第4話 恋愛体質な女

世の中には、妙にモテる女がいるものだ。

彼氏が途切れたことがなく、常に恋をしてキラキラしている。

咲希はそんな女だった。

化粧をしていれば美人だが、すっぴんはかわいい系。

明るくあっけらかんとしたサバサバした性格で、聞き上手の話上手。

多趣味で話題の引き出しが多いので、誰とでも話を合わせられる。

だからこそホステスの仕事は彼女にはうってつけだった。

見た目も若くみえるし、何年経っても指名が減ることもなく、第一線で活躍している。

面倒見が良く人当たりも良いので、競争が激しいこの世界でも後輩達から慕われている。


彼女は数年前、本気の恋をした。

結婚も考え、親にも紹介するくらいだった。

それなのに破局したのは、その男が既婚者だったから。

その事実を知った時は、打ちのめされた。

バレた時男は、よく言うあのセリフを吐いた。

「妻とは離婚を考えている」

叩けば出る埃、子供までいた。

決して見せることのなかったスマホの待ち受け画面は、子供の写真だったことを知ったのは別れる直前だった。

父親によく似た愛娘の幼少時。


あんまりかわいくないね…


こんなにも似るのかと驚くほど父親似。

遺伝子の力、恐るべし。

その男は髪も薄く、三白眼な目で色黒。

決してかっこいいといわれるタイプではないが、とにかく優しかった(最初だけは)

出会った場所は、以前の職場。


後に聞く話によると、男の一目惚れだったらしい。

そいつは元々人当たりの良い性格だが、咲希に積極的に話しかけ自然と仕事の相談などをする間柄になり、自分の気持ちを打ち明けつきあってほしいと告げた。

仕事帰り、冬の寒い時期だった。

ちょうど前の恋が終わったばかりだった咲希は承諾し、新しい恋がスタートした。


大体既婚者は行動のどこかしらにひずみが出るものだ。

休日に会えないとか、周りの人に言わないとか。

周囲に内緒にしておくのは、職場恋愛だからそんなものかと思っていた。


騙されていたのか。

別れた後は、そんな想いがこみ上げた。

自分から好きになったわけではないが、いつの間にか本気になりお熱を上げてしまった。

男女の関係なんてそんなものだ。

常に同じ温度の想いを抱いているわけではない。

好きの比重が大きいほうがしんどい思いをし、苦しくなる。


職場内恋愛は、周りに隠れてこっそり会ったり、人気のないところでイチャイチャしたり、そんなスリルに中毒性がある。

徐々に行動がエスカレートし、大抵そうなると上司にバレたりするものだ。

咲希の場合、男の後輩の密告で、会社にバレた。

ズルい男は、保身を優先し咲希を守ってはくれなかった。

そりゃそうだ、買ったマンションのローンも何十年残っているし、子供の養育費もかかる。

そしてこの男、自分の学歴にコンプレックスがあり、子供の塾や勉強にはお金をかけていた。


会社という組織は、管理職である男を選んだ。

お咎めくったのは咲希のほうで、結局退職に追いやられた。

不倫の代償、大体女のほうが割に合わないものだ。

それ以来、咲希は会社というものを信用していない。

入社時にはもてはやしても、都合が悪くなると簡単に人を切り捨てる。

そして未だに男を大事にするところが多い。

だから、正社員で働くことも、組織の中で生きることも求めてはいない。

自分の力で稼いでいく。

それが、彼女の選んだ生き方だった。


今の彼氏は、店の常連客が連れてきた人だった。

咲希よりひとまわり年上の、会社経営者。

バツイチひとり暮らし。子供ふたりは大学生と高校生で、元妻が引き取って育てているという。

咲希は年上キラーで、つきあう人はほぼ年齢が離れている。

あまえ上手なところが、男ゴコロをくすぐるのだという。

年収1,000万を越えるという彼は、外車に乗りブランドの服を着て、タワマンに住んでいる。

海外旅行にも連れていってくれ、誕生日には指輪とバラのプレゼント。

相当愛されていると一見思われるが、この彼が前出の金持ちだけどケチな彼氏。


さて咲希さんは、今後この彼とどうなっていくのでしょうね…。




恋愛体質なんて言われる人が、ちょっとうらやましい。


忍は常々咲希をみて、会うたびに毎回違う男性の名前が出ることに半分呆れながらも、

「私にもその半端ない恋愛運ちょっとわけてよ」

なんて冗談をいうことしかできなかった。


同じ女でもこうも違うものね…。


私には彼氏なんかできたことがない。

誰にも言ってないけど、そりゃ好きになった人や憧れの人はいたけど、こんな私に好かれてるって知ったらきっと嫌がられるから。

子供の時からずっと、こんな見た目だからからかわれたり、いじめられたりした。

運動会のフォークダンスでは、絶対手を繋ぎたくない女子1位に毎年選ばれた。

容姿に自信がないから、自分から人に話しかけることができなかった。

相手の反応が怖くて。

なのに、そんな私に咲希は遠慮なく話しかけてきた。

ひとりにならないよう、さり気なくいつも一緒にいてくれた。

クラスの男子も、咲希がいると私をいじめる事もなくなった。

まぁそれはみんな咲希と話したいからに決まってるんだけど…。

咲希をみていて嫉妬したり、羨む気持ちもあるけど、

恋バナつきあったり振り回されることもあるけど、

それでも親友だって思えるのはきっと、

咲希はうわべだけじゃなく私のこと本当に友達として大事に思って接してくれるから。

さとこもそう。

私、男には縁がないけど、女子の友達には恵まれてる。

だけどだけど、咲希の恋愛体質、私に少しでもうつってくれたらいいのに。


忍はふと、時にそんな想いがよぎる。

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