第1話 : 冬休み [2]

「おはよう!」ちょうどその瞬間にもう一人が部屋の中に入ってくる。紗耶香は明るい表情で挨拶しながら、変なやり方で盛り上がっていた会話の雰囲気を一瞬にして変える。


「やっと来たね。 万年遅刻生。」桃香は雰囲気転換になる紗耶香の登場が嬉しいだけだ。 この状況を免れることができれば、遅刻は喜んで許してくれる。 普段なら大きく責めるだろうが、今日は薄氷のような危機から救ってくれたのが内心ありがたい。


「何?私を待っていたの? やれやれ~」紗耶香は自分がどれほど劇的な瞬間にここに来たのかも知らないかのように答える。 もしかしたら当然だ。 盗聴装置でも取り付けておかない限り、知るはずがない。


「そう、本当に絶妙な瞬間に来たね。」結城も紗耶香の登場がその気まずい流れを一瞬で断ち切ったことに気づく。


「それでは本論に入らなければならないか? もうみんな集まったよ。」 桃香は少しでも会話の流れが間違った方向に漏れることを容認できない。 雰囲気を引き締めようとしている。


「そうだね。」祐希もやはり淡々とした声で答える。


「あ~ずっとこんなに面白くないようにするの?」紗耶香は不便な雰囲気が気に入らなくて、文句を言う。


「あなたもこういう時だけでも真剣な態度で私たち文芸部の未来のための対話を交わしてみるのが良いのではないか?」桃香は不思議と熱くなっている紗耶香が気に障る。 紗耶香の表情と話し方が気に入らなくて冷笑的な反応だけ見せる。 面倒くさそうなうなり声を努めて無視しようとする。


「ふむ、文芸部の未来はなんとかなるよね? 今すぐしなければならないことを熱心にすれば自分でうまくいくのではないか?」桃香の無心な返事に気分を害して眉をひそめるが、眉には依然として茶目っ気がいっぱいついている。 やはり無駄に遠い未来を心配しても何も変わることがない。 今重要なことは、数週間後に始業して新入生として入る文芸部の未来の新芽だ。 迎える準備をしなければならない。 良い土壌を整えておかないと、種が良い実を結ぶことができない。 実質的に先輩として当然すべきことだ。


「今すぐ目の前にあるものを楽しめば、 願っていた未来が私たちに向かって近づいてくるのではないか?」紗耶香は両手をそっと上げながら平然とした表情をする。 今しなければならないことも山積みなのに、なぜそんな苦労をあえてしなければならないのか理解できない。 訳もなく頭を痛める無意味な心配も一種の習慣だ。


「そう、素直でいいね。 むしろそれが君らしい答えかもしれない。」彼はうなずきながらその答えを受け入れる。 長い間、頭の中にしっかりと埋め込まれた彼女の普段の姿に実は親近感が湧く。


「私らしい答え? それは何?」彼女はその言葉の意味が何なのか分からないように目を丸くして首をかしげる。


「何でもない。 特に気にする必要はない。」彼は彼女をそのままにしておこうとする。 敢えて教えようとする必要はなく、いざそうしたからといって彼女が変わるわけもない。


「実は、もう近づく新しい春の日に私たちの文芸部に入ってくる新入生に関する話であるだけだ。」彼もやはり深刻に悩む必要がないという気がして心を和らげようとする。 紗耶香の態度がかえって正解に近いかもしれない。 もしかしたら答えは祐希の思ったよりずっと単純で明快かもしれないし、本当にそうならむしろ問題を複雑にする人は祐希自身なわけだ。


「あ!そうだ!そしたら2人が卒業したから、もう新入生が入ってくるんだね? どんな子たちが入ってくるんだろう? かわいい子供たちだったらいいのに!」彼女は目を丸くして手を叩く。 期待感に満ちた声で願いを表わす。


「それでも基本的に作文に関心がある人が良いのではないか?」単純な第一印象として先入観を抱くのは正しくないが、このような興味は文芸部に入る人が持たなければならない基本的な心構えであり最小限の資格条件だ。


「そして基本的に作文に造詣がある人がいいと思う。」文芸部の発展のための道だ。 単純に笑って騒ぐことに止まるのではなく、真の交流を通じた文学的楽しさを追求しなければならない。


「私も実力が重要だということには共感するが、これが最優先順位になってはならないと思う。」祐希は桃香の言葉に直ちに反論する。 これが自分の価値観に合わないことに気付く。 これも大事だけど、桃香がこれよりもっと大事なことを逃している気がして残念なだけだ。


「どういう意味?」桃香は祐希の反論が理解できない。 文芸部で小説を上手に書くことより重要なことがあるはずがない。


「僕は小説をどれだけ上手に書くかを確認するより、その人が本自体をどれほど好きなのかを確認することを主な基準にしなければならないと思う。」祐希はただ実力がないという理由で本当に情熱のある人を追い出したくない。 そのように単純に評価するには潜在価値がもったいないだけだ。 文芸部に肯定的な気運を吹き込んでくれる人を心から望んでいる。


「あなたが言う情熱というのは文学に対する真正性ではないか?」 彼女は結局自分が彼と同じかもしれないと思う。 作文を修練するのに長い時間を投資して造詣が深いという事実自体で文学に情熱があると証明するのだ。 努力で積み上げた実力自体が証拠だと確信する。


「僕はもう新しく咲く桜のような純粋な情熱を新入生に望んでいる。 そんな水たまりのようなところに泊まりながら腐ってしまった水ではなく、絶えずどこかに流れる澄んだ水。」彼はすでに整えられた宝石よりは内面に美しさを持った原石にさらに関心がある。


