第3話 : 出会 [1]

そうして一日が過ぎ、次の日が思い浮かぶ。


栞奈は学校に入るとすぐ文芸部に行きたいが、学校の授業がもっと急なのでどうしてもそうすることはできないから少し残念だ。 とぼとぼ教室に行く途中、図書館を通り過ぎると文芸部のビラが目を引く。 足を止めざるを得ない。


欲求に勝てなくてチラシにある番号に電話をかける。 自分が感じる焦りを少しだと落ち着かせようと短い通話連結音に沿って口ずさむ。


誰かが電話に出る。


「もしもし?そこ文芸部だったんですか?」栞奈は声を一度整えてから言い出す。


「はい、そうですが、どなたですか?」電話に出た桃香もやはり落ち着いた声で問い返す。


「文芸部に新入として入りたいのですが。 どうすればいいですか? もしかして試験みたいなものを受けるんですか?」 彼女は好奇心と興味に満ちた声で質問する。


「はい、そういうことです。 一種の試験が必要です。 興味があれば、放課後に少し時間を割いていただけますか?」 桃香は相手が誰かも正確に知らず、変な記憶がまだ頭の中に残っているので大きな期待はしていないが、一応関心があるというから一度会ってみるのは悪くなさそうだ。 特に決めておいた人がいるわけでもなく、直ちに受け入れる必要があるわけでもないので、時間を投資してみる価値がある。 いざという時のように切って断る心算だ。


「もちろん、可能です。」


「それでは、運動場のベンチで会うのはどうですか?」


「運動場のベンチですか? 文芸部室ではなく?」栞奈は突拍子もない場所の選択に首をかしげて聞こうとする。 部員になってからずっと使う文芸部室なので、この機会に見物を一度してみるのも悪くない。


「はい、理由は後で会って説明してあげます。」 彼女は明らかに目的がある賭けをしている間にライバルと向き合うことはお互いに不快感を与えるだけだと考えている。 意味のない出会いで彼の警戒心を刺激したところで、雰囲気だけがぎこちないはずだから、できるだけ避けようと思う。


「ああ、分かりました。」一度見物に行ってみたいが、ただ残念なだけだ。 駄目だという理由があると思うが、言いたくはないようだからこれ以上深く聞き込まないようにする。 何か失礼になりそうだ。


一方で弘もやはり桃香からもらった電話番号に電話をかける。


「あの、文芸部が合ってますか?」弘はまずそっと言い出す。 桃香が言った言葉が依然として記憶の中に残っているので、いくら彼自ら悪いことをしたことはないとつぶやきながら堂々となりたくても慎重にならざるを得ない。 昨日そのような否定的な答えを受けたのだから、縮こまるしかない。


「はい、そうです。 失礼ですが、どなたですか?」祐希はやはり平然とした声で答える。 聞こえてくる太い声は男のものに違いないが、その相手が昨日会った彼女であることを漠然と期待する。 栞奈から好意的な反応を得たのでどうしてもその考えを捨てられない。 その点に未練が残っている。 余計な錯覚ではなく、十分可能性のある話だ。


「その文芸部に入りたいこの学校の新入生です。」 彼はこの状況で自信が最も重要だと感じる。


「ああ、そうですか。」そうでなければ、一人で錯覚に捕らわれて恥ずかしくなることは明らかだから、最大限その感情を表に出さないようにする。


「はい、聞いたところによると、何かのテストに合格すれば入れるそうですが、そのテストは何ですか? 一気にパスします。」


「テスト?はい、そうです。 かなり自信があるようですね。 もともと本に関心が高いのですか?」実際、彼はテストという言葉を聞くと、昨日の対話が浮び上がってさらに期待感が大きくなる。 やさしく質問をする。 文芸部に入ろうとする人なら一度くらいは当然受けるに値する単純な質問だが、今の状況ではそれ以上の価値がある。 相手が昨日会った彼女なのか区別できるだけでなく、小説にどれほど関心があるのかも分かる。


「いいえ、全然。」 弘はやはり堂々と答える。 今すぐ持っているのは漠然とした自信だけだ。


「全然?」祐希は耳を疑う。 何か聞き間違えたと信じる。 もしかしたら期待感がこのように一度に壊れることを信じられないのかもしれない。 彼自ら信じたくないのだ。


「全然。」彼がそんなに聞き返しから、彼はもう一度明確に答える。


「しかし、今は興味ができました。 昨日ある部員のおかげで関心ができ、昨日また別の部員のために必ず入りたくなりました。」彼は相手方が彼のはっきりした答えに大きく失望したと言い切る。


「部員。」祐希は弘の話を聞くや否や誰かが頭の中をかすめる。 不吉な予感を無視しようとするが、訳もなく混乱してしまう。


「それで、条件ということが何ですか。」彼は失望感に濡れた言い方も気にせず恬然としそうに尋ねる。


「競争を通じて相手に勝つのです。」祐希は自分が望んだ人ではないことが明らかだと気づき、やはり淡々と答える。 入部希望者に会ったことに喜ぶべきだが、これが自分の期待を満たしてくれないと知っているので失望せざるを得ない。


「競争ですか?」弘が問い返す。


「自信がないですか?」祐希は声から迷いがにじみ出る弘をより一層刺激しようとする。


「自信あります。 いや、自信がなければなりません。 何があってもその試験というのをパスします。」 祐希の挑発は弘に昨日あったことをもっと生々しく思い出させる触媒剤になる。


