流星管理局

KN

第1話

 やあ、そんな窓の外ばかりを見てどうしたんだい。何か気になるものでもあったかな。

 星?こんな昼間から流石に見えないと思うけど。

 でも、どうしたんだい。突然、そんなことを言って。

 なるほど、テレビで流星群が今夜見られるって知ったのか。それで、見逃さないように今から見ていようってことか。

 ああ、ごめんごめん。馬鹿になんてしていないよ。そうだとも、折角の物なんだ見逃しては勿体ないからね。


 ああ、そうだ。良い機会だ。流れ星について面白い話をひとつ聞かせてあげようか。

 え、いらないって?そんなことは言わないで、機嫌を直して聞いてほしいな。

 さあ、ちょっぴり不思議なそらのお話だよ。





 君は流れ星について何か知っていることはあるかな。ない?ふふっ、もうちょっと考えておくれ。

 そうだとも。隕石が落ちてきて恐竜が皆んな死んでしまったって話だ。けれど、よく知っていたね。

 図鑑で読んだと。なるほど、勉強熱心だね。


 だけども、そこで不思議なことが一つあるんだ。

 僕たち地球に住んでいるモノは何回も流れ星を見てきている。

 しかし、どういう訳か地球に降り注ぎ隕石となったものはあまりにも少なく、それこそ恐竜の話ぐらいだ。

 ––––実際にはある程度は存在しているそうだけど、僕たちの耳に届かないほどのものだ。

 誰かが守ってくれているんじゃないかって?鋭いね。今から僕がする話は、そんな地球に隕石が落ちてこないように人知れず戦っている彼らについてだ。


 彼らは月の裏側、地球からは見えないところに住んでいるんだ。

 そんなのどんな図鑑にだって載っていなかったって?星の光の影で活躍するのが彼らだからね。出版社の皆様だってそんな無粋な真似はしないのさ。

 

 そんな彼らの名は流星管理局。その名の通り、流星を管理するんだ。そして、ちょうど流れ星として地球に近づくように調節してくれるんだ。


 おっ、興味が湧いてきたかい。気になったことはどんどん質問していいからね。

 早速質問かい?ええっと、どんな家に住んでいるのか?うん、そうだな、人工衛星ってわかるかい?そうそれ、それをもっと大きく大袈裟に、それこそ星の数ほどを一つの塊としたものを彼らは住居としているんだ。

 そして、その中にはたくさんの部屋があって、僕たちが地上でやっていることを全部そこでしているんだ。彼らは他の誰にも頼ることなく全て自分たちだけで生活を成り立たせているんだ。すごいだろう、彼らは僕たちよりもよっぽど技術があるね。


 次に彼らの生活の話をしようか。彼らの一日はとても忙しいんだ。まず、万が一にも地球に近づく流星を見逃すことがないように周りの警戒を。そして、危険がなくともいざという時のために訓練を。

 そんな風に毎日欠かすことなく働いてくれているんだ。本当に頭が下がる思いだね。

 彼らは眠らないのかって?そんなわけないさ。彼らだって睡眠は必要だ。だから、彼らはいくつかのグループに分けて生活しているんだ。

 一方が周りの警戒をしている間、もう一方は訓練。そして、他は睡眠だったり、その他の生活に関する必要なことだったりをしているんだ。

 そのため、彼らの生活には少しの遅れが大変なことにつながってしまうんだ。誰も警戒をしていないなんてことになったら大変だからね。

 彼らはどんな性格をしているのかだって?そうだな、さっきも言ったように、彼らにとって時間を守るということはとっても大切なことだ。

 だから、彼らはとても時間に厳しく、すごい真面目なんだ。常に時計を見て、十五分前行動が当然なんだ。

 ああ、後一つ加えると、彼らはとても正直ものでもある。いつも真っ直ぐ心の底から言葉を話すんだ。回りくどい言葉じゃ時間がかかるからね。


 よし、それじゃあ彼らの仕事の話をしようか。最初に行った通り彼らは流星を管理する。つまり、流星が地球に近付きすぎないように調節するんだ。お互いの距離が近かったら離すように、遠すぎたら近づけるように。

 じゃあ、どうやってそんなことをするのかって?

