4.

 人付き合いを希薄にしているという自覚は充分にあった。彼女たちがいい子なのには違いないが、その付き合いもたった数年で終わりを迎える。


 高校を卒業して数年も経てば、深緋はまたリセットされて、十一回目の女子高生を演じる。その繰り返しなのだ。


 心許せる友達作りなど、必要ない。自分は不老長寿の吸血鬼で、あの子たちとは違うのだから。


 ガランとした体育館に入り、どこか寂しさを感じた。既に電気が消えているせいもあるだろう、さっきまであんなに賑わっていたのが嘘みたいだ。


 とにかく、ペンダントを探さなきゃ。


 入って右手奥の体育館倉庫に足を向けた。鉄製の分厚い引き戸をガラガラと開けると、薄暗い空間に片付けたばかりのバスケットボールや、壁に並べて積み重ねられた跳び箱、器械運動で使う体操マットが数枚見えた。


 この学校の体育館倉庫には鍵が無い。以前、何処かの小学校で体育館倉庫に閉じ込められた生徒がいたそうで、鍵を取っ払ったと体育教師の岡本大貴が言っていた。


 中途半端に扉を開けたまま、手を伸ばして庫内の電気を点ける。蛍光灯の明かりの下を、埃の粒が舞って見えた。


 こんなに沢山の物が詰まった中から、果たして本当に見つかるだろうか? 考えただけでうんざりする。


 探しに来るより先に、尾之上たちを問い詰めれば良かったと軽く後悔していた。


 それまで手にしていた、体操服や体育館シューズを入れた手提げを、床に置く。ざっと室内を見て回った。腰を屈めて床に膝をつき、丁寧にバスケットボールのカゴから確かめる事にした。


 記憶には無いといっても、深緋に母親の存在を知らしめてくれるのは、あのロケットペンダントだけだ。一枚だけ持たされた、あの写真でしか顔を知らない。どんな性格でどんな声を出して深緋の名前を呼んでいたのか、想像することしかできない。


 亡くなった母親のことは、祖母から少しだけ教えて貰ったが、いまいちピンと来なかった。


 祖母は、父親の存在は知らないと言っていたし、母親がどんな経緯いきさつで命を落とすことになったのかも分からないと言っていた。


 そんなはずはない、詳しく知りたい。そう思っても、祖母を悲しませるような気がして、今だに聞けずじまいだ。


 それでも、いつかは分かる日が来ると思っている。


 祖母から託されたあのロケットペンダントを持っていれば、いつかは母親を知れる日が来るはずだ。


 友達に重きは置けないが、同族、ましてや家族という存在は、深緋にとって何よりも大切だった。


 バスケットボールのカゴを動かし、奥に潜んだカラーコーンを調べる。


 不意に六限を告げるチャイムが鳴り、ハッと顔を上げた。


 なんとかして、放課後までには見つけないと。

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