after.

「キョウカ、っていうの」


「名前?」


「そう。弔いの花で、キョウカ」


 知っていた。けど、黙ってた。


「きらいだった。たまたま生まれた日に何かあったってだけで、わたしの一生の名前が弔いに使われるなんて」


 いま口を挟むと蹴られそうなので。踏まれたまま黙ってる。薄氷の上で寝そべってる気分。でもマットレスはやわらかい。


「何か言えよ。しんでんのか」


 あっ喋らないとだめなやつだった。


「俺が消えても、弔わなくていいよ。弔いたくないだろ」


「そう」


 その、一言、で。理解する。


「俺を弔う花なのか」


「そう。消え行くあなたへの弔いの花。それがわたしの名前」


 名前を、呼べと。今ここで。踏まれてる状況下で。脚のぐりぐりが、それを否応なく伝えてくる。


「響花」


「約束して」


 ころされる。


「3年かけたの。あなたを探すのに」


 絶対にころされる。塵も残らない。


「もう二度と、わたしのために任務を入れないって」


「は?」


 そうだ。よく考えたら何もかもおかしい。彼女は、こちら側じゃなかった。俺を見つけたのもたまたまで。人ではないものとも遭遇してなくて。


「おまえ。まさかこっち側に」


 彼女の脚を跳ねのけて起き上がろうとして。

 蹴られた。さすがに身の危険を感じたので、両腕を交差して受ける。

 強い。


「こっち側に。なっちまったのか」


 彼女。背が伸びたんじゃない。身体が引き締まったんだ。華奢な体躯に筋肉の鎧。もうすっかりモデル体型に。


「わたしは、あなたのためならなんだってやる」


 さっきまで波立ってあふれていた彼女の心が。


「だから」


 静かに。


「あなたも」


 鏡面のように静まっていく。


「できるだけ、わたしの名前を呼んで」


 静かな心。初めて逢ったときと同じ。自分と同じ。水面のような、一滴の振れもない。


「響花」


「なぁに?」


「お粥おかわり」




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響花 春嵐 @aiot3110

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