第3話 : 出会 [2]

もしかしたら祐希が文芸部室ではなく図書館に来て、いざ栞奈の電話を待っていた理由は、ただ桃香にぎこちない出会いを避けようとしただけでなく、栞奈から連絡が来るだろうという期待に彼自ら背を向けようとしたのかもしれない。 余計な期待は失望感だけを抱かせるだろうという事実を図書館に入ってきた時から認知していたため、望まなかったのだ。


「朝電話したんですが。 入るには何の条件が必要ですか? 試験とか面接とか? 資質を検証する機会です。」と弘はむしろもっと積極的に飛びつく。 ためらう態度を見せたという事実を忘れさせようとする。 そんな不安感は祐希に不思議な不信を抱かせるだけだろう。


「心配しないでください。 何より重要なのは、どれだけこの仕事に興味を持つかにかかっています。」 祐希は弘に余計な不安感を与えたくなくて、やはり淡々とした声で曖昧な返事を残す。 訳もなく2人を秤にかけながら弘を焦がしているようで申し訳ないが、依然として栞奈に未練が残っている。


「本当ですか?文芸部の部員という方は、それよりもっと重要なのは実力だそうですが。」弘は桃川相反する祐希の態度が疑わしいので、一度ストレートに聞くことにする。


「部員?」祐希は部員という言葉に頭の中に浮かぶ一人がいる。


「はい。」彼は短くはっきり答える。


「他の部員とすでに連絡したんですか?」彼はもしかしたらという気持ちで尋ねる。


「はい、偶然。」彼は何のためらいもなく堂々と答える。


「どういう状況なのか大体分かる気がしますね。」 祐希は一人で頷く。 さっきになぜ弘がそんなことを言ったのか理解できる。 桃香が弘に何を言ったか明らかだ。


「あ…本当ですか?」いざ自分がまともに話してもいないのに先に分かったと言うと、どういうことなのか疑問に思うだけだ。


「はい、でも私はそうは思わないんですよか?」やはり断固として答える。 その言葉が祐希に意志を試す挑発のように聞こえて意地を張る。


「それは具体的にどういうことですか?」何かあるようで疑わしいが、どうしても何も言えない。 逆効果だけを招きそうだ。


「純粋な情熱さえあればいつでも歓迎です。 小説を書くことに関心ができたきっかけが何か聞いてみてもいいですか?」あきらめなければ潜在力は十分だ。 その誓いが最後まで変わらないことを願うばかりだ。


「ただ…とても面白かったです。 それで文芸部に入ってもっと多くの本を読んで、私が直接小説を書いてみようとしているのです。」特に隠すこともない。 余計な嘘よりは率直な返事が良い印象を残せそうだ。


「今ちょうど興味を感じ始めたということですね? そのような情熱を持って自発的にすれば実力も自然に伸びるのではないですか?」


「はい、そういうことなんですよね。」


「今回の試験を機に、その価値を証明すればいいのではないですか?」 桃香がなぜ弘に祐希に電話をかけるように言ったのか理解できると思う。 彼女がむしろ最もその目的にふさわしい人を送ってくれたのだから、この提案を喜んで受け入れることにする。 特に断る必要はない。 これは桃香が弘だけでなく祐希に出す試験でもある。 彼がこの賭けで勝てば、彼女も素直に認めるだろう。


「あ… これはその部員からすでに聞きました。 勝てば入ることができると。」弘はその当時桃香が言った言葉を次々と思い出すが、実際に何をすればいいのか分からなくて頭の中だけ複雑になる。 今すぐ重要なのはこれだけだ。


「それを知っているので複雑な説明は必要ありませんね。 今すぐ本論に入ってもいいと思います。」 結城はうなずけるしかない。


「ああ、はい…」彼が特に特別なことを言わなかったにもかかわらず、状況は自然に展開される。 雰囲気に振り回されるだけだ。


「早いうちに会って話したいのですが… 早く始めれば始めるほどいいじゃない?」裕樹は約束を取って準備に入ろうとする。 弘が迷いながらあれこれ問い詰める前に計画を実行に移そうとする。


