22.マジックフード

とにもかくにも、一行は無事?に監視塔ナンバー4にたどり着いたのだった。


「結界ヨシー!! ちゃんと作動してるねぇー! これならミントもカメムシも中に入ってこないよー! みんなー! ここは安全だぁー!」


「よ……よかった……」


歩き疲れてまともに返事する気力がない。三人は鉄の扉を押し開けて、そのまま監視塔の床にへたり込んだ。


(おなかすいた……)


祐太の腹の虫が鳴る。


もうお昼を過ぎているはず。


「トレグラス、このまま昼食にしましょう。みんなお腹すいてるでしょうからね」


「食事のことをすっかり忘れてたよー! そうしようー!」


フューリーの提案でお昼休憩になった。


地下に降りると、地下トンネルの入り口があった。それから武器庫と、それにもうひとつ倉庫がある。


倉庫には、大きなたるが横倒しの状態で並んでいる。大樽のひとつに、ゲートを示すルーンがはっきりと刻まれていた。


本部カルメランへー!」


大樽の前でトレグラスが叫んだ。


しかし、何も起こらなかった。


「まったく反応しないねー! えっへっへー!」


「笑いごとではないですよ、トレグラ。早いとこ魔力の再注入とやらをしてください。でないと、わたしたちいつまでも本部に帰れません。もういちどナンバー3まで歩いて引き返すなんて、ごめんですよ」


トレグラスは樽の上に腰かけて、短い足を組んで、両肩をすくめて、


「いま再注入を試したけどー、ダメだったよー!」


「え?」


固まるルシルと祐太。


フューリーが意味ありげに微笑んだ。


「心配しなくても大丈夫よ、二人とも。とりあえず、ゲートのことはあとで解決するとして、まずはお昼ご飯にしましょう」


倉庫には他にも様々な物品が保存されている。隊員は品物と個数をノートに記録して、勝手に使っていいらしい。


フューリーの指示で宝箱をひとつ運び出すと、ふたたび一階にもどった。


宝箱の中に入っていたのは、まず、『戦士のブランチ』と銘うった袋だった。


祐太が袋を開封すると、中にはサイコロみたいな立方体がつめ込まれている。


「これなに?」


「魔力パンです」


ヤカンのハーブティーを全員のコップに注ぎながらルシルが答えた。


「魔力? つまり、特殊な武器?」


「ちがいますよ。魔力固定してあるのです。こうして……」


ルシルがサイコロをひとつ手のひらにのせて、ほんの少し魔力を流すと、サイコロはモコモコふくらんでパンになった。


「おーっ!」


「見たことないんですか? そんなに感動するほどのことじゃありませんよ」


つまり、魔法を利用した携行食というわけだ。宝箱の中には、ほかにも様々なサイコロフードの袋が入っていた。


「これは魔力チーズ、こっちは魔力ソーセージ。魔力ビスケット。魔力サラダ。魔力ポトフに魔力グラタンに魔力カルパッチョ、魔力アルファ米……魔力チョコレートもあるね」


豊富な種類に祐太は感心しつつも、やはり問題は味である。おそるおそる魔力パンにかぶりついた。


「ではわたしは魔力オムレツをいただきましょう」


「あたしは魔力パスタにしておくわ」


三人はそれぞれ好きなメニューを選んで食べ始めた。


「モグモグ……」


「……んぐ」


「……ふふふ」


誰の口からもこれといった感想が出ないのは、魔力固定の技術がまだまだ道半ばであることを証明している。


「うまい、うまいー!」


片っ端から魔力固定シリーズを口にしているのはトレグラスだ。


「教官はこういうのがお好きなんですね」


と祐太。


「ドラゴンはそのへんに落ちてる石ころでも食べますよ」


とルシル。


フューリーがクリスタルの瓶を手にして、その中身を自分のハーブティーに少量加えている。


「フューリーさん、それなんですか?」


「ポーションよ」


そう言って、祐太とルシルのハーブティーにも注いでくれた。


ポーション入りハーブティーのおかげで、食べ終わった頃には三人の体力はかなり回復した。

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