第5話 : 決心 [2]

「絶対違うよ!」祐希としてはやはり強く否定するしかない。


「じゃあ、見せて。 後でどうせ知ることになる人じゃない? 隠しても無駄だって! 小説や映画を広報する時も主人公が誰なのか程度は教えてくれるじゃない?」変な方式で要求が正当化されるようだが、目的さえ達成すればこういうのは特に重要ではない。


祐希は沈黙で答える。


「最後まで言ってくれないってことだよね? それでは仕方ないね。 桃香にまたその女の子なのか聞いてみないと。 あの本屋であった彼女との面白いハプニングも解いてくれてさ。」 紗耶香は漠然と拒否する祐希の反応に不満を感じ、再び長い思い出を取り出して彼を焦らせようとする。


「あ!絶対!絶対だめ。 絶対!」祐希はそれを聞くや否や叫ぶ。 これは本当に彼としては最悪の方向だ。


「何だよ~何だよ~」 どうして急にそんなに興奮するの? そんな運命のような初めての出会いが私の口を通じて広がるのが恥ずかしいの?」紗耶香もやはり二人の間に何かあるのは明らかだと断言するが、その話をしてほしい人は桃香ではなく、まさに今通話する祐希だから自分もこんな心にもないことばかり言っている。


「ケーキまで買ってあげたのにこうするの?」祐希は紗耶香が桃香の味方になった人が栞奈だという事実を知ることを望まなかった。 明らかな挑発だと知りながらも、これだけは避けたかったので、そのようにしがみつくしかない。


「う~ん… 思い出せないようですが! 何のケーキのことですか?」 現状では紗耶香にそんな祐希の愚痴は通じるはずがない。


「こんなずるい。」 祐希は進退両難の状況で気をもんでばかりいる。


「その女の子が桃香が知ってはいけない人でもいいの?」教えてくれないと言ったら、さらに気になるのが人の心理だ。


「秘密にして、投票の時まで。」


「お…本当に合ってるみたいだね? その女の子が?」


「絶対違う!」紗耶香の要求が執拗なだけに祐希の反応も頑固だ。


「じゃあ、見せて! その女の子じゃなくて、これは私の勘違いにすぎないと。」 疑いを解決する方法として、このような出会いほど明快なものはない。 無理な頼みかもしれないが、だからといってあきらめるわけにはいかない。 努めて正当な要求だと合理化する。


ひんやりとした静寂が流れる。


「はあ…」まずその沈黙を破ったのは祐希だった。


「ため息?急に? 果たしてどんな意味が込められたため息だろうか? あきらめ?怒り?」紗耶香はこの状況で祐希が果たしてどんな反応を見せるか期待せざるを得ない。


「わかった。」 裕樹はやむを得ず一言言い出す。


「ああ、承諾という意味が込められたため息だったんだ! よし!楽しみにしているよ!」紗耶香はその人に会えるという期待に胸が熱くなる。


紗耶香は、もし祐希が変な言葉を付け加えるのではないかと思って電話を切る。 目的を達成したのだから、その余地さえ残さないようにする。


紗耶香が承諾だと堂々と言うが、いざ祐希が考えるにはこれは放棄という意味が込められている。


紗耶香が電話を切ってから、祐希は一人で気まずい後味だけを感じている。 真実を隠すことができれば、むしろ良い選択だ。 弘の連絡先だけ紗耶香に渡せばいいと思ったら大間違いだ。 本当の問題は別にある。 紗耶香が弘にどうして会いたいと言うのかもよく分からないし、二人で何を言うかも心配だ。 紗耶香はただ気になると言うが、本当かどうかは彼女だけが知っている。


こうしていれば良くなることは何もないので決断が必要だ。 祐希は今の状況で自分にできる決定が何があるか考えてみると、結局2つしかない。 桃香に連絡してなぜ紗耶香にこんなことを言ったのか問い詰めるか、それとも弘に連絡して紗耶香と約束を取るようにするのだ。 どちらも好ましくないので気を揉んで、結局弘と約束を取ってみることにする。


果たしてこれをどうやって切り出せばいいのか?