「はい…そうですね。 それでは…いつ?」彼も戸惑うが、自ずと納得せざるを得ない。 ペンと手帳を取り出して正確な約束時刻をメモしておこうと思う。


「明日はどうですか? 放課後に会えたらいいのに。」桃香がすでに準備に入ったと思うと、もっと焦る。


「私は大丈夫です。」


「それでは具体的な時間と場所は私が後で携帯メールでお知らせします。」


祐希はそんなに短い通話を終えてから図書館を出ることにする。 今すぐすべきことが明確なので、このように時間を無駄にしている必要はない。 電話の声だけ聞いたことのある人に実際に会うことを考えると緊張して胸がどきどきする。 期待感と不安感を同時に抱いたまま家に帰る。


一方、彼はその承諾を得たものの、やはり状況がどうなっているのか分からず戸惑うだけだ。 心配だが、努めて肯定的に考えることにする。 文芸部に入るまともな機会さえなく、ぶるぶるしていた少し前に比べると大きな成果に違いない。 この機会を適切に生かして良い結果さえ出せばいいので、むしろ簡単だ。 これから何が起こるか期待せざるを得ない。


祐希はそのように失望感と期待感を抱いたまま校舎から出てきて、自分が待ちわびていた栞奈は、いざ彼が会いたくなかった桃花と共に文芸部室ではなく運動場のベンチにいるのを発見する。 この状況を両目で見ても到底信じられない。


彼は見つかるかと思ってベンチの近くに隠れる。 彼は自分がなぜこうすべきなのか分からないが、どういうことなのか気になって到底我慢できない。 彼らの会話をこっそり盗み聞きすることにする。 自尊心はそのまま捨ててしまえばいいのだ。


「はじめまして。 栞奈と申します。」


「はじめまして。 桃香と申します。」


二人は舞い散る桜の下で初挨拶を交わす。


「必ず入りたいということはすでに分かるだろうし、今重要なことはどうすれば入れるのか正しく知ることではないですか?」栞奈は直ちに本論に入る。


「はい、そうです。 話がよく通じますね。 テストというのは簡単です。 ただ小説一編を書けばいいです。 相手も同じように小説を一編持ってくるはずですが、その小説よりもっと人気があればいいのです。 今回の文化祭の時に投票で優劣をつける計画で、投票者は我が校の学生です。 面白そうじゃないですか?」


「あ、はい。」


「はい、本当に簡単ではありませんか?」


「ええ、そうみたいですね。」


「もしかして自信がないんですか?」


「私も誰にも負けない自信があります。」


「あ、本当ですか? それは本当に嬉しい言葉ですね。」


「でも、少し気になることがあるんだけど。 実はこの文芸部に入ってこいと言っていた男性部員がいましたが、その方はどこにいるのですか?」


「あ、本当にその方に入ってきてほしいという要請を受けたんですか?」部員の男と言えば、頭の中に浮かぶ人は一人だけなのに桃香が首をかしげるしかない質問だ。


「はい。」


「彼が本当にあなたがその新入生として入ってくることを望むなら、勝者はあなたでなければならないでしょう? きっと彼が喜ぶでしょうい。」 桃香は意味深長な表情をする。 思ったより話がもっと面白く流れているようだ。 桃香は単に祐希に弘を送っただけなのに、むしろ祐希が望んだ人が桃香のところに来た。 あきれた偶然に違いない。 彼女はただこの事実だけでも栞奈をこの文芸部の一員にしたいという欲求が生まれる。 この賭けに込められた意味を一度振り返ってみると、栞奈がぜひ弘に勝ってほしいと思う。


