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「ゆきはる見て!いっぱい取れたっ」


りつが大きな籠を抱えてこちらに駆けてくる。

転びやしないかと心配する俺の腹に、りつがぼふんとぶつかった。


「あいたっ。ゆきはるのお腹かたいねぇ。見て!りつ、すごい?」


大きな目をきらきらとさせて、俺を見上げるりつが可愛い。

俺は自然と笑顔になって、りつの頭を撫でた。


五才になったりつは、母親に似て色白で、とても可愛らしい容姿になってきた。

子供特有の高い声で、まだたどたどしく話す様子が、可愛くて仕方がない。

俺は何度もりつの頭を撫でると、りつと目線を合わせるようにしゃがんで、りつから籠を受け取って脇に抱え、りつの手を握った。


「すごいぞ、りつ。たくさん取ったのだな。ん、これとこれは薬にして、残りは汁に入れて食べよう」

「うん!僕、ゆきはるのご飯好き」

「そうか?ただ煮るだけなのだがな…」


俺と握った手をぶんぶんと振って、大きな目を細めて笑うりつ。

俺は、この笑顔を守るためには、何でもしてやりたいと思う。

りつの着物についた草を払ってやりながら、ふと気づいた。


「りつ…おまえ、少し大きくなったか?着物の丈が短くなっている。少し休んだら着物を買いに行くか」

「ほんと?僕も行く!」

「もちろんだ。おまえを一人になどさせるものか」


りつと手を繋いで家の中へ入りながら、新しい櫛も欲しいなと考える。

俺は肩まで伸びた髪を無造作に紐で縛っている。そのままにしていると、あちこちに跳ねて面倒だからだ。

りつは、とても綺麗な珍しい髪色をしていて、触ると絹のようにサラサラとしている。

ずいぶんと昔に手に入れた櫛で、肩の下まで伸びた藤色の髪を梳いてやっていたのだが、最近所々欠けてしまっていたのだ。

瓶の中の水で手拭いを濡らして、りつの顔と手足を拭いてやる。柄杓に水をすくってりつに飲ませると、干し芋をりつに手渡した。


「りつ、それを食ったら里に降りるぞ。冬に売った毛皮の金で、おまえの着物を買って美味いものでも食って来よう」

「うん…」

「どうした?」

「ゆきはるは?ゆきはるの着物は買わないの?いつも僕のものばかり買ってくれる…」

「当たり前だ。俺はおまえが一番大切なんだ。おまえの喜ぶ顔が見れたらそれでいい」

「じゃあ僕も!僕もゆきはるの嬉しい顔が見たい!だから、ゆきはるの着物も買ってよ。ゆきはるのを買わないんだったら、僕のもいらない…」

「りつ…」


俺の着物を掴んで、しゅんと俯くりつの小さなつむじが可愛い。

俺は、しゃがんでりつと目線を合わせると、りつの頬をむに…と摘んだ。


「俺は背が伸びた訳ではないから、買う必要はないのだが…。りつがそう言ってくれるなら、買おうか。ありがとな、りつ。りつは優しくて良い子だ」

「ほんと?よかったっ。…でも、僕は優しくないの。さっきもね、草取るのに夢中になってたら、いきなり野犬が出てきてね…。びっくりして石投げちゃった。野犬は逃げて行っちゃったけど、石当たらなかったかなぁ。当たってたら、痛いよね…」


口をへの字に曲げて泣きそうな顔をするりつの頭を肩に寄せると、俺は不安で胸が苦しくなって、少しきつい口調になる。


「りつ…野犬が出たら叫べと言ってあるだろう?おまえが襲われでもしたらどうする。必ず俺が守るから、次からはちゃんと俺を呼べ。いいな?」

「うん…」

「それに、そんなに心配することはない。りつの力で投げた石が当たった所で、野犬は痛くも痒くもないぞ。きっと驚いて逃げただけだ」

「ほんと?じゃあよかったっ。ほっとしたらお腹空いちゃった。ゆきはるも一緒に食べよ?」

「出かける準備をしたらな。先に食べてろ」


板の間の藁で編んだ円座の上に、ちょこんと正座をして、大きな干し芋を小さな手で持って食べる姿が愛らしい。

俺は、こんなにもりつが愛しくなるとは思わなかった。小さなりつを必死で育ててきたが、俺に全幅の信頼を寄せて甘えてくるりつが、日を追う事に愛しくて堪らない。

今では、俺の命よりも何よりも、りつが大切だ。りつに害を成すものは、何であっても許さない。

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