第19話 わずかな未来
「結局のところ。勝利まで一歩届かず、敗北したわけ」
「へぇ。惜しかったんだ。僕も見てみたかったなぁ」
「面白味はないよ。地味、泥沼、意地のぶつけ合いだったから」
「そういうのが、僕の好物なんだよ?」
「……好きにしろ」
螺旋状に続く、曇りなき空。
ただ、蒼天は本来の色を失い、白銀へと染まり果てていた。
まるで、時が止まっているような静寂。
そこにいる2人がいなければ、世界は鼓動を失っていた。
見上げても見上げきれない壁に囲まれた部屋の中心で、えんじ色の光が脈を打つ。
光には空から鎖が吊るされており、その鼓動を抑制しているようにも見えた。
奇妙な光景を、2人は片手間で観察をしている。
片や、2メートルは超えるであろう巨大で、三つの首に、三つのペストマスクをつけた大男。少し茶色の混じった黒いレインコートを着用し、丸太の如き腕を組んでいた。
それぞれのペストマスクは別々の方向を向いており、左端の首が少年を覗く。
「ふん。貴様が見たいものとは、かけ離れている筈だが……まぁ、暇つぶしにはなるか」
「そうそう。ゲームなんてここには無いし、暇つぶしの道具がこれしかないからねー」
「ならば、俺が稽古をつけてやろうか?」
ペストマスクの内側で口角を小さく上げた大男は、側で話をしていた小さな少年に挑発をした。
だが、何度も同じことを繰り返しているからか、少年は無視し、本命であるえんじ色の光『
地上から遠く離れた空に拠点を置く彼らは、永遠とも言える時の中で、ある目論みを立てていた。
「──ヤツの帰還まで『有光概』の死守をしろ。か」
「他2人はまぁ、うん。地上で好き勝手やってるだろうし。王様も、僕たちが勝手に行動を起こすのを、望んでいないし、ちょうど良かったけどねー」
適当に返事を返す少年は、大男とは違い、外見だけを見れば常識的な範囲だった。背丈は10前後。
ただ、内側から漏れ出た気配は、決して人とは言えない。魔物とも違う異物の魂を漏洩させながらも、不敵な笑みを崩さない。
男とは違い、白衣を着用し、白銀の瞳を宿していた。
「ま、『有光概』が発動してから、僕たちはやりたい事をやる。それだけだしね」
えんじ色の光は小さな爆発を起こし、大きく鼓動を繰り返す。
それは、時を告げ、命を告げ、始まりを告げる。永遠の象徴である『有光概』は、誰にも知られることなく、誰かを待っていた。
今はまだ、誰も知らない。
「星を廻せ。創滅の刻が貴方を待つ」
「何者だお前」
大亀を倒し、旅を続けた矢先の事だった。
顔を隠した訳のわからん男が目の前に立ち塞がり、その手に持った大剣を振り払ったのだ。
咄嗟にバックステップで大剣の間合いから離れたアークだったが、彼が踏み込んだ大地が割れ始める。
地下には何も無い筈の地面が割れ、何かを飲み込まんと割れ目が大きくなった。
アークがナイフを構える前に起きた事であり、彼には何も抵抗することができなかった。
『無音』を使おうにも、闇が光を飲み込む間もなく、砕け散ってしまう。
「お前、敵か?」
「いや」
ナイフを見て、男は大剣を地面に突き刺し、一度、片膝をついた。
困惑を隠せていないアークを尻目に、男は淡々と唇を振るわせる。
「なんなんだ、お前は?」
「──『慾威の空』の者」
「はぁ!?」
彼、彼女らに『慾威の空』と言う単語は、耳にしたことが一度もなかった。
正体不明の男は膝を上げ、右手を空に掲げる。
「!」
黒い風が手のひらから現れ、男を飲み込んで行った。
視界を遮り、爆風が微かに大地を掠め取る。
「待て!」
アークが踏み込んだ瞬間、ぱっ、と風が宙を舞い、無となった。
そこに、男はいない。
割れた地面は何もなかったかのように修復されていた。
(マジで……何なんだよ)
呆れながら、先へと進む。
疲れとはまた違う何かが、どっぷりと彼を襲った。
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