その会話を盗み聞きしている祐希も今すぐ飛び出して一言言いたいが、頑張って抑える。 望む人が入ってくるためには、自分がいざこの賭けで負けなければならないというのがアイロニーに違いない。 事がこんなにこじれるとは想像もできなかった。 今の感情に勝てなくて割り込めば、さらに状況が混乱しそうだ。 うまく解決するという保障もない。 ただ、自分がその賭けに勝つために栞奈に賭けで負けることを強要するのは、やはり自分の本当の意図から大きく外れることだ。 栞奈の意志をくじくことはできない。 徹底した自己矛盾に違いない。 やはり競争相手の栞奈が最善を尽くすことを願うしかない。 たとえこれが桃香に彼の主張を否定する機会を与えるとしても。


賭けに勝って栞奈が入れないことと賭けに負けて自分の価値観と信念が徹底的に折れること。 どちらも望まないことしかないので、運命のいたずらに違いない。


慎重にそこから出てきて、家に歩いて行きながら状況をじっくり振り返ってみる。


弘はこの状況を知るはずがないので、むしろ目的が明確になったと思う。 家に帰るやいなや空のノートを取り出してペンを握り、頭を絞り出すが、いざ適当なインスピレーションが浮かばない。 初めての作品だと思うと、圧迫感に頭の中がさらに複雑になる。 ため息ばかりついているだけだ。 栞奈がくれた小説を思い出してはランドセルから取り出す。 小説に集中して1枚ずつめくってみると、時間はあっという間に流れる。 最後のページを読む時、栞奈がこの小説がどうだったのか話してほしいと頼んだことを思い出す。 果たして自分がこれについて何が言えるかじっくり考えていたら疲れてベッドに横になって寝てしまう。


そのように一日が過ぎ、翌日が訪れる。


栞奈は普通に学校へ向かうバスに乗り込むが、以前住んでいたところからは歩いて通学したので、これすら見慣れない。 舞い散る桜の香りに酔ったまま学校に着く。 教室に来るやいなやかばんを下ろして隣の席をちらりと見る。 いざ弘がこの小説を読んでどんな感想を出すのか気になる。 何かインスピレーションを得るかもしれない。 その待ちに応えるかのように、まもなく弘が教室に到着する。 いつものようにどかっと席に座って周りを見回す。


栞奈が弘を意味深長な目つきで見つめている。


弘もその厳しい視線に勝てず、首を回すと栞奈と目が合う。 表情だけ見ても彼女が何を望んでいるのか分かる気がする。


「おはよう!」と彼女は元気よく先に挨拶をする。


「おはよう…」彼はまだ眠い。


「それで…その小説全部読んだ?」 彼女は期待に満ちた目つきで尋ねる。


「昨夜に最後まで読んだ。」


「本当?かなり面白かったみたいだね。 評価は?この小説どうだった?」 彼女は彼の眠そうな表情を見ながらうなずいた。 彼女の目がきらきら輝く。


「面白い小説だよい。」 できるだけ短く答える。 何の返事が聞きたくてこうなのか見当もつかない。 小さなありがたさを感じるだけだ。


「そして?それで終わり?」望んだ返事が出てこなかったことに失望せざるを得ない。


「うーん…終わり!」彼もやはりこのような返事が誠意がないと感じるが、ただこれしか言えない。


「もしかしてこれがなぜ面白かったのか考えてみた?」彼女は未練を捨てられなくてもう少し執拗に尋ねる。


「いや、それはどういうこと?」


「ああ、わかったい。」と彼女はこの贈り物を通して本当の気持ちを伝えたかったが,無駄だった。 生ぬるい反応で会話を終えて席に戻る。


彼も残念に思わざるを得ない。 彼女ががっかりするのを見ると,きっと何か期待していた答えがあったと思う。 もしかしたら、自分がその小説をまともに鑑賞できなかったのかもしれない。 理由すら分からない。 今日祐希と会う約束をしたけど、この話を一度持ち出した方がいいと思う。

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