 うーん、ああ、彼らは僕たちよりも優れた科学技術を持っているってさっき言ったね。それを使うんだ。

 例えば、そうだな、他にも色々あるのだろうけど、まず一つ、流星として来るような小さな星ぐらいなら吹き飛ばしてしまう風を起こす機械があるんだ。それを使って流星を思い通りに動かすんだ。

 そんなことができるのかだって?できるから僕たちは流れ星を見られるんだ。

 そうだ君の言う通り彼らはとてもすごい。まるで、彼らにはできないことがないようにも思える。

 でもね、彼らにも一つだけ大きな失敗があったんだ。


 うん、そうだよ。それが、恐竜が絶滅してしまった原因となった隕石の落下だ。

 それは、遠い昔のことではあるんだけど彼らには詳しく言い伝えられているんだ。それほど、彼らにとっても大きな出来事だったんだ。

 天を裂き、地を貫いた一筋の光は地上の生物にとっては青天の霹靂なんて言葉じゃ言い表せないものだったに違いないけど、彼らにとってもそうだったんだ。その威力は雷なんて目じゃないからね。

 そして、地球ごと揺らしたような衝撃は彼らの元にも届いていたそうだ。地震なんて無縁なはずの宇宙空間で彼らの住居ごと揺らす振動だ。大層驚き、慌てふためいたそうだよ。それこそ、立つことさえままならず、必死に近くのものに縋り付くほどだったそうだ。

 それから、揺れが落ち着き何が起こったかを確認した時、彼らは見たんだ。ほんの少し前まで青々とした美しい球体が、まるでインクをこぼしたかのように黒々と染まってしまっていた様を。

 彼らは自分たちの目を疑って何度も目を擦って確認したそうだ。けれども、それは変わらなかった。

 彼らは愕然としたそうだ。それも当然ではあるけどね。だって、想像できるかい?とんでもない重さの隕石が影も形もなく突然やってくるなんて。

 そうだ。その出来事に関して彼らに悪いところは特にない。それでも、彼らは非常に後悔し、恥じたんだ。地球を守れていると思い込んでいた自身を。彼らは自分たちの仕事に誇りを持っていたからね。

 それから、彼らは反省し、あらゆることを見直したんだ。そうして、さっき言ったように訓練をする時間を生活の中に作ったんだ。

 その失敗から得た教訓を書き記した紙は、常に彼らの目に入る場所に飾られてもいるらしいよ。


 「星が流れても、自身は流れぬように」と。


 この言葉を持って彼らは地球の安全を揺るぎないものすると固く誓ったそうだ。うん、そうだよね、格好いいね。


 そこまでして、彼らは何のために流星の管理をしているのかだって?

 地球の安全を守るためってのはもちろんあるけれど、一番は地球の皆んなに流れ星を見せるためなんだ。

 君は流れ星を見た時は、まず何をする?そう、願い事をするよね。ほんの少しの間、音として出すよりも早く飾らない心で人は願いを言うんだ。

 彼らはそれをとても大切なことだと思ってるんだ。

 どんな境遇であっても願いを持てる、夜空であっても眩しくあり、上を向いていける。そんな風にいてもらえるように彼らは流れ星を見せるんだ。

 それは今日の流星群も変わらない。彼らは今日も戦っている。


 これにて彼らの話はおしまいだよ。

 これで分かったかい?流星管理局について。

 彼らはいつだって僕たちのことを思い、待っている。淡い光でも温かく、流れてなんかいかない願いを。

 さて、君は今日、何をお願いするのかな?

 なんだって大丈夫さ。彼らもそれを望んでいるんだ、構わないはずだよ。


 早く体を治して外で遊びたい?やっぱり不安かい?うん、それも仕方のないことだ。

 ベッドに一人で寝ていると独りで戦っているように感じてしまうものだからね。

 けどね、もう大丈夫だよ。だからね、うーんと強く願ってみるといい。今日の流星群に向かって心の中でね。

 そうしたら、もう安心だよ。君は独りじゃなくなるんだ。

 だって、味方がいるからね。とびっきりの味方が。それこそ、星の数ほどいる心強い味方がね。

 後、父親である僕のことも忘れないで欲しいけどね。

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流星管理局 KN @izumimasaki

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