第38話 女として人生において子どもについて考える年齢

咲希の検査結果が出た。

「子宮内膜増殖症…」

子宮ガンとかでなくてよかったと思う反面、聞き慣れない病名に不安がよぎる。

医師は言葉を続けた。

「この病気の弊害は生理痛の重さなどいろいろありますが、妊娠しづらいこともあります」


やっぱりか…


咲希は薄々感じていた。

避妊をしていない時期もあったし排卵日頃の関係も何度かあったが、過去20年で一度も妊娠しなかったということは、体質的に何か問題があるのでは、と感じていたからだ。

医師からはさらに衝撃的な言葉が。

「栗野さんの場合特殊な型でして…将来的には子宮を摘出したほうがいい場合もあります。今後お子さんは望まれますか?」

「えっ!?」

突然のことに、頭が真っ白になった。

「結婚もしてませんし、年齢的にも難しいかと思っているので、そこまで望んでいるわけではないですが…」

「そうですか」

医師は淡々と説明を続けた。

「退院後もしばらくは服薬治療を行い、定期検診を行っていきましょう。もし妊娠を望まれることになれば治療方針も変わってきますので、またご相談ください」

「…わかりました。ありがとうございます」


病室でひとりになり、あらためて考えてみた。

自分の人生、子どもについて。

正直、子どもなんていなくてもいいと思っていた。

理由は、自分の子供時代の記憶や、親との関係がいいものではなかったから。

周りの子持ちの友人知人をみても、ママ友付き合いや子育ての悩みなど、大変なことしか聞こえてこない。


子どもなんていなくてもいい

自分の人生、自由に楽しく生きていければ


そう思っていたのは、自分に言い聞かせていたフシもある。

恋人である柴田は結婚願望がない。

子どもが嫌いだからふたりの子どもも望まない。万が一子どもができたとしても自分の子として認めないかもしれない。

咲希はそういう人だとわかったうえで交際していた。


でも本当にそれでいいのかな


男と違い、女は身体的問題でタイムリミットがある。

40歳で初産はもう高齢出産だ。

リスクも伴う。


あとになって後悔しないかな


ほしいと思っていてダメだった場合と

最初から心底望まないのでは違う


他の老後同盟メンバーはどうだ

さとこは子供好きで自分の子供もほしいと願っている。

だけどパートナーがいない。

忍はどうだろう?

子供を好きか嫌いかっていうこともあんまり聞かない。

男性とつきあうことも難しいから子供も結婚もあきらめてる。

そんな感じのことを言ってた。


そういえば南井さんはどうなんだろう?

私と結婚をも前提におつきあいをって言ってたけど、子供についてはどう考えてるのかな?

子ども食堂に関心があるってことは、少なくとも子どもが嫌いなことはないだろうけど。

それならなおさら、自分の子どもほしいとか思わないかな。私が産めないかもって知ったらどう思うだろう。


私はどうだろう。

南井さんと結婚を前提におつきあいするってことは、

そういう将来のことも視野に入れて考えたいけど。

家族になることを考えるなら、子どもに対する認識も確認しておきたい。

私も、自分に言い訳しないで、本心とちゃんと向き合ってみたい。


病気になると不安だししんどいけど、小休止してこれからの人生を考えるきっかけとなる。


子どものいる人生が全てじゃない。


世間にはある程度の年齢になるとこちらが子どもいる前提で話してくるような人もいるけど(たまにそれが不愉快だったりもする)


結婚しててもしていなくても


子どもがいてもいなくても


それぞれが尊くて


おたがいが


自分と違う世界を認め合えることが


素晴らしいのではないかと



子ども産んでるから偉いとか


子育て中だから敬いなさいってベビーカーで道を占領することでもなく


仕事してるから偉いって


子どもに夢中な世帯を見下すことでもなく


それぞれのいいところ


立派なところを


称え合えたらいいのにね



咲希の中に

柴田といる時には芽生えなかった感情、

南井の子どもがほしい。

この人に抱かれたい。

家族になりたい。

そんな気持ちが沸き上がっていることに気付き

驚きを隠せなかった。

前の彼氏と似ているから、

という理由でもなく

南井自身の人としての優しさに

惹かれ始めていた。


でももし

南井さんが私との結婚は望んでくれていても

子どもはいらないって思ってたらどうしよう。

そもそも妊娠しづらいこの身体で…

今さら子供を望んでも…


だけど

愛する人の子どもがほしいと思うのは

女として生物としての本能ではないか

ということは

私は今そんな人と出会えたんだ。

それはすごい奇跡みたいなこと。


叶うのは無理かもしれないけど

心の中の願いに蓋をするより

自分の気持ちに素直になれた。

それを誇りに思おう。


病気が教えてくれた。


私はやっぱり、南井さんが好きなんだ。


子どもなんていなくていいと思ってたけど、


そうでもないみたいだ。



咲希の中で


何かが少し


変わり始めていた。


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