「心構えはかなり気に入りますね。」祐希は弘の挑戦的な態度に肯定的な反応を見せる。


「本に全く関心もなかった人が突然小説を書いてみようとするのが大きな問題ですか?」弘は不安感に勝てなくてこっそり尋ねる。


「いいえ、違います。」と祐希は断固たる口調で答える。


「本当ですか?」弘は桃香が昨日表わした反応を考えると、どうしても安心できなくてもう一度尋ねる。


「ところでこれをなぜ聞くのですか?」祐希はその質問に戸惑うだけだ。 決心して決断を下した状況で、そのような小さな不安感が問題になるはずがない。


「ああ…何でもない。」弘は祐希の質問にびっくりして慌てて否定する。


「情熱と誠実ささえあれば、私は無条件で歓迎します。」祐希は何かおかしいと感じるが、相変わらずその主張に固執する。 そのような単純な不安感に揺れるほど弱い意志を備えた人ではないと断言する。


「はい。ところで試験に合格できれば…」 弘はいざ昨日桃香の反応と正反対に好意的な返事を聞いたら負担感で肩が重くなる。 完全初心者の自分にできるかどうかもやはり信じられない。


「できます。 自信を持ってください。」彼はこのように堂々と先に入部を希望すると言ってから何をためらっているのか理解できない。


「はい、分かりました。」彼は淡々と答える。 やってみないで怖がるのは愚かなことだと彼自身が断言する。 大切なのは自信だ。 文字通り初心者の彼が今できることは、自分自身を信じることだけだ。


「それでは詳しい話は学校の日課が終わった後に交わすことにしましょう。」ひとまず対話を切ろうとする。 彼女の電話に未練が残っていて、彼にはっきりとした返事をするのを避けようとしている。 彼女からまだ電話がかかっていないことに失望するが、もう少し待ってみることにする。 生半可な決定を下すことができない。


「それはいい考えですね。」弘もやはり急いで仕事を進めたくないので、後でまた電話しようと思う。


皆が各自の位置で自分だけの方式で学校生活をしているため、いつのまにか時間が経って学校の日課が終わる。


栞奈は放課後に待ち合わせ場所に行こうとしている。 運動場のベンチだと言ったからきっと待っているだろう。 震える気持ちで果たして誰なのか見ようと思う。


彼女はそのビラについた番号に連絡するが、昨日会った彼のような文芸部の人ということ以外は知っていることがない。これが、いざ誰なのかどうかもしれない。


「こんにちは。」栞奈が先に慎重に会話を始める。


「あ…さっき電話をくださったあの方ですか?」桃香もやはり平気な声で確認する。


「はい、そうです。実は広報チラシを見て電話をしたんですが。 何か条件がありますか?」栞奈は聞こえてくる声が男性のものではないという事実に少し気が引けるが、やはり落ち着いた声で入部するのに必要な条件は何かを聞こうと思う。


「はい。私は文芸部に入るのに何よりも重要なのは実力だと思います。 どれだけ小説を上手に書くかということです。」 桃香は執拗に自分の主張を固守する。 実はこの賭けをする理由も、その点を祐希に明確に悟らせるためだ。


「分かりました。」栞奈は昨日見せた祐希の態度と大きく違う態度に当惑せざるを得ない。 何かを付け加えては反感を買うに違いない。 文芸部に入ろうとする立場でいいことはない。 いい印象を残すために我慢することにする。 努めて感情を隠したまま落ち着いて答える。 むしろこのやり方が楽だ。


栞奈は電話機を掴んだままベンチへ向かう。 桜の木の下で通話する、ある女子生を発見する。 栞奈はこの人がまさに桃香だと直感する。


一方、祐希は宿題を終えに図書館に行く。 落ち着かない気分をほぐす前には特に集中できそうにないが、やはりやるべきことはしなければならないようだ。 もしかしたら家に帰りたくないのかもしれない。 図書館に入ろうとしたが、ちらっと入口に貼られたチラシを確認する。 文芸部をPRするチラシに桃香の携帯電話番号が書かれているのに気付く。 このチラシの持ち主は桃香だろうと断言する。 明らかだ。訳もなく気が荒くなるが、無視して図書館に入る。


図書館の中は静かで静かだ。 本のにおいが鼻をつくだけだ。


隅の席に行ってランドセルを置いて座る。 息を整えてから勉強を始めようと思う。


視線を本に固定したまま数行読むが、賭け事の考えが頭から離れない。


その瞬間、ポケットから電話が鳴る。 あまりにも気が動転して勉強に集中できない状況で、特に無視する理由はない。 図書館を出て階段の隅に落ち着く。 顔を一度しかめて通話ボタンを押す。


「もしもし。」祐希がやはり慎重に答える。


「もしもし。」やはり電話をかけたのは栞奈ではなく弘だ。


どうしても受け入れたくはないが、その出会いが単なる偶然に過ぎなかったと判明する状況だった。 必然だったと固く信じていたが、そのような期待がこれ見よがしに外れると、自然に失望感が襲ってくる。 実は図書館で宿題をすることも言い訳で、栞奈から連絡が来るのを待っていた。 家に帰る前に本当に欲しかったのは宿題を終わらせることではなく、栞奈の電話だった。 このような感情の変化は祐希にその事実だけをもう一度確認させた格好だ。 もしかしたら、自分の本来の目的を明らかにしながらも、努めて無視していたのかもしれない。 いざ本音がばれてからは、彼自身に素直になれなかったことが恥ずかしくなる。

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