第9話 崩壊の刻
「──殺せ」
脳裏に響く、本能の叫び。
ソレは頭痛となりて、内側からアークを苦しめていた。
「──死を奏でろ」
嘲笑うように、苦しみを愉しんでいる。
内側がそうだと言うのに、戦っているアート本人はクエートの猛攻を凌ぐので精一杯だった。
「はぁ!」
一手間違えれば死に繋がるクソゲー。
その上、クエートの持つ呪い『千里眼』によって、対応する動きを看破される可能性も存在していた。
バラバラにされた固有魔術『無音』は一度使う度に10分のクールタイムが発生する。
現在、クエートの魔力『
半ば投げやりで、ナイフを振るう。
案の定と言うか当たり前と言うか、ナイフは魔王の剣によって振り払われた。隙を見逃さず、彼は剣を胸目掛け突きつける。
「君らしく無いね」
瞬きの直後、クエートの視界からアークは姿を消していた。
『無音』は所有者関係無く光を失わせる性質上、暗闇になれ、高速で動く必要が存在していた。言ってしまえば、鍛えているのだ。
背後を振り向かずに彼はいつのまにかそこに居た存在に声をかける。
「やりようはいくらでもある。ソレこそ、魔力のオーバーヒートを無視し、『無音』を余の固有魔術に破壊されない程の強度を保つことも可能だろう」
「……」
黙り込み、弾き飛ばされたナイフを回収した。
「いや、しないと言うのはそう言うことなのだろう。それ以上は何も言わないさ」
落ち着いた雰囲気で、剣を構える。
「──死ね。殺せ。撃て。弾け」
頭痛が、吐き気をもたらした。
疲労とは違う、病気とも違う気持ちの悪い何か。
(何か、おかしい)
金属音が響き、こぶしがぶつかり合った。
「初対面のヤツを殺したくは無いが、敵ならば仕方がない」
獣使いダマは無数の獣を従わせている。
ソレも、弱きはスライムから強きはドラゴンまで。但し、上限は本人以外知らない。ドラゴン以上のものを抱えているのは確かだ。普段は「」に従わせた獣を内包しており、必要に応じて「」から獣を取り出していた。
対する彼女は己の肉体を鋼鉄の鎧に変化させ、細長い腕を極太の西洋の剣に作り変えた。
並大抵の者ならばその装甲を破ることは不可能である。
シグレの目の前に立ち塞がる、三体のゴーレム。ヘビに包まれた中身は、瞳を交わし飲み込まれていった。
「……フセツ!?」
その瞳に、彼女は見覚えがあった。
ただ、その言葉は少年には届かない。
行先を阻む、天井ギリギリまで巨大化したゴーレムは両手を組み、全力で床をぶん殴った。
ばき、とひびが入り、ぼろぼろと瓦礫が架空へと落下していく。
(倒さないと、ダメだよね?)
やらなければいけない、と覚悟を決め、魔力を固有魔術に変換していった。
『グォォォォォォォ!!』
轟音の咆哮が、部屋中に響き渡り崩壊の刻を、始まりの刻を告げる。
「ッ!」
走り出し、中央に立つゴーレムに刃を振りかざした。
ゴーレムが反応できない速度で、魔力を腕に込める。
だが、
『グォォォォォォォ!』
鋼鉄には鋼鉄をと言わんばかりに固い装甲はシグレの腕を弾いた。
空中で腕を弾かれた彼女の胴体にゴーレムの巨大な拳が迫る。反応し、ガードの姿勢をとった。だが、迫り来る拳の大きさは、彼女の全長を優に超えている。ガード虚しく、シグレに直撃した。
「ッ!」
ごん、と壁に激突する。
ぶん殴られたダメージも、壁に激突したダメージも、鎧の前では、無傷に等しかった。
ただ、極限までダメージを減らしたと言うだけで、傷は肉体に刻まれる。
(正面突破は……うん、厳しそう。作り替えるなら、斬撃以外のモノ……)
ズンズンと思い足取りでゴーレム達は彼女との間合いを削り、迫った。
「……ッ」
両手の剣は更なる長身へと変化する。
右手は銃の形となり、左手の剣だったモノは弾丸となり右手に吸い寄せられていった。
ばん!
「!?」
閃光の一撃は、ゴーレムの肉体を貫き、魔王城の壁を破壊する。
『等価交換』の性質はかなり異質といえる。なにせ、指を弾丸として打ち出せば普通ならば2度と指を使うことができなくなるが、彼女の魔術なら瓦礫一つを指に変えることすらも可能だった。
「2発目!」
撃たれたゴーレムが揺らぎ倒れた瞬間に、彼女は2発目の弾丸を撃ち込む。
「!?」
刹那、打ち出された弾丸は黒く染まり、跡形も無く消滅した。
空を見上げると、ゴーレムを喰らう黒龍の姿。
翼すら無いソレは縦横無尽に飛び廻り、味方である筈の鉱石を喰らい尽くした。
「あぁ、うん。正直ゴーレムだけでなんとかなると思ってた。見くびっていた」
黒龍の背中に乗る、蛇の少年。
「フセツ!」
「あ?手前、何言ってんだ?誰だそいつ」
スコープを龍の方に向け、トリガーを引く。
だが、打ち出された弾丸は黒龍に触れることなく、黒く染まり消滅した。
「さて、コレで分かっただろう?手前の攻撃は全て俺には効かない。詰みだ」
ゴーレムを全て喰らい尽くした黒龍……バルボロスは殺気の混ざった咆哮を上げ、シグレを緋色の瞳が覗く。
「──因果は、終わっていない」
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