別世界のプレイヤー

迎えに来た、フェルミと名乗ったその狐耳の女性は確かにそう言った。


「迎えに来たって言うけど、あんた達は何者?」


マナが冷静に問いかける。


「そうね、私はあなた達と同じ、『いつの間にかこの世界に放り出された存在』。 まあこっちのイキシアはこっちの世界の住人だけどね」


「イキシアと申します。 ごめんなさい……。 驚かすつもりはなかったんです…… どうか武器を置いていただけると……」


イキシアと言った青髪の少女は礼儀正しく挨拶をすると、まるで立てこもり犯を諭すように優しく説得?をした。


するとマナはさっきまで向けていた真面目な表情を崩して再びさっきまでのラフな表情に戻って槍を構えるのをやめた。


「うん。 まっ、もとから敵意とかは感じなかったし信用するよ。 ……ていうか、さっきのこの世界に放り出された〜ってやつってもしかして……?」


「多分想像している通りね。 ここは今まで私たちが十数年間過ごしてきた世界とは別の世界。 一言で言うなら異世界とか、ゲームの中の世界に飛ばされた、みたいな感じね」


「なるほどなるほど……いや〜生きてる間にそんな経験するなんてな〜」


いやそんなにすぐに納得出来るの!?と思わずマナの言葉に心の中でツッコむ。


ただ、今日一日だけで起きた違和感からも同じような、少なくとも非日常的なことに巻き込まれていることはさすがの私でも気付いていたから、答え合わせをされたみたいなものなんだろう。


ただやっぱりまだ完全には信じきれてはいなかった、と言うより信じたくないって感情が消えないのだ。


有希が複雑な気持ちにもやもやとしているとフェルミとイキシアは有希達の近くまで歩を進めていた。


「あっ、その傷…… ちょっとそこで座って貰えませんか?」


イキシアが有希の体を傷を見ると、有希にそう言って座らせた。


イキシアが有希の目の前に来て、有希と同じ目線までしゃがむと、左手を有希の前に広げ、そのまま『ヒール』と唱えた。


するとイキシアの手に、半分くらいの大きさの緑色の光がいきなり現れて、その瞬間に有希の身体中にあった無数の傷がみるみる塞がっていった。


有希とマナはその一連の行為に目を丸くして、有希は完全に傷が塞がった後、軽く身体を動かしてみるものの完全に痛みが引いていた。


「これってもしかして魔法……?」


「はい! と言っても私は初歩的な魔法しか扱えないんですが」


イキシアが自虐的に呟く。


イキシアにとってはただの初歩的な魔法なのかもしれないけど、有希とマナにとってはまるで神の御業のように見えた。


「ええ!? すごいすごい!魔法なんてのもあるの!?」


「はい、扱える扱えないは個人差がありますが色んな種類の魔法がありますよ」


「私も使ってみたい魔法! ねえねえイキシアちゃんどうやるの!?」


「えっとですね、まず魔法には種類があって――」


マナはキラキラと目を輝かせながらイキシアに詰め寄って、イキシアもなんだか嬉しそうに説明をし始めた。


有希は再び身体を動かして魔法の力を再確認すると、凄さとか感謝と共にどこかからかモヤッとした感情が生まれた。


「ところでまだあなた達の名前を聞いてなかったわね」


フェルミがそう聞くと、有希が講座を受けてるマナの代わりに二人分の名前を教えた。


「有希と、マナね。 これからよろしくね」


そう言うフェルミは柔らかな表情をしていた。


何となく最初に見た時の感覚としてはクールでちょっと話しにくそうだなと感じていたから普通に優しそうな人で少し安心した。


「そういえばフェルミさんのその耳とかあの大きな鳥とかって何なんですか?」


「ああこれ? これは私の持っている技能タレントによるものよ、さっきのあの大きな鳥もね」


「たれ……んと……?」


「そう、この世界に住むプレイヤーのみが持っている固有スキルみたいなものね。 私の技能の名前は変身メタモルフォーゼ、一度触れたことのある生物に変身したり、身体の一部にその特徴を付与したりできる能力よ。 さっきのあの鳥も私が変身した姿よ。 ……この耳は……なんというか……私なりのファッションみたいな……」


最後の方は何やら照れてるみたいにだんだんと声が小さくなってあんまりよく聞こえなかった。


――一応、深く聞くのはやめておこう。

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