第6話 固有魔術


固有魔術は大きく分けて2種類。

一つは、を行う魔術。例を挙げるとすれば、身体強化や獣化など、大抵が所有者に効果を発揮するものだ。

もう一つは、を行う魔術。例を挙げるとすれば、重力操作や瞬間移動など、大抵が世界全体に効果を発揮するものである。


この2種類の違いは、干渉する相手以外に、の違いも存在している。

命一つを操るのか、世界そのものの在り方を操るのか。普通に考えれば反動が違うことは当たり前だ。



「ッ!やるな」


少女の魔術は前者に当たる。

自身の肉体を別の物に作り変える魔術。

少女はソレを『等価交換』と名付けた。

か細い腕が、強靭な剣に変わり、アークを切り裂かんと腕だったものを振るう。


無論、アークが警戒していたような開示発動型では無いものの、固有魔術の一点だけ見れば、そこら辺の魔術使いを凌駕していた。

ただ、


「だぁ!」


ソレすらも、アークはナイフ一本で全て防いでいた。


「……悪くないな」


アークの言葉は、彼の正直な感想。

彼の言う「悪くない」は、自身に匹敵する可能性がある者に対して発言する。


かん!と金属音が鳴り響き、アークは左拳を握り込む。

逆手で待ったナイフにぐっと力を入れた。


「ッ!この」


刹那、少女は意識が逸れ怯む。

すかさず、アークは自由となっていた左手を打ち込んだ。


ぼん!と音を立てて、彼の拳は止まった。

目的に触れることなく、その間にある、に触れて。


「なんでもありかよ……」


内側から触手のようなものが彼の拳を絡めとる。いくら力を入れようが、絶対に抜くことはできない。


「ッ!」


理解と共に迫る、トライデント。

躱し用の無い刃が、アークの頬を掠め取る。


(勝った!)


思い込み、盾を剣に作り変えた。

だが、


「え?」


瞬きの後、少女は倒れ込んだ。

素っ頓狂な声を出して、自分の状況を認識できていない。

勢いそのままアークが乗っかり、馬乗りの姿勢となった。


「油断するな」


言いつつ、顔面を思いっきり殴る。

容赦一切なく、大人気なく、全力でぶん殴った。

殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。

ただ、少女も顔面を作り変え、中世の鎧のような頑丈そうな肉体へと変化させている。

実際かなり頑丈で一発でコンクリートですら壊すアークのパンチを数十発受けて、傷一つなかった。


パンチの隙間を潜り抜け、顔を槍の形に変える。アークが首を傾けたのを見届けた瞬間、全身を針に作り変えアークの肉体を突き刺した。


「ッ!」


バックステップで間合いを作り直す。

全身から血が滲み出ているアークに対して少女は無傷で元の形に戻っていた。


「硬すぎるだろ……」


思わず、不満を呟いてしまう。


「そろそろ認めて下さい。私の力を証明しました」


「あぁ、そうだな。確かにお前の力なら、魔王城でも死なずに済むだろう」


「……」


「けどな、お前、魔術を使われたことないだろ」


「……はい」


「教えてやるよ。を」


少女は固唾を飲み、全身を鋼に作り変えた。


「宣言しよう。常闇を統べる者。全ては無に帰り、ゼロへと回帰する」


刹那、少女が飛び出す。

剣を振りかざし、トドメを刺そうとした。


「!」


だが、そこにアークは居ない。


「なに……これ」


代わりに光なき漆黒が、影を生み出していた。漆黒は刹那で広がり、辺り一面を覆い尽くす。


「なにも、見えない」


それは、光なき世界。

それは、音なき世界。


アークの固有魔術は世界に干渉するタイプだ。彼の魔術は、世界を闇で染める。

たったそれだけだ。

光を失った世界では、何も見えず、何も聞こえない。

言ってしまえば、五感を封じられたようなものだ。

確かに動ける。

だが、自身がどこにいるのかわからなくなる。


そんな暗闇の世界で、唯一アークだけがまともに動くことができる。


「ど……ッ!」


どこからか、ナイフが切り傷を撃ち込んだ。だが、少女には発生源が見えない。気配すら感じられなかった。


これが、彼の固有魔術『無音』だ。

この固有結界を破った者は存在しない。

クエートですら何もできず一方的にボコボコにされる。


「……ま、こんなもので良いか」


「」に、光が差し込み、固有結界が打ち砕かれた。


「?」


少女は何が起こったのか、理解できていない。

ただ、事実として勝利していた事はなんとなく理解していた。


「もたもたするな。時間が無いんだ、行くぞ」


尻餅をついていた少女に手を差し伸べる。


「……はい!」


元気よく返事をして、差し出された手を握った。


(俺の過去を知っている……か)


未だ、少女について不明な事は沢山存在している。


(それに、『等価交換』……)


どこかで聞いた固有魔術。

ただ、思い出すことができない。


「良いや。敵では無いのなら」


若干、楽観的に考えて、少し早歩きとなった。少女は後ろをてくてくと歩いている。

敵なら『無音』で始末するだけのこと。


(それよりも、クエートが魔王になったってことは、他の二人はどうしているんだ?)


ルキアは死んだ。

ダマとアリアは追放されてから連絡を取っていない。

敵かもしれないし、味方かもしれない。

いや、味方になるのなら、クエートが殺しているか。

どちらにしたって構わない。




「さて、ついたぞ」


「ここが……」


禍々しい雰囲気を醸し出していた。

串刺しの死体は未だ健在だ。

けれど、その死体の中に二人は存在していない。


どれだけ考えようが、数分後には分かる。


決戦の前だと切り替え、二人は魔王城へと入っていった。





「さて、来たみたいだね」


「アーク。余は全力で君をねじ伏せる」





──因果は、終わっていない。

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