ゆうけん!

冬目

1話 入部(強制)

神咲美優。それが彼女の名前だった。性格から行動まで正反対だったが、俺たちは仲が良かった。幽研の復興だって放課後に時間があるからついでにやっていただけで、正直できないと思っていた。そのくらいのモチベーション。そのつもりだったのに―

「神咲!!」

目の前にはボロボロの彼女が辛うじて立っていた。喧嘩は好きじゃない。いつの日か部室で聞いた言葉が頭に浮かぶ。神咲はあんなに頑張っているのに、地面に倒れている自分に物凄く腹が立った。

「お前。生前の時より霊力が強くなっているな。どういうことだ?この男が殺されたのがそんなにも悔しかったのか?」

そういうと化け物は笑い出し、自身の後ろに倒れている男に目線をやった。

幽研の活動をしている時、神咲はいつも笑っていた。泣いたりもしなかったし、怒るなんて以ての外だった。だから、神咲のこんな顔は初めて見た。

「ふざけるな!!!蓮司を返せ!!!返せ!!返してよ…なんで…」

瀧澤先生の名前を叫びながら、我を忘れている神咲を俺はただ見ていることしかできなかった。


1年前―

「お前部活何にすんの?俺はもちろんサッカー部だぜ。なんたってあんな可愛い先輩がマネやってんだからな。サッカーやったことねぇけど、まあ大丈夫だろ!なんなら初心者レッスンとかいってあの先輩と特訓できたりしてな」

桜がまだ散りそうにない4月の初め。入学式を終え、1週間程度たった教室は部活の話題で持ち切りだった。高校の校則として、特別な理由がない限り入部は強制なので俺は頭を悩ませていた。

「いいんじゃない?優希運動神経良いし。先輩マネージャーには彼氏いると思うし、初心者は普通に先輩から教わると思うけど」

お前さあという表情を浮かべると優希は俺が何の部活に入るのか聞いてきた。

「行っても行かなくても良い部活がいいんだけど。そんな感じのゆるい部活ないかな?」

「いやこの高校結構部活に力入れてるらしいし、そんなんないだろ。あ、作れば?」

「いやそっちのほうがめんどいだろ。バカか」

「うるせぇ。入るところないならサッカー部来いよ!楽しいぜ」

「楽しいかどうか分かんないだろ…まだ…」

相変わらず見切り発車なところは中学の頃からだなと思いつつ雑談をしていると、サッカー部の体験会の事を忘れていたらしく、優希は慌ただしく教室を飛び出して行った。

家庭内の都合とか嘘ついてどうにか誤魔化すことはできないだろうかと、考え事をしながら廊下を歩いていると、一人の女子生徒にぶつかりそうになった。

「あ、すいません…」

1年の階にいる割には見かけない顔だな。いやまぁ入学してまだそんな経ってないし知らない人もいるのは当然か。もしかしたら部活勧誘の先輩かもしれないし。そんなことを考えながら、その女子生徒を避け歩き始めようとした瞬間意味の分からない文章が俺の耳を貫いた。

「ねえ君!私のこと見えるの??」


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ゆうけん! 冬目 @syou_setuo

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