祐希はできるだけ自然に話さなければならないと心の中で数十回は繰り返すが、ぎこちないのは変わらない。 突拍子もないという言葉の方が似合うかもしれない。


「はぁ。どうやって切り出せばいいんだろう…」 やむを得ない選択だったが、ただ途方にくれるこの上ない。


一方、弘はこの小説を通じて何を伝えようか悩んでいたが、うっかり居眠りしてしまった。 騒がしい電話に気が付き、その番号さえ確認しないまま受け入れる。


「もしもし。」


「小説を書く仕事はうまくいっている?」 弘の疲れが感じられるようだ。


「それは…うまくいかないようです。」弘は顔をしかめ、頭を掻きながら答える。 旅の終わりで祐希に堂々と自分が言いたいことを小説に書きたいと言ったが、いざ適当な文章を見つけることができなかった。


「そう?」祐希もやはり内心予想はしていたことだ。


「はい、インスピレーションが必要というか。 自信が足りないのか… それとも才能が足りないのか。」 弘は相変らず意欲が燃えるが、いざ小説作業は何の進展もなく漠然としているだけだ。


「誰かアドバイスを求める人が必要? もしかして?」ちょうど弘が助けが必要なようだから慎重に言い出す。


「誰か適当な人がいますか。」弘もやはり原因不明の障壁に遮られた状態なので、祐希の提案に興味が湧く。


「ええ、実は……」彼が好意的な態度を示しているのは幸いだ。


「それは誰ですか?」内心嬉しいが、依然として疑い半分、期待半分だ。


「私たち文芸部のもう一人の部員。」


「まさか私が思うその部員?」弘はそれを聞くやいなや目が覚める。


「別に勇気をくれる人のようではなかったが。」 桃香と交わした対話で良くない記憶が頭の中をかすめる。 訳もなく気分が悪くなりそうだ。


「ああ…。あの女の子じゃない。 他の子が1人いる。」 弘が拒否するのを確認して、急いで彼を安心させようとする。


「あ…そうですか?」


「そう、本当だよ。 新しく入ってくる部員って言うから、誰なのか見たいって。 一度会って話でもしてみたらどう?」祐希は弘の警戒が和らいだ瞬間に素早く用件を取り出して彼を説得しようとする。


「ああ、それはいいですね。」また別の部員に会いたいという耳寄りな言葉が弘の心を動かす。


「それでは私が携帯メールで連絡先をあげるよ。」祐希は弘が余計な疑いをする前に事を犯そうとする。


「はい。ありがとうございます。」 突然の提案だが、弘は好奇心に勝てず、何の疑いもなく受け入れる。


弘は短い通話を終え、漠然とした不安感を無視する。 既に犯したことだ。 祐希が携帯メールで送ってくれた番号に今すぐ電話をかけるか悩んだ末、疲れすぎてそのまま明日に延ばすことにする。


一方、祐希は携帯電話を片方に投げ捨て、暖かいベッドに身を委ねる。


明かりが消えた部屋で寝ようと目を閉じる。


布団をかぶってしばらくくよくよしていたら、とても我慢できなくて飛び起きる。


祐希は怒りに勝てなくて桃香に電話をかける。


「本当にこんなにずるい方法まで使いながら勝ちたいの?」祐希は桃香が電話に出るやいなや問い始める。


「もしもし?どうしたの?」桃香は夜遅くに来た突然の電話に戸惑うだけだ。


「もしもし?何か食べ間違えたんじゃないの? 何を言っているの?」もしかしたら間違ってかかった電話かもしれないと思って番号をもう一度確認するが、やはり祐希であることは確かだ。


「何を言っているのかはあなたがもっとよく分かると思うけど?」申し訳ないと言っても足りないところにむしろ厚かましく問い返すと、より一層怒りがこみ上げる。


「あなたが何を言いたいのか私がどうやって分かるの?」桃香はただ何が何なのか分からなくてこのように尋ねるしかない。 このような時間に電話したのを見ると、明らかに深刻な理由があるのに、いざ何なのか見当さえつかない。


