第37話 覚悟


「はぁ?」


厄災の声に、アークは違和感を感じた。

何故か。

確かに、ゴーレムは討伐した。謎は残るものの、決着自体はついている。

真っ二つとなった骸もそこにある。

なれば、何故厄災は「終わっていない」とアークに告げたのか。

答えは、すぐに出た。


「────!!」


横一線に切断された筈の肉体が、不気味にくっつき、立ち上がったのだ。

断面図は繋がれず、胴体と腕が繋がり、奇妙な状態となる。

その上、赤く、朱くゴーレムの目が光った。

それは、彼ら魔物には決して現れない禁忌の色。

異常を前に大剣を構えるアーク。

距離的に、ナイフの回収は不可能と判断した。

下手に動けば全滅も有り得る。

深く、ゴーレムの身体を観察しているうちに、気づいた。


(触手に、!?)


驚きはするものの、それ以上の根本的な恐怖が、彼らを襲った。

視線を交わし、シキは拳を強く握る。


「「!」」


刹那、巨大な拳が迫る。

拳には触手が纏わりついており、ひとまわり大きかった。

アークは迎撃を。

シキは回避を選択した。


巨大な拳は積もった雪を舞い上がらせ、無理やり視界を塞ぐ。


(コイツ……さっきよりも……!!)


地面に押し倒され、押し潰される直前で剣を滑り込ませたアーク。

切先を押し付けつつ、再起を図ろうとするアークだが、


「切れねぇ!」


思うように身体が動かない。

その上、彼自身は気づいていないが、を起こしている。

なれば、『亥ノ太刀』は真なる効果を発揮することができないのも納得がいく。

圧倒的不利な姿勢で、打開の一手を考える。

ただ、状況が状況な故、まともな手は生まれない。

そこに、救世主とでも言うべき声が響く。


──オレが手を貸してやろう。


それは、自身が忌み嫌う厄災の言葉。

だが、今は状況が状況。

藁にも縋りたい気持ちなのだ。


(本当か?)


半信半疑になりながらも、厄災に問う。


──ああ。無論だ。オレに二言は無い。但し一つ条件を課す。

(なんだ?早く言え)

──そこにいるガキもろと共オレに鏖殺させる。これだけだ。

(はあ?ふざけんな!んな事、認める訳ないだろ!)


イラつきを言葉に乗せながら回答を告げる。


──なに、オレはキサマが死のうが何も困りはしない。このままでは、全員まとめて殺されるが?

(だとしてもだ!……くそ)


この間にも、時間は進んで行く。

もはや地面は凹み、小さなクレーターが生まれている。


触手と体術の相性が最悪なのは、2人とも経験で理解している。

故に、武器を持たず、魔術も使えないシキは逃走以外の選択肢は消え去っていた。

手助けにすら入れない状況で、シキはタイガの樹の間を潜り抜けつつ、追ってを躱し続けている。


──決断を下せ。覚悟を決めろ。もう、時間は残されていない。

(……分かった!変わってやる。但し、3分間だけだ!)


アークの答えに、暗闇がニイと笑った気がした。


──良いだろう!契約は成立した!

(ごめんシキ……)


決して本人に伝わることのない謝罪をし、彼の意識は虚空へと堕ちて行く。

そして、


「けははははははははははははははははははははははは!!」


高らかな嗤いと共に、厄災が目覚めた。

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