変態矯正プログラムにサポーターとして参加したら、おれも変態になりました

あかせ

第1話 変態矯正プログラム始動!

 夏休み中盤のある日の朝。おれは1週間分の着替えなどをリュックに詰めた後、それを持って玄関に向かう。もうそろそろ家を出る時間だ。


「忘れ物はない? 良太りょうた?」


玄関で靴を履いている時、母さんが見送りに来てくれた。


「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと確認したから」


「あんたが参加する“変態矯正プログラム”だっけ? よくわからないけど、うまくいくように応援してるわね」


「ありがとう母さん。帰ってくるのは1週間後だからね。…行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 おれが参加する“変態矯正プログラム”。一見ヤバそうかふざけてる感じがするが、主催はおれが行ってる塾の子会社になる。親・子会社共に有名な大企業だから、しっかりしてる…はず。


おれがそのプログラムを知ったのは、5日ぐらい前かな。塾で早くも夏休みの宿題を終えたおれに、いつもお世話になっている立花先生が声をかけてきたのだ。


「佐藤君。君が良かったらだが、1週間合宿に行ってくれないか?」


「合宿ですか…?」


「そう。佐藤君は真面目でしっかりしている。君を見れば、個性的な子達は真面目になっていくだろう」


「その人達、変わる必要あるんですか? 今は多様性の時代では?」

個性は嫌われるものじゃないはず。


「確かにそうだ。しかし、本人または家族が『個性』を嫌う場合があるんだよ。“周りに合わせられない”という理由で悩むケースも珍しくない」


「そうなんですか…」


「君は今まで、周りから浮く行動をした事あるかな?」


「ない…と思います」


「だろうね。こう言うのは失礼だが、君にわかる悩みではない」


悩みは人それぞれって事だな。


「そこで、君と個性的な人達を1週間、山奥のペンションで合宿してもらうプランが生まれたんだ」


「合宿となると、ひたすら勉強ですか?」


「勉強もしてもらうが、他にもあるぞ。滝行とか座禅を予定している」


「修行に近い感じですね」


「君の真面目な行動を見ることに加え、精神を鍛える。この2つが軸になっていくだろう」


「なるほど…」


「佐藤君はお手本になる立場だから、としての参加だ。サポーターは参加すると報奨金が出るんだ。…どうかな? 興味を持ってもらえたか?」


バイトしてない上に、早くも夏休みの宿題は終わってしまった。このままだと退屈な夏休みになるのは間違いない。


それなら合宿に参加したほうが面白そうだ。滝行とか座禅はテレビで見た事あるけど、ちょっと興味あるんだよな~。


「良いですよ。おれ、その合宿に参加します!」


「ありがとう! その合宿なんだが、正式名称は『変態矯正プログラム』って言うんだ」


「変態矯正プログラム…?」


「まだ(仮)らしいが、名前のインパクトはあるだろう? 地味な名前は埋もれやすいから、上は色々苦労してるみたいだぞ」


「はぁ…」


こうして、おれは変態矯正プログラムに参加する事になった。集合場所に着いてから、マイクロバスでペンションに向かうらしい。


それ以外の事は何もわかってないが、大丈夫だよな…?



 集合場所に着いたおれ。…時間も問題ないし、後はマイクロバスを待つのみ。


数分のんびり過ごしていると、おれの近くにマイクロバスが停まったぞ。もしかしてあれか?


バスの出入り口が開くと、1人の女性が降りてきた。あの人は榊先生じゃないか! 立花先生ほどじゃないが、お世話になっている先生の1人だ。


「佐藤く~ん!」


おれに向かって手招きしてるが、そんな事しなくてもわかってるし向かうから!


「君が最後になるからね。さ、乗って」


「わかりました…」


おれが最後って事は、既に個性的な人達は乗っている。優しい人達だと良いんだが…。



 マイクロバスに乗ると、男子2人・女子2人が隣同士かつ左右に分かれて座っている。おれはどこに座れば…?


「女子2人の後ろの席にいる田中さんの横が空いてるから、そこに座って。彼女もサポーターなの」


後から乗ってきた榊先生が言う。


「わかりました」


男女それぞれサポーターがいるようだ。女子の相手は自信なかったから助かる。


おれは田中さんの横の席に向かいがてら、他の4人をチラ見する。


通路側に座っている男子はすごい金髪だ。いわゆるヤンキーだろうな。おれが見たのに合わせ、睨み返してくる。


一方、窓側にいる男子はずっとスマホを見ている。おれの事は興味なしか?


女子2人は熱い視線を注いでくる。どちらも外見は奇抜じゃないが、恥ずかしいからあまりジロジロ見れない。


…田中さんの横の席に着いたので、座る前に声をかける。


「横、座らせてもらうね」


「どうぞ。あなた礼儀正しいのね」

おれに微笑みかける田中さん。


「そうかな? これぐらいなら誰でも言うでしょ?」


赤龍寺せきりゅうじは言わないわよ」


「赤龍寺?」


「おい杏奈あんな! そいつに余計な事言うな!」

ヤンキーがおれ達のほうを見て怒鳴った。


これで彼の名前はわかったが、2人の関係が気になるな。


「こらこら、赤龍寺君は怒らないの。ペンションに着いたら自己紹介してもらうから、そのつもりでね」


榊先生がなだめた後、マイクロバスは発進する。



 ぱっと見の第一印象だが、赤龍寺君が厄介そうだ。この6人で1週間合宿する事になるが、果たして何とかなるんだろうか…?

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変態矯正プログラムにサポーターとして参加したら、おれも変態になりました あかせ @red_blanc

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