「ずっとしらを切るの?」


「何の?」急になぜそうするのか知りたくて気が狂いそうだ。 できれば、祐希の頭の中でも一度入りたい。


「あえて私の口で話さなければならないということ? あなたが紗耶香に電話して、紗耶香が興味を持つような子が私の味方についたと言ったことをね。」桃香がずっと知らんぷりで一貫すると、いざ対話に何の進展もないから祐希は我慢できない。


「何を言っているのか分からない。」 彼の言うことは彼女の混乱をさらに悪化させるだけだ。


反面、彼はしらふばかりしている彼女がけしからんばかりだ。


「確かにこれはどういう意味かと聞いたと思うけど?」彼女はオウムのように同じ言葉を繰り返すだけだ。


「知らないふりをするな。」 彼女の平然とした口調が彼の心をさらに刺激する。


「え?言葉が出てこないね。」本当に何を言っているのか分からない人に知らないふりをするなと言ったら、桃香はむしろ自分が何か聞き間違えたことを願う。


「言うことがないみたいだね? 」 相手の反応が荒唐無稽なのは祐希も同じだ。


彼女は大きなため息をつきながら心を落ち着かせる。


「それであの子が何と言ったの?」彼女は今彼が怒ることに何と言っても彼の気持ちだけをさらに刺激すると思う。 一つ一つどんな状況なのかから把握することが重要だ。


「何と言うには? 誰なのか見せてほしいって。 君が頼むように頼んだんだよね?」 彼は返事をためらう理由が何もない。


「それで?どうなったの?」 彼女もいったい何があったのか気になって気が狂いそうだ。


「どうなったと思いますか?」 どうなったのかは想像もしたくない。


「その提案を受け入れることにしたの?」彼が現在どんな反応を見せているのかを考慮してみれば、この質問に対する答えは明らかだ。


「そうだね!本当にありがとう。 こんなに新しい友達を紹介してくれる機会も用意してくれたじゃない?」彼は恨みと不満がいっぱい混じった口調で答える。 最初から言いたかったことを言うと胸がすっきりするが、敗北したような気がする。


「まあ… 個人の選択であり、個人の事情だから。 これを望んでも欲しくなくても、人の心だということが分かっていても分からないから、特に問い詰めたくはないんだけど… ここで私が気になる点は… そんなに激怒するほど嫌だったら、きれいに断ってもよかったじゃない? あえてなぜ受け入れたのか?」彼の口調がそのように急変する中でも彼女は落ち着いている。


「そ…それは…」実際にそれを聞くと彼は言葉が詰まる。


「何か理由でもあるの?」彼女は突然彼の声が静まるのを発見し,明らかに何かがあると確信している。


「ああ…何の理由もない。」 彼はその質問に何と答えたらいいのか分からずどもる。


「それでは?」彼女は執拗に問い詰める。


祐希はどうしてもその理由を明らかにできない。 これは自分の墓を自分で掘る格好だ。


彼はただその会話から逃げるように電話を切ってしまう。


「え?」桃香は消えた電話機を見ながら鼻で笑う。 呆然としている。 どんな状況なのかは大体分かったので、紗耶香に問い詰めることにする。 きっと紗耶香がちゃんとした一部始終を知っていると思う。


そのように騒々しい一日が過ぎ、また別の一日の朝が明ける。


真っ先に目を覚ましたのは紗耶香だ。


自分が連絡を待っていて疲れて眠りに落ちたと思い出す。


携帯電話を取り出して、もし何かが来たか確認するが、何もない。 期待が外れたのが残念で眉をひそめて時計を見る。 普段より少し早く起きたようで、そのままベッドに横になろうかと思っていたが、今寝たらまた起きられなくて遅刻しそうだ。 重い体をかろうじて起こして学校に行く準備をする。

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