白昼夢と、愛

うみつき

白昼夢と愛

目の前にいる愛してやまないあなたを見つめながら、ぼんやりと、思考を巡らす。

いつだって私の中心にはあなたがいた。

何をするにも、一番最初に思い浮かぶのはあなただった。

いつからだろう、私があなたに囚われ始めたのは。


間に挟まるアクリルの板に、そっと手をくっつける。

目を合わせて、見つめて、触れ合うように。会話をするように。

大丈夫、今は誰も見ていない。


「あなたは私のこと、どう思ってるんだろうね?」


こちらを見つめ返して返事をするような仕草と声に、思わず笑ってしまった。

本当のところはわからないけど。


言葉が通じればいいのにね、

とひとりごちる私をよそに、あなたは優しい、どこか幸せそうな目をこちらに向けていた。


どくん、と心臓が脈打つ。

その目を見るたびに私はなんとも言えないものに苛まれて、泣きそうになる。

うれしくて、くるしくて、せつなくて、かなしくて。

やめてよ、そんな目、されたら。


「期待しちゃうじゃない」


そう、期待してしまうのだ。

あなたも、私のことを大切に思ってくれてるんじゃないかな、って。

思い上がりなのもよくわかっている。

そんなことありえないことも。

けれど、私は知ってしまっている。

私を見つけるたびに嬉しそうに来てくれることも。

優しさと幸せがこもったような瞳をしているようなところも。

どう?どう?って体をくねらすようなところも。

他の人にはそんなことしないことも。

全部、全部。


わかっている、わかっているつもりなのに。


私にとってあなたは特別で、何にも代えがたくて、それでいて大好きで、愛していて。

何よりもあなたが一番だ。

でも、あなたはきっとそうじゃない。

少し気が合う友達、くらいに思っていてくれたら良い方だろう。

わかっている。

こうやって目の前にいてくれて、私を認識してくれている、それだけで十分に幸せなことなのだ。


わかっている。二十分に理解している。


私は、あなたの言葉がわからないし、触れることも、もっと近くに寄ることもできない。

無論、今尚抱えている大きすぎる感情を伝えることも。

そんな立場の奴が、大切に思われてるなんてこと、あるはずがない。

あなたと私じゃ、相違が大きすぎる。

そう、自分に言い聞かせる。


そんなせめぎあいの思考の波の中、ふと、ぼんやりと、想像しまった。

同じ場所に立って、抱きしめて、すり寄って、好きだよ、って安直で平坦な言葉を投げかけて。

そうやって、この感情を伝えられたなら。

それが叶ったのなら。

どれだけ幸せなのだろうか。

実現することなどありえない妄想に耽けてく。

白昼夢に、おちていく。

あなたが、アクリル越しじゃなくって、目の前の触れられるところにいて、私はあなたの体に手を回して、ぎゅっ、と腕に力を入れる。

あなたはこちらに擦り寄ってくる。

隙間なくピッタリと体をくっつけて。

ほっぺたをすりつけて。

ゆっくりと、溶けるように、舌っ足らずに、すき、だいすきだよ、って言葉にする。

そうしたらあなたは、あなたは。

…………どうしている、だろうか。

想像、する。

あなたの表情を。

ぼんやりと、目の前に輪郭が浮かんでくる。

やさしい、やさしい、かお。


「…れてくださ〜い。ガラスから離れてくださ〜い。」


「…………ッ」


係の人の声にはっとする。

妄想がぷつり、と途切れて、ぼんやりとした幸福感が薄れていく。

もう、もう見つかってしまったか。

少しくらい許してくれたっていいじゃないか、と思いながらガラスから離れて、すみません、と声を返す。

ひどいねぇ?と、つぶやきながらあなたの方を向き直る。


「ぇ………………」


予想にしない声が漏れてしまった。

処理が、追いつかない。

だって、だって、

白昼夢の中のあなたと、同じ顔のあなたが、いたもんだから。

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