「新入生にとって重要なことは、どれほど大きな花を現在咲かせるかではない。 どれほど大きな花を咲かせることができるかが重要だ。」 彼は意を曲げる気が全くないので、やはり断定的な口調で答える。 彼女の価値観に基づいたこだわりと同じくらい、彼のこだわりもしっかりしている。


「やっぱり意見が違うみたいだね。」文芸部の未来を心から願うという目的地は同じだが、方向が違う。 誰の方向が正しいのか知っている人が誰もいないため、このような対立が生じるのだ。 もしかしたら誰が正しく、誰が間違っているのか自体がないのかもしれない。 答えそのもののない論争かもしれない。 問い詰めたところで、お互いの既存の価値観だけをさらに強固にするのかもしれない。 解決するという言葉自体が合わない論争だ。


「良い技術を得るために投資した努力がまさにその真正性の価値を示しているのではないか? 何が間違っているんだろう? 言葉だけでするのは誰ができないの? 喜んでる!うまい! 言葉では誰でもできるじゃない? 結果を見せてこそ努力を認めてくれるのではないか?」彼女は彼が本当に意図していることが何かを知りながらも到底受け入れられない。 無意味な口論ばかりして疲れていくだけだ。


「そんなことはできない。」彼はすぐに反発する。


「ああ、やめて!私はただかわいい子供たちがたくさん来ればいいと思う! すごく可愛がってくれるよ!」 紗耶香はこの論争が気に入らない。 頭が痛い音だけを繰り返すので、ただ横で聞いているだけでも自然と印象が傷つく。


「新しい新入生を受ける基準は、すなわち私たちの富が未来に進む方向性そのものを意味する。 これが私たちが今ここに集まった本当の理由ではないか?」


「それも入ろうとする人がいてこそ可能な話ではないか? 入りたいという人が誰もいない富なのに、私たちが部員を選択する権利なんてあるはずないじゃない? このように硬くて陳腐な態度であれこれ問い詰める人がいる面白くない部に誰が入りたいと思う?」彼女はそれを聞くと真剣な表情で反論する。


「そう、その言葉も一理あるよ。 新入生たちが入りたいという富をまず作らなければならない。」 彼もやはり彼女の意見に同意する。


「そうだよ!そういうことだよ! 誰を選ぶか考えるのは、実質的にそうしてから考えてみる問題じゃない?」


「とにかく私は実力中心にして選びたい。 実力は努力の証であり、努力は真正性を意味する。 言葉だけで最善を尽くすということをどうやって信じることができるの? 少なくとも私はそんなことを絶対信じられない!」 桃香は祐希の反論にもかかわらず、屈せずに自分の主張をする。 これは自尊心の問題だ。


「あ~そう?私は純粋な夢がある新芽のような新入生で富をいっぱい満たしたいけど?」祐希もやはり一歩も退くことができない。 意見を少しでも曲げる人がすぐ敗者になるだろう。


「訳もなく水を濁そうとするのは君のようだけど? 卒業した先輩もこうしろと私たちに富を任せたのではないと確信する。 私はこの文芸部がそうなるのを到底見逃すことができない。」桃香もやはり断定的な口調で同じ言葉だけを繰り返すことにうんざりするほどだ。 これはお互いに言おうとする言葉が何なのか分からなくて生じる対立ではない。 むしろこのような対立だったら、終わってもとっくに終わっていただろう。 お互いに何を言いたいのか正確に分かるので、このように答えさえなく引きずられるのだ。 どうしてもお互いを受け入れることができないため、終わりの見えない争いだ。


「いったい誰がこんな部に入ろうとするのか…」 紗耶香は二人の間に挟まれたのが困って首を横に振る。 互いに対立する2人に一度ずつ目を通し、このように口論ばかりしては終わらないと思ってため息ばかりつく。


「今日はこの辺でやめたらどうかな? 余計に言っても気分が悪くなりそうだけど?」結局、誰も終わらせることができない。 祐希が先に会話をやめることにする。


紗耶香は無意味な言い争いに元気が出る。


「そうだね~やめてみんなで遊びに行こう! ここでこうしているからといって何かが解決されるわけでもないじゃないですか?」 紗耶香はもうこのような退屈な会話を続ける必要性を感じない。 話し方や表情のように表に出る証拠だけでも、どれほど陳腐な悩みで気を揉んでいるかをはっきりと感じることができる。


「いや、私は先に行ってみる。 遊びたければ二人で行って」桃香は相変わらず冷笑的な口調で反応する。 視線を避けて席から飛び立つ。 そのような意味のない提案に拍子を合わせる必要はない。 一度も振り返らずに部屋のドアに行く。


「それでは… 私たち… デートだ?」 紗耶香は桃香をちらりと見て、笑顔で優希にくっつく。


「さあ…ちょっと待って…」 誰が勝手に何をするというの? 私がまだ行くって言ってないでしょ?」祐希は慌てた表情をしながら紗耶香をじっと見つめる。


「さあ、それでは!決定だ!」 紗耶香はにこにこしながら祐希の腕をつかむ。 祐希が行くと言うまで絶対離さないつもりだ。


「それでは、二人で楽しい時間を過ごすように! 邪魔者はこの辺で抜けたほうがいいだろう!」 桃香もやはりそう押し付けて自分は退く。


「ああ!そんな無責任にどこへ逃げるの?」祐希は紗耶香につかまったままもがく。 桃香がそのように逃げるのがずるいと感じるだけだ。


「あ~面倒なことは大嫌い!」 桃香は手をそっと振りながら紗耶香を預けるという意思だけを示す。

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