第27話 アプローチ
実は、もう何度もわかりやすくアプローチをかけている。週に2~3度はランチに誘っているし、仕事の相談と称して飲みに誘うのはもちろん、酔っぱらったふりをしてチーフの家まで押し掛けたことさえある。
――が、チーフの反応はあまりに鈍感だった。
「大丈夫か?」と心配して家に上げてくれたのはいいものの、殺風景な部屋の中でペットボトルのお茶を出されて、「じゃあタクシー呼んでやる」って、それだけ。「何もしませんから泊まらせてください!」と頼み込んだけど、「部下とはいえ、女性を家に泊まらせるわけにはいかねーから」と、あっさりタクシーに押し込まれてしまった。
私にまったく興味がなさそうなら、こちらもなんとか諦めようと思うのだけど、私が困っているとすぐに気づいて飛んできてくれたり、社内の飲み会でほかの部署の男性社員に絡まれているといつもさりげなく間に入ってくれたり、ただの部下の枠を超えて、私を意識してくれている気もする…。
だから、私は「押しの一手」でいくことにした。
ぐずぐず悩んだり、推したり引いたりの駆け引きは私に似合わない。そもそも、そんなことで時間を無駄にするよりも、一刻でも早くチーフの彼女になれるように、正攻法でいくのが一番だ。
合コンがどうの、アプリがどうのと騒ぐ独身荘の先輩たちを尻目に、私は自分の恋を真っすぐ進めていた。……と、思っていた。
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その日もチーフはイヤがるふりをしながらランチをおごってくれて、二人でラーメンを食べに行った。ちょっとでも意識してもらおうと、カウンター席でラーメンを待つ間、直球で聞いてみる。
「あの、チーフ」
「何?」
「私のこと、どう思います?」
チーフは携帯をいじる手をやめて、きょとんとした目で私を見つめる。
「なんだよ、もう評価気にしてんのか?おまえはまぁまぁ頑張ってるよ、新人にしちゃ」
「そういうことじゃなくてですね」
思わずガクッと肩を落としてしまう。チーフは鼻歌をうたいながら、「早くラーメン来ねーかなぁ」とのんきなことを言っている。
――仕方ない、質問を変えよう。
「チーフは、今彼女さんいないんですよね?」
「げっ、俺にそういう話振るなよ」
とたんにチーフはちょっと耳を赤くして、不機嫌そうな顔になる。そう、チーフはコイバナが苦手なのだ。ヤクザの下っ端みたいな風貌して、超オクテだから。
「でも絶対モテますよね、チーフ。社内でお付き合いしたこととかは…?」
「ないないない。マジでやめろって」
チーフは顔の前でブンブン大きく手を振って、視線を逸らす。口をとがらせているのが、たまらなく可愛い。
「俺がモテないのは、昨日今日はじまった話じゃねーの。いいんだよ、今は仕事で手一杯だし」
もっと突っ込んで聞こうとしたところで、タイミング悪くラーメンが運ばれてきてしまった。
「おっ、背脂ラーメンきたきた!食おうぜ」
そう無邪気に言われると、もう何も言い返せず、私はチーフの隣で黙ってラーメンをすすった。
――いつもこの調子で、遠回しにチーフに気があることを伝えようとしても、まったく気づかれないか、もしくは「俺はモテない」と激しく謙遜されて終わり。このままじゃ、チーフとの距離を縮めることができないまま、1年の教育期間が終わってしまう。
私は、少し焦っていた。
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