き合う。ヒルデバルドを見捨てて逃げ出したのだ。


 しかし、全てが遅かった。

 逃げた二人も、ヒルデバルドも。襲いかかってきた巨大な不定形モンスターに飲み込まれてしまう。


 こうして、権の錫杖は王都の地下深くにて人類の手から失われることとなった。

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魔導工房を自主退職に追い込まれた幼馴染み~俺は彼女を天才だとリスペクトしてるので一緒に退職してみた。 御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売 @ponpontaa

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