世界への恐怖

「えっとここで待ってればいいんだっけ?」


「うん、多分ここでいいはず……?」


次の日、有希とマナは昨日ホロウに渡された地図を見ながら馬車がいっぱい止まっている場所にやってきた。


辺りを見渡すと行商人とか、冒険者みたいな見た目をした人が多くて、とても賑やかだ。


ホロウにはとりあえず明日ここに来てくれとしか言われてない二人はそわそわとしながら立ち尽くしていた。


「あなた達が有希とマナ、ですか?」


その声の方を振り向くと、黒髪のすらっとした女性が二人の前に立っていた。


無表情のまま二人のことを見つめていてなんだか気まずく思いつつも、質問に答える。


「そうですか。 私の名前はロゼ、ホロウ様の秘書をしています。 以後お見知りおきを。 詳しい話は中で移動しながらにしましょうか。 あの馬車に乗ってください」


ロゼと名乗る女性は近くにあった一台の馬車を指さし、二人はとりあえず言われた通りにその馬車の荷台の中に入っていった。


ロゼも馬車の荷台に乗ると、馬車がゆっくりと動き始めた。


今までこの世界に来てからは鳥の上にしか乗ったことが無かったからなんだか陸を走る乗り物になんだか懐かしさを感じる。


にしても最初に乗ったのが鳥というのはかなり珍しいのではないか――?


馬車が動きだしてからすぐ、ロゼは口を開いた。


「改めて、私の名前はロゼ、ホロウ様の秘書の内の一人で、同時にこの世界の魔物や植物についての研究もしています」


「なるなるホロウさんの秘書兼研究者かあ〜。 なんだかすごい忙しそうな人だなあ」


「そんな事は無いですよ。 ホロウ様は大抵のことは自分でなさいますし、無茶な仕事とかになると私達ではなく七変化気取り狐とおしとやか系お嬢様の二人に振ることが多いですし」


「し、七変化気取り狐とおしとやか系お嬢様……」


――おそらくフェルミさんとイキシアのことなんだろうけどどうしてこんな呼ばれ方を――?


横のマナを見ると同じように二人のあだ名を連呼しながら笑っていた。


無表情のまま濃い言葉を使うせいでより言葉が印象に残ってしまう――


「お二人もホロウ様に一目置かれてるようですし、今回のような無茶ぶりもこれからあるかもしれませんね」


「今……回のよう……な……?」


なんだか聞いちゃいけないような言葉を聞いた気がして言葉が途切れ途切れながらも繰り返す。


「はい、今向かっているモネクと言う村に今まで記録にない新種の魔物が出たという情報が。 なので私達は今からその魔物を討伐、あわよくば研究の為に捕獲しようというそういう仕事です」


「討伐……」


「または捕縛……」


「いやいやむむむ無理ですよ! まだ私達この世界に来たばかりで魔物討伐どころかあった事すらないんですよ!」


「まあ大丈夫だと思いますよ。 プレイヤーの方はそう言いつつ上手く動ける人が多いですから」


「んーまあ大丈夫じゃない? それに有希ちゃん一回魔物にはあってるじゃん! あの時はダメだったかもだけどリベンジリベンジ!」


「リベンジって……」


多分あの黒い化け物のことを言っているんだろうけど、まだあの時の恐怖心を克服できているとは思えない。


あれほどまでにひたすらに死を感じたのは今までの人生で一度たりとも無いし、これでも他の一般女子高生の中なら早く立ち直れている方じゃないかと思っている。


「二人の武器もこちらで用意しているので、新種の魔物が厄介でない限りはそこまで気負いしなくてもいいと。 今のうちに武器は渡しておくので、村に着くまでに少しでも慣れておいてください。 それと、有希にはこれも」


ロゼが渡してきたのは、マナに対しては槍を、そして有希に対しては一冊の魔導書と、色々書かれたメモだった。


「その魔導書は主に『守る』事に特化した魔法が得意な魔導書になります。 そのメモに最初からでも使いやすい魔法の一覧が載っているので、名前と効果を覚えておいてください」


「えー!なになに私も見せてー!」


マナも食い気味に有希の手にあるメモをに視線を向け、いろいろと書かれているメモを読み始める。


少し読んでいると、あることに気付いた。


――この魔法、私の知ってるこの世界のものと全く一緒の魔法だ……


私が知っている魔法の一部だけではあるものの、ここに書かれている魔法は名前も効果も一緒のようだった。


全部が必ず使えるとはまだ限らないけど、とりあえず自分の武器は思うように扱えるらしく、有希は安心してため息をついた。


それから村に着くまではひたすら自分自身、またはお姉ちゃんの作った魔法を思い出す事に使い、自信を保つ事に時間を使った。

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Utopia Blaze @Blaze8013

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