第30話

カリンは鎌を取り出し,高く飛び上がり,ベルに向かって強くたたきつける。


「そう、勝手にしゃべりなさい。 つまらない感情にしがみつくことだから。」


ベルも鎌を立ててカリンの攻撃を防ぐ。


「面白いことを言うね。 お前こそつまらない感情にしがみついているんじゃないか?」


「何?」


「本当にそれが今この森が私にこんな幻想を見せてくれた理由なの? その日、あなたは私を殺すこともできた。 君も知っていたよね? 私の首に鎌を向けた時、どうしてぐずぐずしたの? ほんの数秒しかなかったのは事実だが、そんなに迷わなかったら未来は変わっていただろう。 こうはならなかったと思う。」


「その答えは私に勝ってから一人で考えてみたらどうだろう! この場で私の手に死ねばそれもできないからね!」


カリンは鎌にエーテルを巻き,大きく振り回して斬撃を放つ。


「そう、今あなたを倒して私が出した答えをこの世のすべての人に必ず聞かせてあげる。」


カリンの緑色のエーテルがベルが噴き出す赤いエーテルとぶつかる。


「一体何が足りなかったんだろう? まさにこの瞬間だけ待ってきた。 この場で私の価値を証明してみせる。」


ベルは耳元に上げる誰かの願いが込められた泣き声に自然とめまいがする。 カリンが容赦なく振り回す鎌を避けるだけだ。


「何してるの? 早く反撃して!」


「くぅ…幻想の中でもがく誰かの願いがカリンのエーテルに力を与えている。」


「そうだよ!君もちょっと感じられるかな? この森は今あなたに対する私の燃える感情が支配している!」


カリンはベルが幻聴に揺れる隙を逃さずに鎌を大きく振り回す。


ベルはカリンの惨撃を受けてうめき声を上げ,地面を転がす。


「何だよ、これで終わり? この日のために私がどれだけ長い間我慢したか、あなたも知ってるでしょ? つまらないじゃん? がっかりだけど?」


ベルは視界がぼやけている中でも歯を食いしばってよろめきながらゆっくりと立ち上がる。


「そんなはずがないのか? これからが始まりだよ。 胸がもっと熱くなるのが感じられる。 崖っぷちに追い込まれて一歩も退くことができない時、世の中にいる何よりも熱くなるのが私だ。」


ベルが高く舞い上がって気合の音と共にカリンに向かって激しく鎌を振り回すが、カリンが鎌を持ち上げて攻撃を防いではすぐ振り切る。


「ほぉ、感動的だね。 やっぱりそういうふうに出ないと。」


「デミス、あいつと決着をつけるまで絶対終わらない。 すまない言葉だが、今の私には君もただ倒さなければならない敵であるだけだ。」


「そう、死ぬ覚悟でかかってこい! 私もこのように一対一で殴り合う戦いが好きなんだ。」


ベルが涙を浮かべてすぐカリンに飛びついて鎌をあちこち振り回すが、カリンもやはりそのまま応酬する。 ベルとカリンの鎌がぶつかるたびに悲しい泣き声が静かな森全体に響き渡り、赤と緑のエーテルが入り混じって2人の周りに炎のように散らばる。


戦いが長くなるほど、むしろベルの赤いエーテルが森に及ぼす影響がさらに大きくなり、自然にカリンの影響力は弱くなる。 真心を伝えるというベルの意志に感化された人々が、カリンエーテルが作り出した森の幻想から目覚めようとする。


「くぅ…」


カリンは荒い息を吐きながら雰囲気をうかがう。 ますます積極的に変わっていくベルの攻撃に危機感を感じる。 カリンはベルの勢いが次第に強くなり、エーテル森の性質が自分に不利になることに気づき、戦いをこれ以上引きずってはならないという気がする。


「粘り強いね。この辺でいたずらはやめよう。 そろそろ決着をつけようか?」


ベルもやはり今が勝負をかける時だと直感する。


「そう、望んでいたところだ。」


ベルとカリンはエーテルを限界まで集めて鎌に巻きつけ,すぐにお互いに飛びかかる。


「どうか…」


ちょうどその時、突然ベルの周辺から鎖が飛び出し、すぐに手足を縛る。


「この…これは…鎖… カリン…お前がどうやって… アイギスの記憶にはなかったが…」


ベルが慌てて身動きも取れない隙を逃さず、カリンがベルに向かって大きく鎌を振る。


「勝者は私だよ! 君は気づくのが遅かった!」


ベルは鎌を落としてばたばたと倒れる。


「この…これは…」


「これ残念だね。 絶好のチャンスだったのに。」


「鎖魔法を得る条件は…」


「そう、鎖魔法を得る条件は大切な人を自分の手で切り捨てること。 リッパーの使命のためなら大切な人も犠牲にできるという意志こそ、この魔法でありリッパーの象徴だ。」


「これは君もできなかったことだ。 でも私はやり遂げた。」


「そ…ところで…」


「そう、あなたが何を言いたいのか知っている。 そして、それは事実だ。 まさにその日、私は到底君を切ることができなかった。」


「…」


「ところで…何か変だと思ったことはないの? ブラフマの封印が解けたまさにその日、世界中にものすごいエーテルが降り注いだが、みんながセイジ一族の祈りが込められた魔法で生き残ったじゃないか? ところで、どうしてアイギスだけが死んだのだろうか?」


