幕間 心眼は、真実を映す
勇者になれなかった者。
期待されていた。
ある小さな、地図にもならない村で少年は産まれた。
彼は特別な力を持っている訳ではない。
何十、何百年前の勇者の生まれ変わりと謳われていた彼は、次期勇者として育てられた。
だが、結果として別の誰かが勇者となりて、魔王を討った。
魔王が討たれたことによって始まった宴の中で、1人貪り泣いているもの。
悔しさが、後悔が、胸に刻まれた。
なんで、自分じゃ無かったのか。
ある意味で言えば、彼は勇者にならなかったことで、魔王に出会わず、真実に辿り着かずに済んだことを考えれば、幸運と言えるだろう。
吐きそうな暗闇、混沌と蠢く死の帷。
のしかかる後悔が、悲しみを告げた。
「どうして……俺じゃ、ないんだよ!」
少年の名は、シキ。
一生を平穏で終える。そう、思っていた。
時は今、新時代の魔王クエートの宣戦布告が世界中に轟いた。無論、それは彼の生まれ故郷である村にも届いている。
それは、絶望であり、同時に彼にとっての希望でもあった。
嬉しさ半分で、彼は村を飛び出す。
無論、魔王を倒すために。
右手に刻まれた、刻印を掲げて。
「首を洗って待ってろよ、魔王!俺が、お前を倒す!」
紺碧の髪を靡かせ、大剣を担ぎ、魔物を切り裂く。
彼はアークやクエートのように強力な魔術が使える訳でもなかった。
だからと言って、決して彼が弱い訳ではない。なんなら、
「はぁ!」
硬い装甲を持つゴーレムですらも、最低限の力だけで、豆腐のように真っ二つに切断できていた。
半人半魔、ホムンクルスでもないただの人間は、魔王討伐を掲げて一人旅をしている。
猛吹雪の村は、アシキノからかなり離れていた。
生まれ故郷を離れるのは少し、寂しい。
だが、それ以上の事を、彼は成し遂げるのだ。
そう考えたら、我慢だってできる。
──運命というものは、残酷に蝕んでいく。
無機質な声が、虚空に鳴り響く。
──それも、悪意が混じっていない分、余計にタチが悪い。
──
──勇者と言う
そんなこと、彼は知る由もない。
知らず知らずのうちに、運命は交差する。
過ぎ去った過去は、今と激突するまで、歩みを止めない。
復讐に飲み込まれるのが先か、運命が交差するのが先か、果たしてどちらが来るか、今は定かではない。
ただ、今は剣を振い続ける。
その身尽きるまで、果てしない道のりを。
切り裂き、切り開く。
「……」
魔王を討つ。
その一心を、胸に刻んで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます