弘は港町に来たことを実感して、自然と気分が爽快になる。

「私がここに来たことを記念する何かを残したいのですが、写真一枚だけ撮っていただけますか?」弘はかばんを開けてポラロイド写真機を取り出し、祐希に渡して駅の方に戻る。

「もちろん。」裕樹はカメラを受け取って弘が姿勢を取るのを待つことにする。

「ここ横浜駅がよく見えるように撮ってください。」彼は明るく笑いながら駅の入り口を指す。

「よし！」裕樹はカメラの焦点を細かく動かして横浜駅という字がよく見えるように合わせてシャッターを押す。

パシャッと音と共に旅行の最初の思い出を盛り込んだ即席写真が選ばれる。

「もう一枚お願いします！」

「分かった。」祐希はやはりシャッターを押して、写真がもう一枚出てくる。

弘が明るく笑いながらぴょん跳ねてくる。

「ああ！よく撮れたと思います。」弘は写真を受け取り、財布に詰め込む。

「さあ、これももらわないと！」祐希がポラロイドカメラを弘の手に握らせる。

「さて、これ一枚はプレゼントです。」弘は一枚の写真を祐樹に渡す。

「ああ、ありがとう。」祐希はほっこりした写真をもらってにっこり笑う。

「もう記念写真も撮ったので、早く出発しましょう！行くところが多すぎます！ベイブリッジというところにも行ってみたいですし、ベイクォーターで船も乗ったほうがいいと思います。」

「でも、その前にホテルに行ってチェックインからしなければならないんじゃない？荷物から解いて動いた方がずっと楽だと思う。」

「はい、そうだと思います。」

結城と博がホテルに到着した時、偶然入口で警察に出会う。表情があまり良くないのを見ると、何かが起きたようで心配だが、あまり気にしないことにする。ちょっと安逸な考えかもしれないが、旅行に来たのに気分を害したくない。

「予約した部屋にチェックインしに来たんですが。今大丈夫ですか？」

「はい、ちょっと待ってください。すぐに確認します。」

「302号室です。」

「はい。弘という名前で予約した部屋ですか？」

「はい、そうです。」

インフォメーションデスクのスタッフが予約状況を確認し、難色を示す。

「ああ…ご不便をおかけして申し訳ありませんが、予期せぬ事情が生じてまだ使用する部屋のチェックアウト手続きが終わっていないのですが、少々お待ちいただけますか？お荷物はこちらでお預かりいたします。」

「少し曖昧な時間に来たようですが… しばらく待とうか?」祐希はその職員が謝るのを見るとどうしても問い詰めることはできず、訳もなく寂しい気持ちを癒してくれる何かを探してみようと思う。

「じっと待っているだけではあまりにも退屈で時間がもったいないようですが。」弘もやはりきつく組まれた日程でこのような予想できなかった空白が当惑しているのか表情をしかめ、周辺を見回す。

「やっぱりそうだろう?」祐希は計画がこじれてしまったことを残念がる弘に手招きする。

「それではちょっと外に出て散歩でもしたらどうですか？荷物も預かってくれるというので、ここに置いていけばいいと思います。」弘もやはりここにじっとしているからといって、特に変わることもないと思い、祐希と街を一度見回して時間をつぶすことにする。

「そうしよう。」この旅行の主人公は弘だから、彼の言うことに従ったほうがいいと思う。

「上着も置いていくべきか…」弘がまた案内デスクの方にくるっと向きを変え、自分の荷物をちらりと見ながらためらう表情をする。

「そのまま着て行ってもいいんじゃない？特に暑くないようだけど？」祐希はためらう弘に早く来いと手招きする。

「大事なものがありましたら、全部置いて行かれた方がいいと思います。先ほど近くでスリ事件が起きたんですよ。私たちの宿に泊まる方に起きたことで、今チェックアウトが遅くなるのもこのためなんですよ。」案内デスク職員はまるで弘が不安がる理由に気づいたかのように先に提案する。

「あ… そうですか？それでは、私の上着もここに預けておきます。」弘は気持ちを分かってくれる彼女に感謝するかのように素早く服を脱いで荷物の上に揃える。

「ありがとうございます。」彼女はやはり弘を安心させるかのように明るく笑いながら応対する。

ホテルを出たが、急に日程にできた空白で何か虚しくなって生臭い海風だけを飲みながら周りをきょろきょろ見回すだけだ。

「どこに行ったらいいかな？」祐希が頭を掻きながら弘の顔をちらりと見る。彼もやはり同じ表情をしているのを見ると、すぐに思い浮かぶ考えがないのはあまり変わらないようだ。

「近くにゾノハナパークという景色の良いテラスがあるが、そこに行ってみたらどうですか?」祐希を催促して出ようと言った弘だったので、このような空虚な雰囲気の責任を負わなければならないと思って先に言い出す。

「よさそうだね。」何をしようが弘が満足できれば構わない。

「はい、そこから行ってみましょう。実は元々計画にないところですが、そんなに遠くもなく、公園を散歩して何か疲れた頃にテラスに行ってボーっとしていたらすぐ時間が経っていると思います。」やっと思いついた場所だが、なかなか良さそうだ。

「いいよ。」言われた通りにすれば、後で東京に戻る時、弘ががっかりした表情をして後悔する状況は避けられる。

「ここの名物が象の鼻アイスクリームとロールケーキだそうですが、何か気になって早く見たいです。」

一方、栞奈もやはり駅に着いてどこか行くところを探そうと思う。時計をちらっと見ると、まだチェックインするのに時間の余裕が少しあるようだ。空腹を満たすために近くのハンバーガーステーキレストランに行く。レストランの入り口で全体をひと目通してみる。両親といつも一緒に来たところに実際一人で来ると何か寂しい気分だ。やはり週末だからか遅い昼休みなのに混んでいる。家族同士、友達同士、恋人同士、おしゃべりする明るい雰囲気が彼女の寂しさをさらに刺激する。ここはお腹がすいて何かを食べに来ただけだと自ら言い返し、そのような雰囲気を努めて無視しようとする。むしろ一人で食べ物に集中できるからよかった。ここに来るといつも座っていた席が待っているかのように空いている。すぐ店員が来て注文を受ける。彼女はいつも食べていたものを注文し、料理が出るまで待つ。

彼女が食事をしている間に、結城と弘はきちんと整頓された公園の道に沿って歩く。暖かい日差しとさわやかな海風に舞う桜の花びらが旅行の気分を盛り上げてくれる。散歩の味がする午後の雰囲気だ。まもなく海が一望できるカフェに到着する。やはりカフェ内部にも大きな象牙が印象的な象の模型装飾物がある。まっすぐカフェのレジに行ってメニューにさっと目を通す。

「象の鼻アイスクリーム2つとロールケーキ2つください。」何を注文するかはすでに心の中に決めていた。

「ちょっと待ってください。考えてみると、私が上着に財布を入れておいたのに持ってきませんでした。」彼がお金をどこに置いたのか探そうと身を探り、ホテルであったことがふと思い浮かぶ。

「あ…そう？どうしよう？」これは彼もやはり思わぬ問題だった。

「そうですね。私もこれ食べてみたかったんだけど…」その気になればホテルに戻ることができるが、ここまで来たところにせいぜいこのためそんな手間をかけるのも面倒で、ただためらう。一分、一秒が大切な旅行なのに、このような煩わしいことに時間を浪費しなければならないというのが煩わしくならざるを得ない。

「それでは私たちじゃんけんをすることにしよう。」祐希もやはり同じ考えなのか、ただぐずぐずしているだけの弘に先に提案する。

「ジャンケンですか?」弘は耳寄りな提案にさらに心が揺れ、目を丸くして問い返す。

「そうだね。じゃんけんで負けた人がホテルに行くことにしよう。部屋が準備できそうな気もするので、ついでにチェックインもするのはどう?」すぐに関心を持つのを見ると、やはり惹かれるようだ。

「ああ！そうしてくれるんですか？いいですよ！」本当に単純な方法だが、今のところ最も明快で合理的な方法だ。

祐希が先に拳をぎゅっと握って合図すると、弘もやはり真似する。

「じゃあ、じゃん！」

「けん！」

「ぽん！」

2人が同時に叫びながら自信を持って手を伸ばす。

二人の選択が食い違う。

祐希がハサミを出し、弘が拳を出す。

あいにく勝者は弘だ。

「ああ…私の勝利です。」弘は祐希の気持ちを考えて、頑張って残念そうな表情をしてみようとするが、勝利感に少しずつ口元が上がり微笑が漏れる。歓呼の声を上げることができず、できるだけ短く反応する。

「そうだね。私が行ってくるよ。」祐希は弘が不便な感情を隠そうとぎこちなく語尾を濁すのを見ていると微妙にからかわれているようだが、結局自分がした提案なので努めて無視することにする。意地悪な言い訳をするより、潔く認めたほうがいいと思う。

「本当に、ありがとうございます。私が次の行くところを予約しておきます。」弘も実際に勝ってからも祐希にこのようなお使いを頼むのが気まずくては努めて慰労を伝える。

「よし！」

祐希は弘が待っているという事実に焦って早足で来た道をそのまま戻る。彼がホテルに到着する時、レストランで食事を済ませてから宿舎に荷物を置きに来た栞奈を発見する。駅で会ったのも偶然だと信じにくかったがここからまた出くわすだからただ運命のいたずらであるように感じられる。まるで夢を見ているようで、この人が本当に栞奈なのか疑わざるを得ない。ここまで何の用事で来たのか気になるが、もし見つかるかと思って素早く隠れる。

「チェックインしに来たんですが。」栞奈は祐希が見守ることを知らないのか、ただ淡々と案内デスクに行く。

「あ、そうですか。すぐにやってあげますよ。」

「はい。」

しばらくすると、彼女はインフォメーションデスクで鍵を渡され、上の階に向かうエレベーターに乗る。

彼は彼女がいなくなったことを確認してからホテルに入る。

「あの…」彼も慎重に言い出す。ひょっとして彼女と出くわすのではないかと不安になる。早く荷物を置いて出なければならないという考えで焦る。確かにエレベーターに乗ったことを確認したのに安心できなくて周りだけをきょろきょろしている。

「いらっしゃったんですね。待っていました。ご不便をおかけして申し訳ありません。もう部屋を使ってもいいです。荷物は私たちが一緒に運びます。」彼女は彼が不安に思っていることを知らないのか、まだ親切に案内してくれる。

「ありがとうございます。」