「正月…まさか…」


「言ったでしょう? 気づくのが遅すぎたと… リッパーの使命のために大切な人を犠牲にすること。 私はちゃんとやり遂げた。」


「この一撃で私がちゃんと認められるだろう? アイギス様にも、デミス様にも、この世にも。」


カリンは鎌を振り上げ,すぐ隣でうめき声を上げるベルをちらりと見て,再び大きく振り回す。


ベルのうめき声が途切れると、カリンもばたばたとその場に座り込む。


「万歳!ついに! デミス様!アイギス様! 勝ちました。 ついに私がベルを越えました。」


カリンは実感がわかないかベルをちらりと見る。


「ところで何かおかしいな… ベルのエーテルが緑色に輝くとは。」


その時突然不審な気配がして席を立つが、すぐにどこかから飛んできた赤いエーテルで燃え上がる斬撃を正統に受けてはすぐ倒れる。


カリンが息を切らしながら首をかしげると、すぐ後ろにベルが鎌をぐっと向けたまま立っている。


「これがどうやって… ベルが… 二人?」


「気づくのが遅すぎるのはまさに君だ…」


「お前…お前は確かに… 一体…これが…」


森の霧が晴れると、目の前で倒れていたベルも消える。


「幻影…幻影だな…」


「カリン…」


「お前…僕をだましたな…」


「だましてないよ。」


「え?」


「この戦いを始めた時から勝たせてほしいとずっと森に懇願していたが、本当に残念ながら森は答えてくれなかった。 たぶん、私の本心ではないからだろう。 森は本当に欲しいものを見せてくれると言ったじゃない? 森は心をそのまま見せてくれるのでどうしても騙すことはできないと…」


「じゃあ… これは…」


「でも最後に鎌を振り回して君とすれ違う時、僕が思わず祈った願いを森が叶えてくれた。」


「…」


「カリンの本心を見せてください。」


「そ…そんな…」


「あの時、私も私がどうしてそんな願いを願ったのかは分からない。 まだよく理解できない。」


「でも…」


「しかし、確かなのは森が願いを叶えてくれたということだ。 これが君の本心だったんだ。 君は私が鎖に縛られたまま鎌に切り裂かれるのを心から見たかったんだね。 カリン…」


「どうやって…どうやって… 私の本心が私をこんなに完全に騙したということか?」


「そうだね。運命のいたずらか。 あなたの本心がどうやってあなたを完全に騙すことができたのだろうか? いや、もしかしたら… これがあなたの真心を込めた願いだったから、あなたをしっかり信じさせることができたんじゃないかな?」


「そうか…そうか…」


ベルは鎌を落として複雑な表情を浮かべたままカリンにゆっくりと近づく。


カリンは言葉さえまともに続かない。


ベルがカリンをなでる。


「ごめんね… 本当に… カリン…」


カリンは手で地面を掃いて苦笑いする。


「やっぱり私はダメなのかな。 そうだね、認めないと。 全部私の感情が作り出した妄想だった。 そう、そうだよ。 とても羨ましかった。 鎖魔法を使うのも、アイギスに認められるのも、君に勝つのも… 全部ただ本気でやり遂げたかった。 すべてを。」


「この鎌には多くの人の恨みが込められている。 一人一人切り取る度に徐々に積もり、日が経つにつれてこの鎌を持つのがより重くなる理由だ。 この戦いが終わる瞬間は、デミスの鎌が私の首に入ってきた瞬間ではなく、この鎌の重さを私が耐えられなくなった瞬間だろう。 私がこの鎌を持つこともできないと感じる時は、今までやってきたすべてのことに対する責任を負わなければならないだろう。」


カリンはまぶたが重くなり,視界がぼやけているのを感じる。


「そう、相変わらずだね。 君はずいぶん変わったけど、あまり変わってない。」


カリンはかすかな笑みとともに目を閉じ、ベルの余韻が消える前に煙のように消える。


友人が去った席には緑色クリスタルだけがぽつんと残っており、ベルは足の力が抜けて虚しい表情をしながら座り込む。 今一分一秒が急な状況だが、どうしても立ち上がる力が出ない。


「カリン、君の本心が逆だったら、結果もやっぱり逆だったかな?」


「では、カリンが鎖魔法を使うのもただ緑色の感情が作り出した幻想だということか? 結局、アイギスはどうして… 一人で…」


ベルは頭の中が複雑になるとそうつぶやき,カリンの緑のクリスタルをしっかりつかむ。


「君の死は絶対無駄にしない。」


ベルは再び鎌を握ると鎌の重さが少し増えたことを実感できる。


ベルは神殿に向かったカディヤとエルマが思い浮かんで自然に焦る。


ベルは眉をひそめてすぐ席を立つ。 長い旅程をしてくるために心的に、そして肉体的に疲れているが、戦いの終わりが近づいているという気がしてどうしても躊躇できない。


ベルは神殿に向かってまっすぐ走る。 神殿に近づくほど濃い感情で染まったエーテルがさらに鮮明に感じられ、自然に不安感にとらわれる。 まさにその日のゆりかごでそうだったように、エーテル封印魔法が弱くなっていると確信する。 何か問題が生じたに違いないという考えにとらわれて足を遅らせることはできない。 少しでもぐずぐずしてカディヤとエルマに取り返しのつかない悲劇が起きれば、たとえデミスを切り取ってこの戦いで勝者になっても、その罪悪感と後悔を振り払うことはできないだろう。


ベルが神殿に到着すると誰かが現れ、行く手を阻む。


ベルが荒い息を吐きながらとぼとぼと止まる。


予想したが、同時に予期せぬ出会いでもあった。


「バッカス!」


「久しぶりだね。待っていて退屈で死ぬかと思った。 よくここまで来たことを褒めてあげないと。」 バーカスは笑いながら両腕を広げて歓迎する。

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